「男らしさ」を脱け出そう。墓石メーカーの経営者らが、メンズコスメに参入した理由

「今までのメンズ化粧品は型にはまった、爽快感を売りにしたものばかりでした」
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BOTCHAN
KAZUHIRO SEKINE/BOTCHAN

親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている――。

そんな一文で始まる小説といえば、言わずと知れた夏目漱石の「坊ちゃん」。最近、この名前を化粧品業界で聞くようになった。

BOTCHAN」というブランド名の男性向け化粧品がじわり人気を集めている。

人目をひくパッケージデザインのこの商品、開発・販売するのは大阪で墓石メーカーなどを経営する加登隆太さんと、その思いに賛同した姉の加登愛子さんだ。

化粧をする男性が少しずつ増える中、思い切った異業種参入を果たした2人の狙いは何なのか。愛子さんがハフポストの取材に応じた。

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加登愛子さん
KAZUHIRO SEKINE

――墓石のメーカーである加登さんたちがメンズコスメの分野に参入したのはなぜですか。

ちょっと真面目な話をすると、これから人口構造的にお墓の需要のピークっていうのは、団塊の世代の方が亡くなる10年後です。そこから需要って激減していきます。

普通に見ると、右肩下がりの事業です。そこで何か新しいことをしたいなっていうのは前からずっと思っていました。

お墓って必要なものなんですけど、例えば「マンションの横にお墓できます」って言ったら、忌み嫌われます。言ってみれば「陰」の仕事です。それとは違う「陽」の仕事もしてみたいと思っていました。

――「陽」と言ってもいろんな産業があります。その中で化粧品に注目したのはどうしてですか。

3年くらい前に、化粧品の原料メーカーの方とお話しする機会があって、その魅力に気づきました。自分でも勉強して、やりようによっては事業展開できると感じたのです。

特に現在売られているメンズコスメはだいたい同じような商品が店頭に並んでいて、客は押し付けられているような気持ちになります。

爽快感を売りにするメンソール入りの商品、パッケージも白黒が多い...。女性の化粧品市場と比べると確かにマーケットは小さいんですけど、パッケージも中身も似ているのが気になりました。

だったら今までとは違う全く新しいものが作れると思いました。

――BOTCHANは、メンズコスメと言ってもスキンケアに特化されていますね。アイシャドウ、ファンデーション、リップなどの化粧品を展開されないこだわりはなんでしょうか。

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BOTCHAN商品
BOTCHAN

今、販売している6つの商品の中で、スキンパーフェクター マットが一番特徴的だと思います。これはメンズ用の肌補正クリームです。いわゆるBBクリームとは違って、無色です。塗ると毛穴を目立たなくさせて、テカリを抑えます。化粧はしたくないけど、肌を綺麗に見せたい方にすすめています。素肌以上、ファンデーション未満の商品なんです。

市販のメンズBBクリームは、塗ると化粧をしているとバレてしまうものが多いことに気づきました。でも、多くの男性は化粧をしているとバレたくないんです。化粧は女らしさや女性のものという印象が強いので、メイクすることで後ろ指をさされることを恐れます。まだ偏見が強い分野かもしれません。

でも、化粧をした方が営業の場で印象が良くなるかもしれない。私はもっと気軽な気持ちで化粧をして欲しいんです。これは、女性の化粧下地としても使えますよ。

眉やリップを強調した「女性」がよく使うコスメになると、それはそれで女性コスメ寄りのメンズコスメになってしまいます。ニュートラルにこだわるというか、「男らしさ」「女らしさ」どちらの色も付けたくないと思いました。中立であるからこそ、もっと自由でいられるような気がするんです。

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加登愛子さん
KAZUHIRO SEKINE

――「男性らしさ」から脱けだす、がコンセプトのはずなのに、ブランド名は『BOTCHAN』と男性を想起させるネーミングですね。そのこだわりはなんですか。

今までのメンズ化粧品は型にはまった、爽快感を売りにしたものばかりでした。その型から、1歩、2歩出た、新しいものを作りたい、そう考えた時に夏目漱石の『坊ちゃん』を思い出しました。

『坊ちゃん』の主人公は、当時の社会の規則に上手くフィットできなくて、もがきながら成長していきます。型にはまった「男らしさ」から脱け出そうとしている商品に通じるものがあったのと、男性用として売り出すので、適した名前だと思いました。

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BOTCHANのコンセプト
BOTCHAN、HPより

2人の思いを形に

熱い思いを抱いて異業種に参入した加登さんたちを陰で支えた人がいる。モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトングループのFragrance Brands株式会社 代表取締役社長を務め、化粧品業界を知り尽くした福岡英一さんだ。BOTCHAN誕生の裏側を福岡さんにも聞いた。

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福岡英一さん
KAZUHIRO SEKINE

――福岡さんが、加登きょうだいに会われたのはいつ頃ですか。

2017年の4~5月頃でした。知人からたまたま、「面白いメンズ化粧品を作っている会社があるから、会ってみない?」と言われたのがきっかけです。

東京駅で2人でいらっしゃって、すぐに盛り上がり、BOTCHANに参加することになりました。

僕が出会った時は、BOTCHANの名前とカラフルなボトルデザインはできていたんですが、普通にメンズの化粧品として出そうとしていたんですね。その売り方は、もったいないと思い、ブランディングのディレクションに携わるようになりました。

