1970年のモーターショーで脚光を浴びたものの、そのあと行方がわからなくなっていたBMWのコンセプトカーが、現代の技術を駆使して蘇りました。
時代を勘案しても少々奇抜に思えるこのクルマは、BMW自身がデザインしたものではなく、イタリアのデザイン・ハウスであるベルトーネが、BMWにミッドサイズ・クーペのデザインを提案するために製作したもの。つまり、多少悪目立ちしてでもBMWの気を惹く必要があったのです。
デザインを担当したのは、ベルトーネのスタジオでチーフを務めていたマルチェロ・ガンディーニ(当時31歳)。ランボルギーニのミウラやカウンタック、ランチア・ストラトスにフェラーリ308GT4など、数々のスーパーカーを手掛けたことでも知られる人物です。
「BMWのデザイン言語に忠実でありながら、よりダイナミックで、さらに少々物議を醸すようなクルマにしたいと考えました」と、ガンディーニ氏は当時を回想して語っています。
全体的にはエレガントでクリーンなラインに、居住性も充分に考えられたデザインですが、前面がガラスで覆われた四角いヘッドライトや、BMWのトレードマークを六角形に再解釈したキドニー・グリルなど、挑戦的なディテールも散見されます。
このコンセプトカーはBMWの地元ドイツ・バイエルン州にある有名なスキー・リゾート地から「ガルミッシュ」と名付けられ、1970年のジュネーブ・モーターショーに展示されました。しかし、それから長い間行方がわからず、現在は数枚の写真(それもほとんど白黒写真)が残っているだけです。
BMWグループ・デザインの上席副社長を務めるアドリアン・ファン・ホーイドンク氏は、数年前にこの写真を発見し、もう一度ガルミッシュを蘇らせようと決意します。その理由は「BMWデザインの歴史で欠けてしまった空白を補完するため」。そして現代の自動車デザインに大きな影響を与えたガンディーニ氏に敬意を表し、巨匠の「あまり知られていない作品を人々に思い出させるため」だったといいます。それはビートルズやローリング・ストーンズのあまり知られていない曲をカバーしたいと思うミュージシャンの心境に似ているのかもしれません。
ガルミッシュの復刻には、当時の製作技術を受け継ぐ職人たちのみならず、現代のハイテクも大きく貢献しました。BMWデザイン・チームのスタッフはまず、写真やガンディーニ氏が残していたドローイングを元に、3Dモデリング技術を使ってPCのデータとしてガルミッシュの構造や形状を蘇らせました。それからクレイモデルを製作し、ガンディーニ氏に見てもらいながら細かな修正を加えたそうです。内外装のカラーも、ガンディーニ氏の記憶を頼りに色合わせが行われました。
特に大胆な造形のインテリアを完璧に再現することは、現代の3Dプリント技術がなければ難しかったに違いありません。美しいステアリングホイール、助手席の前に装備された格納式の鏡と小物入れ、ガルミッシュの車名が刻まれたドアのロックノブなどをご覧ください。
ベルトーネとガンディーニの思惑どおり、ガルミッシュのデザインはBMWに少なからぬインパクトを与えたようで、1972年に登場したBMWの初代5シリーズにはその影響が各部に見られます。
今週カリフォルニア州で開催されていた自動車のお祭り「モンタレー・カーウィーク」で、ガルミッシュは約半世紀後に製作されたもう1台のコンセプトカー「ヴィジョン M ネクスト」と並べて展示されていました。自分でも3プリンターを使ってBMWを製作してみたい人のために、BMWはこのヴィジョン M ネクストの3Dプリント用データを公式サイトで公開しています。
(2019年8月19日 Engadget 日本版「BMW、半世紀前に行方不明になったコンセプトカーを職人技と3D技術で再現」より転載)
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