日銀、物価上昇実現の不確実性を自ら認める

日銀が26日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)は、2015年度の2%物価上昇実現の不確実性の高さを自ら認めるシナリオとなっている…
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Reuters

[東京 26日 ロイター] 日銀が26日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)は、2015年度の2%物価上昇実現の不確実性の高さを自ら認めるシナリオとなっている。

海外成長率の高まりや政府の財政支出、規制緩和を前提条件に挙げ、物価上昇への波及ルートである期待形成や賃金上昇などの不確実性にも言及した内容は、多くのヘッジをかけて黒田東彦総裁の掲げる目標に向け、何とか筋の通るシナリオを作成したものとも評される。専門家は早くも次回10月展望リポート時にこうした見通しが下振れる可能性も高いとみて、次なる大胆な緩和をイメージしている。

<現実的でない物価見通し、決意表明にすぎず>

今回の展望リポートについて、専門家は2年で2%を達成するという物価目標に向かう道筋に齟齬(そご)が生じないよう、日銀スタッフがさまざまな努力をはらった形跡が見えると、評している。

リポートでは15年度の物価見通しの中央値を1.9%(消費増税の影響除く)と公表した。しかし黒田総裁が会見で明らかにしたように、佐藤健裕・木内登英両審議委員は15年度に2%程度に達する可能性が高いとするCPI見通しに反対している。

専門家は「今回の展望リポートはそれが政策委員全員のコンセンサスではないことがはっきりとした」(バークレイズ証券・チーフエコノミスト・森田京平氏)と受け止めた。

目標達成は相当難しいというのが、当初からの民間エコノミストの一致した見方だ。実際、15年度に至る過程の日銀見通しも、民間よりかなり高めとなっている。消費者物価指数の政策委員見通し中央値は13年度が0.7%で、民間コンセンサスの0.3%程度より強気だ。14年度は消費税込みで比較すると日銀が3.4%で民間の2.5%より大幅に高い。「黒田日銀の決意表明」(第一生命経済研究所・主席エコノミスト・熊野英生氏)と位置づけた方がよさそうだ。

<政策と物価上昇への波及ルート、説明不足に>

注目が集まるのは、マネタリーベースを目標とした政策がどのように実体経済や物価に反映していくのかという点だ。異次元緩和に批判的な経済専門家からは特に、マネタリーベースを2倍にするという手段と消費者物価の間がどうつながっているのかが明確でないと指摘されている。「期待というだけでは非常にあやふやでわからない 」(野口悠紀雄・一橋大学名誉教授)ためだ。

野村総研・金融ITイノベーション研究部長の井上哲也氏は「マネタリーベースとインフレ率の相関は、日銀の新たな政策に対する賛否双方の立場にとって焦点であっただけに、新たなリポートを通じてこの点をきちんと説明し、世の中の理解を得ることが極めて重要」だとみていたが、「その点への説明は結局無理だった」としている。

リポートでは、物価上昇への3つの波及ルートを示している。第一に需給バランス改善による労働需給の引き締まりが賃金を上昇させること、第二に日銀の緩和で中長期的な予想物価上昇率が2%に収れんしていくこと、第三に輸入物価が上昇することだ。しかし、展望リポートはいずれについても「不確実性がある」あるいは「不確実性が高い」と指摘している。

物価上昇の背景となる経済情勢の改善についても、海外経済の成長率の高まりや、政府の経済対策で公共投資が高水準で増加を続けること、そして規制・制度改革による潜在需要の掘り起こしなどいくつもの前提条件を設けている。

井上氏は「前提条件や不確実性を入れることで、いろいろなヘッジをつけて、現実離れした嘘のイメージを何とか回避しようとしている。黒田総裁の目標を維持しながら、何とかぎりぎり筋の通るシナリオにすべくスタッフが努力したある種、真面目なリポートともいえる」と評する。

<予測下振れ時点で追加緩和必至>

日本総研・調査部長の山田久氏は「ゼロ金利制約の下で日銀にできることは、マネーの供給を潤沢に行い、金融資本市場を刺激するところまでだ。それが実体経済に影響していくかどうかの最終的な帰結は、日銀にはコントロールできない要因によって左右される」と指摘する。

物価見通しのハードルが高い上に、その前提条件の不確実性も高く、今後2年間という短期間にインフレ見通しが大きく下振れるような展開になれば、日銀が追加緩和や軌道修正を柔軟に行わざる得なくなる状況も容易に想像できる。経済財政諮問会議でも、展望リポートを公表するたびに日銀は説明責任を問われていくことになる。

JPモルガン証券・チーフエコノミストの菅野雅明氏は、「まずは13年度の予想達成が難しい程度にまでしか物価が上昇していなければ、さらなる緩和があるとみるのが自然だろう」とみる。しかも、「小出しの緩和を嫌う黒田総裁は、次も大胆な緩和を打たざるを得ないだろうが、すでに国債は大規模に買い入れており、他に手立てが乏しい」と指摘、早くも半年で日銀は苦しい展開を迫られるとみている。

(ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志)