ビル・オライリー氏
アメリカのニュース専門ケーブルテレビ局「FOXニュース」の人気番組「オライリー・ファクター」の司会者ビル・オライリー氏が4月19日、番組を降板すると、親会社の21世紀FOX社が発表した。
オライリー氏については、ニューヨークタイムズが1日、番組出演者や制作スタッフなど5人の女性にセクハラで1300万ドル(約14億円)を支払っていたと報じ、スポンサー企業の多くが「オライリー・ファクター」の広告CMから撤退していた。
「ビル・オライリー氏が今後FOXニュースに登場することはないだろう」と、21世紀FOX社は19日の声明で述べた。「セクハラ問題に対して入念な調査をした結果、当社とビル・オライリー氏は、ビル・オライリー氏がFOXニュースチャンネルに復帰しないことに同意した」
オライリー氏も19日午後、プレスリリースで正式に発表し、自身の降板は「全く根拠のない主張」によって引き起こされたと語った。
私は、FOXニュースで過去20年以上にわたり、史上最も成功したニュース番組を立ち上げ、進行役を務めてきたことを、非常に誇りに思ってきました。番組は常に一貫して大変多くのアメリカ国民に情報を届け、楽しませてきました。また、FOXをテレビの有力なニュースネットワークの一員にすることにも大いに貢献してきました。全く根拠のない主張が原因で番組を離れるのは、誠に遺憾です。しかしこれが、世間の目にさらされる私たちが受け入れなければならない不幸な現実です。私は常に、私たちが達成した前例のない成功に大きな誇りを抱くとともに、熱心な視聴者の皆さんに深い感謝の意を込めて、FOXで過ごした歳月を振り返ることになるでしょう。今後のFOXニュースチャンネルの発展を祈ります。
オライリー氏の降板は、前FOXニュースCEOロジャー・エイルズ氏のスキャンダルに続くものだ。エイルズ氏は1996年にFOXニュースを立ち上げた人物だが、FOXニュースの女性キャスターだったグレッチェン・カールソン氏に性的関係を迫り、拒否されたら彼女を解雇したとして、2016年7月、カールソン氏からセクハラで訴えられた。エイルズ氏は7月21日、CEOを辞任した。
24日からはFOXニュースのキャスター、タッカー・カールソン氏が「オライリー・ファクター」が放送されていた午後8時枠の番組司会者を務める、と21世紀FOX社は声明で発表した。「オライリー・ファクター」は、19、20日の放送はゲストのダナ・ペリノ氏、21日はグレッグ・ガットフェルド氏の司会で続けられる。
この数日で、50以上の企業が今後「オライリー・ファクター」でCMを放送しないと発表した。
雑誌「ニューヨーク」によると、21世紀FOX社ルパート・マードック会長はオライリー氏の続投を支持したが、息子のジェイムズ氏とラックラン氏が更迭を勧めたという。
21世紀FOX社はエイルズ氏のスキャンダル以降、FOXニュースの刷新を図っているが、ニューヨークタイムズは、同社が非公式にオライリー氏を告発していた女性と和解し、オライリー氏とは年間2000万ドル(約22億円)以上で番組司会者の契約を更新していたと報じた。
オライリー氏の降板で、21世紀FOX社は苦境に立たされている。オライリー氏はFOXニュースの稼ぎ頭で、ゴールデンタイムの看板キャスターだったからだ。「オライリー・ファクター」は、特にケーブルTV局や衛星放送事業者との価格交渉の切り札でもあり、3年間で1億1100万ドル(約120億円)の広告料を稼ぎ出した。
4月18日、マンハッタンにあるニューズコープとFOXニュース本社の外に、FOXニュースTVのパーソナリティ、ビル・オライリー氏に抗議するデモ参加者たちが集まった。DREW ANGERER VIA GETTY IMAGES
しかし、CMのスポンサー企業の多くは、ニューヨークタイムズの報道と、その2日後、「オライリー・ファクター」の出演者だったウェンディ・ウォルシュ氏がセクハラ被害を訴えた6人目の女性として告発会見をしたことから、視聴者からの圧力を感じ始めた。
メルセデス・ベンツが最初にCM取りやめを発表した。「告発は不快な内容であり、当社のビジネスで女性消費者の重要性を考えた時、現時点で当社製品を広告する環境として不適切だ」と、メルセデス・ベンツ社の広報担当ドナ・ボーランド氏は説明した。