――もったいないというのは、具体的にどういうことでしょうか。

当時は、男性全般をターゲットとしていました。せっかくここまで個性的なものができているのに、ターゲットがすごくザックリしているなと感じたので、だったらさらに男性の中でも絞りましょうと伝えました。

彼らはものづくりを丁寧にやっていて、いいものを思い切ってつくっていました。大手企業だと、原価率はこれくらいにしようとか、いろんな思惑もあってやるのに、低価格を狙いたいといいながら、中身を開けてみたらすごい。ほとんどオーガニックに近いような仕上がりになっている。

正直、男性に売るのはもったいなさすぎるよ、って思ってしまいました。

化粧品としての素材も非常にクオリティが高かったですし、これがなんでメンズで、こんなカラフルなパッケージで出るんだろうっていうのが、まず最初の僕のクエスチョンだったんですね。

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BOTCHANの商品
KAZUHIRO SEKINE

――男性化粧品のマーケットはどういう動きをしているのでしょうか。

化粧品業界の話をすると、女性の肌の上だけで2兆円くらい売上が伸びているわけですよ。それを皆で取り合いしているわけです、肌の上だけで。

男性は2兆円の5%なので、1000億くらいです。大きくなってきてはいるけれど、比較するとものすごく差があるんですね。

男性と女性の肌の質の違いっていうのはたしかにあるんです。男性のほうがちょっと分厚く生まれてきたりとか、女性ホルモンの関係とかがないので、わりと強い肌を持っています。それにしても、男の人は何もしなさすぎるっていうのが、マーケットとしてあるわけです。

この間記事に出ていましたけれど、顔を洗っていない男性も一定数います。顔を洗わないんだ、と思って。(笑)そういう意味では男性のマーケットはこれから絶対に伸びてくるとは思います。

そんな中、メンズの化粧品をイメージすると、黒いボトルか白いボトル。すごくクールなイメージがあって、シャープなもの。これが「メンズ」だ、という感じで生まれてくるんですよね。そこにBOTCHANが入ったら、どれだけ面白いことになるかな、とピンときました。

BOTCHANを使いたいと思う人達は、今までメンズのコーナーに自分のものがないと感じていた人なんだろうな、と思います。

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businessman in the morning, preparing for going to work
monzenmachi via Getty Images

――黒か白のパッケージしかない、といったように男性化粧品が多様化しないのはなぜだと思いますか。

やっぱり、特に日本は「化粧をする男なんて」っていうイメージがあると思うんです。一方で、僕はフランスの企業にいたので、ヨーロッパのマーケットもよく知っていますけれど、例えばフランスのギャラリー・ラファイエットやボンマルシェなどの百貨店に行くと、1階の化粧品売り場は、その3分の1か半分近くが、メンズの香水売り場になっていて、ものすごく広いんですね。香水を使わない男性がほとんどいない。自分の体臭だけじゃ恥ずかしすぎる、と多くの人が思っています。

女性と男性の美意識の差がありすぎる日本って、マーケットとしてはこれから確実に可能性があるんだろうなという気はしています。

創業者である加登きょうだいのお話を聞くと、「男らしさ」から脱けだそうというのは、「女らしさ」に寄ることではない。そこは二項対立ではないとおっしゃっていたのが印象的でした。

男なのか女なのか、じゃないんですよね。「男らしく」を脱け出そうっていうのは、男性がみんな男らしさを目指す必要はないんだよ、というメッセージになっていると思うんですね。

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福岡英一さん
KAZUHIRO SEKINE

――福岡さんは「男らしさ」というのは、何だと思いますか?

難しい質問ですね。昔は化粧品とかだと、性が男なのか女なのか、その2者だというふうに思っていました。

今は男らしさという、「らしさ」を求めること自体が、若干ナンセンスになりつつあるような気がします。それよりも自分らしさとか、自分が何なのかということにフォーカスしたほうがいいのかな、と思うようになってきています。

最近改めて美容の分野を深掘りしていて、女性のホルモンについてちょっと勉強しているんです。女性医療ネットワークが2002年から開催している女性ホルモン塾というものがあって、「女性外来」の先駆者である対馬ルリ子先生と美容家の吉川千明さんの話を伺いました。

ホルモンとは何かという話を聞いていたら、性別って実際はものすごくファジーに、グラデーションになっていると。個人によって、ホルモンがグラデーションになっている。

グラデーションによって自分の性あるいは「男らしさ」「女らしさ」にちょっと疑問を持つ、みたいな人が出てきているのかなと思います。

ーー私もいろんな業界の方に取材をしていて思うのは、「多様性」を無視してしまうと、どんどん業界もやっていけなくなるんではないか、ということです。

そういうトレンドはあると思うんですけれど、ただ、「多様性」は流行りとかじゃなくて、根源的な話なので、そこに気づき始めた、ということなのかなと思います。

流行ってるから、ということとは全然違う次元の話なのかなという気がします。