Yahoo!ニュースの中の人や、「ニュース」に関わる人などの声を通じて「"ニュース"とともに働くということ」について探る【ニュース×働く】。第1回目「時短勤務」は社内外からさまざまな反響をいただきました。
第2回目のテーマは「兼務」。週の前半は東日本大震災の復興支援を行う「復興支援室」で「復興デパートメント」や弁当販売業務などに携わり、週の後半はYahoo!ニュース トピックス編集部で編集者として働く、ある「二足のわらじ」社員に話を聞きました。(聞き手/Yahoo!ニュース編集担当・井上芙優)
森禎行(もり・さだゆき)
Yahoo!ニュース トピックス編集部 兼 社会貢献本部復興支援室。
2002年毎日新聞社入社。千葉支局、東京本社経済部・社会部を経て2011年6月ヤフー入社、Yahoo!ニュース トピックス編集部へ。2014年4月から復興支援室兼務。
写真は、岩手県洋野町に出張の際、「南部もぐり」を体験したときのもの。
記者時代に芽生えた「ニュースの役割って何だ?」
井上 Yahoo!ニュースの編集者は報道機関出身者が多いですよね。新聞記者からインターネットのニュース編集者への転身は珍しくない例だと思いますが、2014年4月の人事異動で森さんがYahoo!ニュース トピックス編集部と、ECを活用し事業として東北を支援する取り組みを行う「復興支援室」を兼務すると聞いて、社内でも例がないと驚いたことを覚えています。自ら希望を出して兼務になったんですか?
森 はい、そうですね。
井上 復興支援室と兼務になるまでの経緯を教えて下さい。
森 ヤフーに入る前は9年間新聞記者をやっていたのですが、記者時代を振り返ってみて、自分の中で印象に残っているものの一つとして、「命」に関わるものが大きかったんですね。新人時代は事件事故の取材が多かったですが、取材を通じて出会う方々の多くは、家族や知人を亡くした方でした。そうした方々と向き合い、気持ちを伝える、という仕事を自分なりに精一杯やってきましたが、「もっとできることがあるんじゃないか」と思うこともありました。
記者は、取材先から話を聞いて記事を出したらそこで業務としては終わってしまいますが、それだけではニュースの本当の役割は果たしきれていないと思っていて。もちろん、取材して記事を書くことは非常に意義のある仕事ですが、①「取材して記事を書く」②「ユーザーに届ける」③「ニュースを受け取ったユーザーがアクションを起こす」、これがつながってはじめて、ニュースは役割を果たすのではないか、と思っていたんです。そこで、②をもっと実現するために、膨大なユーザーにインターネットでニュースを届けるYahoo!ニュースに移ろうと決めました。
井上 私も元記者ですが、似たようなことを感じた経験はあります。火災の取材現場で目の前に燃えさかる建物があって、逃げ遅れている人がいる......なのに自分は彼らを助けることが出来ない。二度と同じような被害を繰り返さないために、原因や問題点を取材して世の中に報道しなければいけない、という思いを感じながらも、目の前の人間を救えない自分は結局何も出来ていないのでは......という葛藤を抱いたこともありました。
森さんはYahoo!ニュース トピックス編集部で②のステップに進んで、次は③に進むために復興支援室の業務を希望した、ということでしょうか。
森 そうですね。Yahoo!ニュースの編集者として、「届ける」仕組みづくりに関われることは非常にやりがいを感じていますが、東日本大震災を機に、被災地と継続的につながっていきたいという思いは常にありました。復興支援室は、EC業務を通じて継続して現地の方々と関わることができますので、上司に希望を伝えました。
もちろん、「現場」というのはその場所に行くことだけではなくて、インターネットの中も一つの「現場」だと思っています。被災地そのものの「現場」、インターネットの中にある「現場」、その両方を知ったほうがより伝えられることはあるのでは、と思っていますね。
週の前半は「弁当屋」、後半は「編集者」
井上 1週間の流れを教えて下さい。
森 月曜日と火曜日は基本的に復興支援室の業務、それ以外の日は編集部の業務をしています。他の編集者と同じく、Yahoo!ニュース トピックスの編集をしています。もちろんほかの編集メンバーと同じく、夜勤もあります。
井上 復興支援室では、どのような業務を?
森 当初は記者経験を生かして、「復興デパートメント」に掲載する商品の生産者へのインタビュー記事の作成などを中心に行っていました。モノを売るためにも情報発信が必要ですし、生産者の声をお届けしたり、商品にキャッチコピーをつける、という作業が必要になるので。最近は主に「復興デパートメント」の主体であるECの業務を行っています。福島を中心に東北の価値ある商品を、東北の業者様と協力して販売するための取り組みや手続きですね。
4月からは少し担当が変わりまして、東北の食材を使った弁当の商品開発から販売まで一連の流れに関わる業務を担当します。百貨店の物産展でも販売しましたし、インターネットでも販売しています。さらに、大きな売り上げが期待できる場所で販売できる予定なので、今年度は気合をいれてやっていきたいところです。
「兼務」にこだわる理由
井上 話を聞いていると、復興支援室の業務だけで一週間が終わってしまいそうなイメージですが......。なぜ、そこまでして編集部と「兼務」しているのでしょうか?