「FOXニュースは対応を迫られました」と、メディア監視団体「メディアマターズ」の代表で、Twitterの「ストップオライリー」キャンペーンを仕切り役アンジェロ・カルソン氏は語った。「広告主を失えば、オライリー氏の番組はビジネスとしてやっていけません。責任追及の声は会社内部から起きず、外部からの圧力でした。FOXニュースは称賛されることなく、自社の従業員に忍耐を強制し、会社規模のハラスメントをしたことで批判されるべきです」
オライリー氏が女性に不適切に関係を求め、応じない場合にはその仕返しをしていたと報じたニューヨークタイムズの報道を受け、オライリー氏と21世紀FOX社はともに声明を発表したが、およそ800人いる従業員が匿名で告発に使用できるFOXの社内ホットラインに訴えた者は誰もいなかったと説明している。
ニューヨークタイムズによると、21世紀FOX社は16日、ウォルシュ氏が主張している、オライリー氏からの誘いを断ったために「仕事上の配慮をする」約束を反故にされた疑惑についてポール、ワイス、リフキンド、ウォートン・アンド・ガリソン法律事務所が調査すると発表した。
弁護士のリサ・ブルーム氏によると、FOXニュースの事務職だった匿名のアフリカ系アメリカ人女性が、オライリ-氏が差別的に自分のことを「ホットチョコレート」と呼んだと主張しているという。
レティーシャ・ジェームス市政監督官は12日、FOXニュース本社前で記者会見を開き、同社にオライリ-氏の件を調査するよう求めた。PACIFIC PRESS VIA GETTY IMAGES
ブルーム氏はウォルシュ氏の代理人も務めているが、ウォルシュ氏の件とは別に独立した調査を求める要請書をニューヨーク州人権局へ提出した。
一方で、すでにニューヨーク連邦検事局は21世紀FOX社の調査に着手している。検事局は、エイルズ氏を告発した人に支払った和解金について、同社が投資家へ適切な報告をしたかどうかを調査している。
オライリー氏に関する告発は、今に始まったことではない。オライリー氏にはセクハラ疑惑が付きまとっていた。オライリー氏は2004年、FOXニュースの元プロデューサー、アンドレア・マッキリス氏から起こされた訴訟で和解していた。マッキリス氏は、オライリー氏から「猥褻な妄想やマスターベーションについて話された」と主張していた。
さらにFOXニュースは、以前から広告主だったスポンサー企業の撤退に直面してきた。2009年には、人種間の平等を訴える団体「カラー・オブ・チェンジ」が主導したキャンペーンで、FOXニュースの元司会者グレン・ベック氏が、当時大統領だったバラク・オバマ氏のことを「白人と白人文化に対する根深い憎悪を持つ人種差別主義者」と評したことが非難の的となり、広告主はベック氏の番組から撤退した。
オライリー氏とFOXニュースが今回のスキャンダルを乗り切ることができなかったのは、取り巻くメディア環境が以前とは変化していたからだ。
「これまでは、今のようなSNSの環境はありませんでした」と、「カラー・オブ・チェンジ」の執行役員ラシャド・ロビンソン氏はハフィントンポストUS版に語った。「SNSで誰でもメディアに参加できる時代、人々の興味の速度やテンポは変わりました。企業はTwitterを通じて直接消費者から声を聞いているのです」
しかしロビンソン氏は、オライリー氏の降板があってもFOXニュースの社風が変わることはなさそうだと思っている。
「今日は重要な勝利でしたが、FOXニュースが何十年にもわたって人種差別や性差別を繰り返してきた責任はとっていない」と、ロビンソン氏は19日語った。「エイルズ氏が解雇された後でも、FOXニュースは行いを改めなかったし、オライリー氏が降板したからといって、行いを改めることはないだろう。私たちは引き続きマードック氏に説明責任を求めていく」
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
▼画像集が開きます
(スライドショーが見られない方はこちらへ)