「ブタ」と罵られたアイドル、ダイエット失敗で活動休止に 摂食障害の研究者「危険な演出」と指摘

BiSのプー・ルイさんが活動休止に。「拒食症や過食症になる場合もあるという可能性を一切無視している」と研究者は警鐘を鳴らす。
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Youtube / BrandnewidolTV

女性7人組アイドルグループ「BiS」のメンバー、プー・ルイ(27)が、ネット動画の企画でダイエットに失敗したことを理由に、活動を休止することが9月16日に公式サイトで発表された。

どんな企画だったのか

ことの発端は、「DiET or DiE」と銘打たれたメンバーによるダイエットの企画で、ネット上に動画シリーズが公開されている。

初回の収録が行われたとされる2017年1月時点で、プー・ルイの身長は155.0cm、体重は51.5 kg。BMI値では21.4と「普通体重」(日本肥満学会の定め)の範疇で、決して太っているとは言えないが、マネージャーの男性から「ブタ」と罵られ、やせるように命じられる。

その後、プー・ルイはスポーツジムの「RIZAP」に通い、5カ月後の6月には、ダイエットにいったん「成功」。体重を44.6 kgまで落とした。

しかし、その後7月にはリバウンドによって47.6キロになったことが同じ番組で報告される。プー・ルイは「成功時の体重に戻す」とマネージャーと「約束」するが、達成期限とされた9月時点では45.0 kgで、目標まで0.4 kg足りなかった。

そして、プー・ルイは、「約束を破った罰」として活動休止することが一方的に言い渡される。動画の中では、目標が達成できなかったプー・ルイに対してマネージャーが「やりたくないなら脱退してもイイので」「一生戻ることない」と言って追い込み、彼女がその後泣きじゃくる姿も収められている。

さらに事務所は、プー・ルイを活動休止にしただけでなく、新メンバーの募集を開始。応募要件には、「名前、年齢、住所、身長、体重(これ重要)」と明記されていた。

番組で示されたプー・ルイの体重・体脂肪率の推移

ダイエット前(2017年1月)

体重:51.5kg

体脂肪率:30.7%

ダイエット一時「成功」時(2017年6月)

体重:44.6kg

体脂肪率:21.0%

リバウンド時(2017年7月)

体重:47.6kg

体脂肪率:22.7%

企画終了時点(2017年9月)

体重:45.0kg

体脂肪率:20.5%

ファンからも「やり過ぎ」の声、一方で企画に理解を示す声も

YouTubeで公開された動画のコメント欄には、ファンからも「胸糞悪い」「摂食障害のことわかってない」などと否定的なコメントが相次いでいる。一方で「約束が守れなかったのだから仕方ない」と、企画の趣旨を理解した声もあった。

さらにTwitter上でも、「ちょっとやり過ぎな気がする」「健康的にアイドルやれないとウソになる!」「いいね 押せない」とショックを隠せないファンの言葉が並んだ。

BiSマネージャーの渡辺淳之介さんは、Twitterで次のようにコメントしている。

一人の若い女性を「ブタ」と罵り、その動画を公開することは、視聴者にも「やせ信仰」を植え付けることにならないだろうか。

世界では、欧米の高級ブランドが、若い世代への悪影響を懸念し、痩せすぎたモデルをショーで使わない方針を発表したなどの動きもある。

この企画について、ハフポスト日本版では、文化人類学者として拒食と過食の研究を行う磯野真穂さんに話を聞いた。磯野さんは「危険な演出」と指摘している。

——この企画には問題があるとお考えでしょうか?

日本のメディアは、特に太ってもいないアイドルに対し、ダイエットを課し、それをエンターテイメントとしてしばしば放映します。これに限らず、2010年には別のアイドルグループ「ももいろクローバー」(当時)が公開体重測定をしたり、2016年にはAKB48の峯岸みなみさんがRIZAPでのダイエットに挑戦したこともありました。

アイドルが時には涙を流しながら一生懸命努力し、最後は目標に到達するというストーリーは日本ではウケるのかもしれませんが、なぜそのストーリーをダイエットと結び付ける必要があるのでしょうか。

過剰なダイエットから心身のバランスを極度に崩し、その結果、拒食症や過食症になる場合もあるという可能性を一切無視した危険な演出です。

日本は若い女性のやせすぎが問題になる、先進国では珍しい国です。とにかくやせることが素晴らしく、太ることは悪なのだというメッセージを発し続ける上記のようなメディアは、過度なやせが見られる日本の状況に加担しているといえるでしょう。

——特に問題だと考える演出はどういった点でしょうか?

特に、下記の演出は看過できません。

エピソード1の冒頭にマネージャーとされる男性とのこんなやりとりがあります。

男性:「プー・ルイがただのブタなので、RIZAPで可愛くさせてみようと思います」

男性:「ブタ」

プー・ルイ:はーい (笑顔で)

男性:「ブタ」

プー・ルイ:「ブー」(笑顔で手を振りながら)

ここから読み取れるのは、太るのは自分の努力不足が原因であり、だからこそ「ブタ」と罵られるのは、仕方ないということ。そういわれたら笑ってやり過ごすしかないということです。人の生まれながらの体型は多様です。やせ型の人もいれば、ぽっちゃり型の人もいるでしょう。そのような事実を無視して、一様な基準を強制的に課し、それができなければ活動休止という演出には、気味の悪さを感じます。これはいったい誰を喜ばせようとしているのでしょうか?

——アイドルの「やせすぎ」問題は、一般の女性たちにどのような影響を及ぼしますか。

やせ願望はアイドルだけが作り出しているわけではないので何とも言えませんが、アイドルの体重を参考にダイエットをする若い女性がいることは事実です。

そしてこの動画のように、十分にやせていないことは自分に責任があるのだと思わせてしまうこと、体型をからかわれて嫌な思いがしても、それは笑ってやりすごすしかないというメッセージを発してしまうことは、体型や見た目で悩む女性に追い打ちをかけると思います。

BiSとはどんなグループ?

BiSは、2010年11月から活動を開始した女性アイドルグループ。結成当初は、「アイドルを研究して、アイドルになろうとする、アイドルになりたい4人組」をコンセプトに、振り付けやイベントのブッキングもメンバーが行っていた。2014年に一旦解散、2年後の2016年に、プー・ルイを筆頭に新メンバーで再始動した。代表曲は「primal.」「Hide out cut」など。

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