私の友人から、最近面白い話を聞きました。
「私たちが住んでいる通りの住人が参加するフェイスブックのグループができたの。通りに住んでいる人だったら誰でも参加できるのよ。近所にどんな人が住んでいるか、SNSで知り合うことができるの。」
彼女によると、それはソーシャル・ストリートと呼ばれる、新しいスタイルの「近所付き合い」で、彼女が参加しているのは、オランダで最初にできたソーシャル・ストリートだそうです。
ソーシャル・ストリートはイタリアで始まり、イタリアだけでなく、ヨーロッパ各国、アメリカ、ブラジルやニュージーランドにも広がっていて、今は400ほどのコミュニティがあるということでした。
(写真: Johannes Verhulststraat - Amsterdam オランダ最初のソーシャル・ストリートができた通り)
イタリアのある夫婦の悩みから始まった
「近所で顔を知っている人は何人もいるけれど、普段は職場で仕事をしているし、近所付き合いにあまり関心がない。」
「近所付き合いでトラブルを起こしたくないので、関わらない方が無難では。」
近所付き合いに積極的になれないのは、日本でも海外でも珍しいことではないようです。でも、
「自分に子どもができて、自分の子と一緒に遊べる友達や自分自身も親しく付き合える相手が近所に欲しい」
イタリアのボローニャに住む、ローラルさんとフェデリコさん夫婦は2歳になる息子を持ち、そのような思いを抱いたそうです。しかし、いきなり面識のない近所の家に行って、ドアのチャイムを鳴らす勇気はありません。
そこで彼らは、フェイスブックで近所の人が参加する非公開グループを開設し、このグループのポスターを作って貼っていきました。当初は、近所の数十人と知り合いになって、子どもの遊び相手が見つかれば、という気持ちだったそうですが、2週間後には93人がページをフォローし、3か月後には500人以上の参加者が集まりました。
ネットからリアルな交流へ
ネットで始まったコミュニティは、「リアル」の生活に変化を起こしていきました。
それまではローラルさんとフェデリコさんは近所を歩いていて、よく顔を合わせる人に出会っても、ほとんどあいさつすることがありませんでした。しかし、ソーシャル・ストリートを始めてから、通りの様子が変わったことに気づきます。通りを行き交う人が声を掛けてくれます。通りに面する家々の窓は開かれ、あいさつを交わす人たちがあちこちにいます。お店では、お店の人とお客さんたちが気さくに会話をしています。
この新しい近所付き合いは、ボローニャの奇跡、とイタリア中から注目され、ソーシャル・ストリートという活動となって広がっていきました。
ソーシャル・ストリートの価値
「使わなくなったベッドがある。誰かに譲りたい。」
「近所で美味しいレストランを見つけたい。」
こうした日常の些細なことの多くは、今、ネット上のサービスで解決することができるようになりました。不要品はネットオークションで売ればいいし、レストランの評判はネットで調べることができます。大抵のサービスを簡単に見つけることができるようになりました。しかし、ソーシャル・ストリートには、そこに「お互いの信頼関係」という、ネット上の他のサービスにはない価値を見出すことができます。
「近所に自分が使わなくなったベッドを欲しい人がいたら、わざわざイーベイで売って遠くまで運ぶなんてバカげているだろう。近所の人に行きつけのお店を教えてもらえたら、トリップアドバイザーの点数を見る必要もないよ。」
もっと困った問題もソーシャル・ストリートで解決できます。
「家のプリンターが壊れてしまいました。今日中に論文を印刷できないと提出期限に間に合いません。誰か助けてください。」
夜にあったこんな緊急の投稿にも、近所の人が助けに来たそうです。近所の人同士が助け合えば解決できることは意外と多いかもしれません。
本当は近所同士でつながりたい
私自身、日本に住んでいた時、近所付き合いはあまりなく、そのことを気にかけてさえいませんでした。でも、自分が子どもを持つようになったり、震災のような災害が起きたり、という経験をして、自分の住む地域での関わりが必要に感じるようになりました。
そうは言っても、日本はヨーロッパ各国と比べて、フェイスブックの普及率が低く、ソーシャル・ストリートの手法をそのまま使うのは難しいかもしれません。
私の友人はこんなことも言っていました。
「明日グループのメンバーが通りの角のカフェレストランに集まることになったの。どんな人たちが集まるのかしら。面白そうだから、家族で行ってみようと思っているのよ。そんな近所付き合いって初めてだわ。面白いわよね。」
ソーシャル・ストリートのようなSNSを利用した近所付き合いは、参加者に役割や義務といったわずらわしさはなく、参加者が自由に楽しめるものなのだそうです。
ネットからリアルにつながる地域住民の信頼関係。ひとつのヒントになるのではないでしょうか。
参考: Social Street
野口由美子 (ブログ Parenting Tips)