サッカーボールは球形なのか:研究員の眼

ワールドカップのサッカーの試合を観ながら、こんなサッカーボールの話題を思い出してみるのも面白いかもしれない。
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Getty Images/iStockphoto

はじめに

いよいよ6月となり、14日から、サッカーの2018FIFAワールドカップロシア大会がスタートする。大会直前で監督解任等の問題もあったが、日本チームの活躍を期待したいところである。

ところで、皆さん、サッカーボールというと、多くの方は白と黒のデザインからなるボールをイメージするのではないだろうか。昨今の試合においては、カラフルなボールが主流になっていて、昔ながらの白と黒のボールを観る機会は比較的限られているのかもしれないが、それでもこの白黒のボールが、サッカーボールだとの印象が強い方が多いものと思われる。

この白黒のサッカーボールはもちろん球形になるように作られているのだが、実はいくつもの平面を貼り合わせたものである。厳密には「切頂二十面体(せっちょうにじゅうめんたい、truncated osahedron)」と呼ばれるものである。白黒のサッカーボールは、この立体に空気を入れて、球形に近づけたものとなっている。

今回は、この白黒のサッカーボールを巡る話題について紹介したい。

サッカーボールは切頂二十面体

「切頂二十面体」と言われると、多くの人は「それって何」と思われるだろう。「切頂二十面体」というのは、「半正多面体(semi-regular polyhedron)」と呼ばれる立体の一種で、正二十面体の各頂点を切り落とした立体である。

ここで、「半正多面体」というのは、凸な一様多面体のうち、正多面体以外のものである。「凸」とか「正多面体(regular polyhedron)」(*1)というのは、大体お分かりと思うが、「一様多面体」の定義は、全ての構成面が正多角形で、かつ頂点の形状が全て合同な立体のことをいう。「頂点の形状が全て合同」というのは、頂点に集まる正多角形の種類と順序が同じ、ことをいう。

定義が大変長くなってしまった。この定義を聞いて、何が何だか分からなくなって、難しいものだと思われた方もおられるかもしれない。そこで、粗い言い方をすれば、正多面体の条件から「全ての面が同じ」という条件を除く事で作られる多面体といえるのではないか。

実は、この半正多面体というのは、全部で13種類しかない。サッカーボール型の「切頂二十面体」はそのうちの1つである。

(*1) 「正多面体」とは、全ての面が合同な正多角形からなり、各頂点に集まる辺の数が全て等しい多面体

切頂二十面体の全ての面は同じ正多角形というわけではない

「切頂二十面体」というのは「正二十面体の各頂点を切り落とした立体」であると述べた。

まずは、正二十面体というのは、各面が正三角形となっている。この各頂点には5つの辺が集まっている。このため、各頂点から各辺まで等しい長さの時点でカットすると、そこには正五角形ができることになる。一方で、3つの頂点をカットされた正三角形は正六角形となる。

多くの方々は、何となく、サッカーボールの白と黒の面は同じ正多角形であると思っておられたのではないだろうか。実は、上記で説明したように、正二十面体の頂点を切り落とすことで、白の面は正六角形、黒の面は正五角形となる。結果的に、「切頂二十面体」は、12の正五角形と20の正六角形の合計32面からなる多面体となっている。

いずれにしても、正二十面体では相当にデコボコがあり、とても球形とはいえないものを、このように頂点をカットすることで、球形に近づけることができることになっている。

正多面体は5種類しかないって知っていましたか

実は、「正多面体」は、以下の5種類しか存在しない。

正四面体(牛乳パック等に使用されていた形)

正六面体(いわゆるサイコロ型である)

正八面体(正四面体を2つ底面で重ねたもの)

正十二面体(12枚の正五角形で構成される)

正二十面体(20枚の正三角形で構成される)

すなわち、一番面数が多いものが正二十面体ということになる。これをベースにした「切頂二十面体」がサッカーボールに使用されていることになる。

正多面体は5種類しかない証明

正多面体が5種類しか存在しないことは、以下のように証明できる。

n角形 の内角の和は、n角形 の1つの頂点と(辺で隣り合わない)各頂点を結んで、図形内部に(n-2)個の三角形を作ることにより、(n-2)×180度となる。従って、正n角形の1つの角度は、(n-2)×180/n 度となる。

ここで、1つの頂点に正n角形がm個集まっている正多面体を考えると、これらのm個分の角の和は360度より小さくなる(360度ということは頂点が平面になることを意味している)。従って、

m×(n-2)×180/n < 360

となる。この式を変形すると、以下の不等式となる。

(m-2)×(n-2)< 4

これを満たすmとnの組み合わせは、以下の5つしかない。

(m,n)= (3,3)正四面体

 = (3,4)正六面体

  = (4,3)正八面体

  = (3,5)正十二面体

  = (5,3)正二十面体

ちょっと余談を  

白黒のサッカーボールは、日本のメーカーのモルテン社が1966年に最初に世に出している。それまでは、茶色のボールが一般的だった。これは、昔のサッカーボールが天然の革から作られていたことによる。

欧州では、芝のピッチで、サッカーが行われたため、これでも問題がなかった。ところが、日本では、昔は土のグラウンドしかなく、茶色のボールは見えづらいということで、土のピッチでも見やすいものとして、白と黒のボールが開発された。

さらに、1960年代までは、12枚ないしは18枚の細長い革で構成されているボールが一般的であった。こうした状況の中で、先に述べたような12の黒の正五角形と20の白の正六角形の32面からなるサッカーボールが開発された。

日本では瞬く間に普及したが、世界的には1970年のワールドカップメキシコ大会において、アディダス社が大会のスポンサーとなり、モルテン社制作のOEM契約による白と黒のボール「テルスター(TELSTAR)」(*2)が初めて公式試合球として採用されたことで、その後世界のサッカーボールの主流となっていった。

因みに、2018FIFAワールドカップロシア大会では、アディダス社の「テルスター18(TELSTAR 18)」が公式試合球となっている。白と黒の2色ではあるが、そのデザインは、アディダス社の説明によれば、「メタリックプリント技術を活用した正方形柄(ピクセル)の組み合わせ」で、「デジタル時代の現代を象徴」したものとなっている、とのことである。

(*2) この名称は、「Star of Television」というコンセプトから来ており、当時テレビのモノクロ放送でもボールが目立つように設計された。

最後に  

実は、半正多面体は「アルキメデスの立体」とも呼ばれ、「半正多面体が全部で13種類しかない」ということは、ギリシアの科学者アルキメデスが証明したとも言われている。

さらに「正多面体」は「プラトンの立体(platonic solid)」とも呼ばれ、ギリシアの哲学者プラトンが5種類しかないことを認識し、そのイデア論において正多面体に大きな意義を与えた(*3)と言われている。

古い時代から、人々はこうした立体に興味・関心を持ち、その研究を重ねていた。人間いつの時代も、根底に感じる興味・関心は時代を超えて共通のものがある、ということだろう。そうした古い時代から研究されてきたことが現代のサッカーボールにも結びついているというのは、何とも楽しい話ではないだろうか。

ワールドカップのサッカーの試合を観ながら、こんなサッカーボールの話題を思い出してみるのも面白いかもしれない。

(*3) なお、「正多面体」が5種類しかないことを証明したのはプラトンではないようである。

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(2018年6月11日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

常務取締役 保険研究部 研究理事