目指すのは、バーチャルとリアルの二刀流。eスポーツでプロ野球デビューした大学生

始まりはパワプロから。eスポーツ選手が、将来の選択肢になっている

2018年、流行語になるほど注目を集めたeスポーツ。「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームを使った対戦をスポーツ競技にしたものだ。1億円を超える賞金を手にするプレーヤーも出てくるなど、ブームは止まりそうにない。

プロ野球も、日本野球機構(NPB)が、コナミデジタルエンタテインメントと組んで、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ」を11月に始動させた。選考を勝ち抜いた36人の選手が、ドラフト会議を経て各球団に所属。3人1組で、プロ野球と同じようにリーグ戦を戦って日本一を目指す。

パワプロ・プロリーグで北海道日本ハムファイターズの選手として戦ったJOY戦士選手は、社会人野球チームにも所属する野球選手でもある。

バーチャルとリアルの野球に、共通点や違いはあるのだろうか。JOY戦士に聞いた。

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JOY戦士選手
satoko yasuda

■ 始まりはパワプロから

JOY戦士選手がパワプロ(野球ゲーム・実況パワフルプロ野球の略)を始めたのは、小学校一年生の時。実際の野球はプレーしたことがなかったので、やり方やルールはパワプロで知った。

その後、おじいちゃんとキャッチボールをするようになり、先輩に誘われて少年野球チームに入団。「パワプロでルールを覚えていたから、すぐに適応できました」と話す。

少年野球チーム、クラブリーグ、高校野球と野球を続けながら、パワプロも並行して続けた。大学でも野球部に入ったが、投げ方で監督と意見が合わず、辞めて現在は社会人チーム「札幌倶楽部」に所属する。

2018年、プロ野球初のeリーグができると聞き「面白そう」とすぐに応募した。

応募総数は7623人。その中からオンライン予選を通過した192人が、実技試験と面接に進む。JOY戦士選手は最後の36人に選ばれ、ドラフト会議で日本ハムファイターズに指名された。

「子供の頃からファイターズのファンなので、選ばれてすごく嬉しかったです。プレーをする上で、球団愛って結構大きいんですよ。選手のことをよく知っているから、良さを引き出すような使い方もできます」と話す。

野球とパワプロ、同じスポーツでも、似て非なる競技に見えるが、共通する部分はあるのだろうか?

「つながる部分はありますね。例えば配球。eリーグでも実際の野球でも、相手がどんな球を狙っているのか本当に読める時があります。そんな時は『はいドンピシャ〜』って思います(笑)」

「ただ、全く違う部分もあります。実際の野球だと、高めの変化球は普通持っていかれてしまいます。だけどパワプロだと、低めのボールをずっと見ていると、ふわっと高めのボールがきた時に見えなくなることがあるんですよね。普通の野球だと、確実にホームランになるボールなんですけど」

共通する部分も違う部分もあるが、普段はあまりパワプロと普通の野球を別物とはとらえずにプレーしている、と話す。

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eリーグ代表決定戦でソフトバンクホークスと対戦する日本ハムファイターズ。右から二番目がJOY戦士選手。

■ パワプロのために、普段心がけていることは?

パワプロは、実際の野球と違って体をほとんど動かさずにプレーする。早いゲーム展開についていくために、高い集中力が求められる。

JOY戦士選手が、集中力を高めるために心がけているのは、十分な睡眠だという。

「パワプロをやっていて大切だと思うのは、何といっても睡眠ですね。睡眠不足の状態でプレーすると最悪です。先日、2時間しか寝ていない状態でパワプロをやったんですけれど、自分よりランクが低い相手に3連敗しちゃって。高速な動きを続けるので、睡眠が足りないと集中がブレちゃうんですよね」

実際の野球でも体調管理は大切だが、パワプロも、夢中になってついつい深夜までプレーしてしまった...という状況は避けた方が良さそうだ。

もう一つ、JOY戦士が大切だと感じているのは、メンタルの強さだ。eリーグは、大勢の前でプレーする。緊張すると力みが生まれてプレーに影響する。それをカバーするのが、どんな状況でも負けないという強い気持ちを持つことだという。

「点数を取られた場面でも、打ってやろうという強い気持ちをどれだけ保てるかが大事だと感じています。メンタル面での強さが大切というのは、パワプロをやっている人は誰もが感じているんじゃないかな」

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■ 目指すは、eリーグとプロ野球の二刀流

eリーグはすでにポストシーズンに突入している。日本ハムファイターズは上位3チームに残り、e日本シリーズ進出を目指して代表決定戦を戦ったが、ソフトバンクホークスに破れてe日本シリーズへの進出は逃してしまった。

プロ野球初のeリーグを戦い終えて、今後は野球とどう向き合っていきたいのだろう。

「大学3年生なので就活も考えないといけない時期ではあるんですけど、今はやれるところまで野球をしたいと思っています」

「(実際の野球も)プロを目指すというモチベーションがないと、面白くありません。パワプロも、高みを目指したかったということで参加しましたから。若いうちは、できるところまでやりたい」

4年生になったら、プロ野球球団のテストを受けてみようと思っている。そして、パワプロ・プロリーグにも、来年もトライしようと考えている。

「将来はどうなるかわからないけれど、パワプロとプロ野球の二刀流とかできたら、めっちゃ面白いですね」

子供たちの夢が、「野球選手になりたい」から「eリーグの選手になりたい」になる日も遠くないのかもしれない。野球選手に憧れる子供たちに、伝えたいことは?

「入り口はパワプロでもキャッチボールでもどちらでもいいと思うんですよ。野球に興味を持っている人、ルールを知りたいと思っている人には、実際の野球もやりつつ、パワプロもやって欲しいと思います。僕もサッカーゲームでオフサイドを覚えたくらいですから」

「ゲームは、スポーツを教えてくれる先生なのかもしれないですね。やらないのはもったいないと思います。すでに野球をやっている人も、パワプロから何か違う視点が見えて、知らなかった野球の面白さや深みを改めて感じることがあるかもしれません」