まさかこんなはずでは……と、ウォールストリートの投資家たちは思っているのかもしれない。
業績が低迷していたアメリカのゲーム販売店の株が急上昇し、ヘッジファンド会社や空売り投資家達を狂乱状態に陥れている。
数週間前に18ドル(約1870円)だったビデオゲーム販売店「ゲームストップ」の株価は、1月27日に380ドル(約3万9650円)にまで上昇。下落を予想して空売りしていた投資家たちは大きな損失を被った。
この株価急上昇を仕掛けたのは、インターネット掲示板に集まったデイトレーダーたちだ。
ダビデとゴリアテの戦い
この個人投資家とウォールストリートのエリート層の争いを、海外メディアは「ダビデとゴリアテの戦い」と呼んでいる。
巨漢の兵士ゴリアテに立ち向かった少年ダビデは投稿サイト「Reddit」に集まった個人投資家で、ゴリアテは裕福なウォールストリートの投資家たちをさしている。
争いの舞台となったゲームストップは店舗をベースとするゲームチェーン店で、近年ゲーム市場がオンラインに移る中、苦しい経営を迫られていた。
そういった状況や新型コロナウイルスで人々の足が実店舗から遠のくだろうとの考えから、ウォールストリートの投資家たちはゲームストップの株価下落を見込み、同社株を空売りしてきた。
空売りとは下落が予想される株式を借りて売り、予想通り下落した時に買い戻して差額で利益を得る投機のこと。
AP通信によると、ゲームストップはウォールストリートで最も空売りされていた株の一つだった。
しかし1月、ゲームストップがデジタル経験の豊富な役員を迎えると、Redditの掲示板「WallStreetBets」に集まった個人投資家たちが、ウォールストリートのエリートたちに抵抗する形でゲームストップの株価を上昇させ始めた。
これは投機というよりも、ウォールストリートのエリート層を嫌う個人投資家たちのリベンジでもあった。
ゲームストップの株価は1月の初めから、急激に上昇。テスラのイーロン・マスクCEOが26日に「ゲームストック!」というコメントとともにWallStreetBetsのリンクをツイートしたことで、ゲームストップの株価はさらに上昇した。
大きな痛手を被ったウォールストリート
ゲームストップの株が急上昇したことで、ゲームストップ株を空売りしたウォールストリートのヘッジファンド会社や投資家たちは大きな損失を被った。
また、同じく同社の株を空売りしていたメルビン・キャピタルは37億5000万ドル(約3913億円)を失った。
ウォールストリートのエリートを目の敵にする個人投資家たちは、ゲームストップだけではなく、パンデミックで大きな痛手を被った映画館チェーンAMCの株価も260%上昇させ、#SaveAMC(AMCを救え)が、Twitterでトレンド入りした。
株式市場をプライベートカジノ化してきたと批判
このゲームストップ株価上昇を受け、民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員は1月27日、株式市場はウォールストリートの投資家によって私物化されていると批判した。
「(新型コロナウイルスで)何百万人もが失業して日々の支払いに苦しんでいるにも関わらず、株価が急上昇しています。株式市場が実際の経済を反映していないということは、今になって知られたことではありません」とウォーレン氏は声明で述べた。
ウォーレン議員が指摘する通り、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大で失業率が大きく上昇したが、株価は値上がりした。
ウォーレン議員は「ゲームストップ株価上昇にうろたえたのと同じヘッジファンド会社や未公開株式投資会社、そして裕福な投資家たちが、何年にもわたって株式市場をプライベートカジノのように扱ってきました。そしてその代償を多くの人たちが支払ってきました」とも述べる。
2008年にリーマンショックが起きた時にも、ウォールストリートは不安定な金融システムを作ってきたと批判されている。
ウォーレン氏は、証券取引委員会やその他規制当局がもっと早くからウォールストリートを規制すべきだったと述べ、「新政権と民主党が主導権を握る議会は、規制をするべきだ」と訴えた。
同じく民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員も「ウォールストリートの投資家は長い間、私たちの経済をカジノのように扱って来た」とウォーレン氏に賛同。「富裕者に税金を支払わせるべきだ」と強調した。
ハフポストUS版の記事を翻訳・加筆しました。