森 東北と東京を行ったりきたりと、体力的にも業務的にももちろん大変なこともありますが、両方に籍をおいていたほうが、自分にとっても社内にとっても、より多くの人を巻き込んで仕事ができるのではないかな、と思ったんです。
被災地における報道の重要性についての認識は、Yahoo!ニュース トピックス編集部で編集を専任でやっていた時から今も一環して変わらないです。なので、完全に両足をECに置くよりは、ニュースに片足を置いていたほうが、ニュースの業務での知見を生かしてより新たな発想で取り組めるのではないかと考えています。
井上 つまり、被災地を「伝える」ということ、そしてECを通じた被災地での「アクション」の部分、両方に取り組みたかったということ?
森 そうですね。私はニュースって、「きっかけ」だと考えています。ニュースをきっかけにある物事をユーザーが知って、「ふーん、そうなんだ」で終わるのではなく何か「アクション」につなげたい、と個人的には強く願っています。ECはその「アクション」の一選択肢ではあると思います。ニュースの「入口」から「出口」まで関わりたかった、ということです。
それぞれの業務で意識を切り替える
井上 でも、一つ思うのですが......森さんのようにある程度経験を重ねていて、報道倫理などもしっかり身についている状態でしたら、そういった「兼務」も可能だと思います。例えば入社直後の新卒1年目の社員が教育を受けないまっさらな状態で森さんと同じ業務を任されたとしたら、「自分が担当したショッピングサイトをこっそりYahoo!ニュース トピックスの関連リンクに入れてガンガンPVを稼ごう!」という発想に至ってもおかしくないと思います。
もちろんこれは極端な例えであって、Yahoo!ニュース トピックス編集部の新人は、実業務に入るまでにはニュースを扱う上で必要な知識やマインドについての研修を受けてから編集現場に出ますし、メンバー同士が記事の質や価値判断について入念に相互チェックをして掲出する編集フローを設けているため、実際にそのような現象が起きることはありませんが......兼務をしていると、業務ごとに意識を都度切り替えなければいけない部分もあるので、そのスイッチの入れ替えが大変そうだな、と。
森 私自身も「編集者」でいるときは、他の編集メンバーと同じくニュース編集者として持つべき意識を持って動いています。そこは自分にとっては長年ニュースに携わってきて体に感覚として染み付いている部分でもあるので、自然とスイッチが切り替わるというか......「つらい」とか「苦労」などと感じるところではないですね。切り替えるべき意識はしっかり切り替えた上で、両方の業務を楽しんでいる感覚に近いです。
「記者・編集者はつぶしはきかない」は取り越し苦労?
井上 森さんの話を聞いていて思ったのですが......自分のまわりの記者や編集者から「転職しようにも、自分達の職種はつぶしがきかなそうだからほかのビジネスに手をつけるのは不安だ」なんて声を耳にすることもあるのですが、そういった声をひっくり返すような話ですね。
森 例えばビジネスをする上で「調整する」という業務はとても大事ですが、調整するということは、言い換えると相手のことを考えたり、相手の視点に立ってものを考える、ということだと思います。人の思いをどうまとめて落としどころをつけるかという点では、形はちがうかもしれないけど、編集とマインドが似ている部分もあります。個人的には、さまざまな職種や業務とのコラボレーションを推奨していきたいですね。
井上 「ニュース」の殻に閉じこもるな、ということ?
森 2枚目の名刺、という言葉もありますが、フリーランス・兼業に限らず、同じ会社の中でも2種類の名刺を持ってもいいのでは、と個人的には思っています。もちろん、専門性を磨きあげるという道もあると思いますし、一方で、さまざまな仕事の経験を今後のキャリアに生かすという道もあっていい。さまざまな選択肢があっていいんじゃないかなと思います。
井上 ちょうど今は就職活動が盛んな時期ですが、就活生に向けて一言ありますか。
森 就職活動の時期って、学生は必死にOB訪問をするじゃないですか。でも、社会人になってから、自分の先輩にガッツリ働き方や仕事について話を聞く機会って、世の中でどれだけいるんだろう、と思うことはありますね。就職がきまったら、パタッと先輩に話を聞くのをやめてしまう人もいると思いますが、社会人になってからこそ、どんどん先輩に話を聞いてみると良いのではないかと思います。