1. いま、こんなことが起きています
発端は、2017年11月に熊本市の市議会でのできごと。緒方夕佳議員は生後7カ月の長男を抱いて議場に入りましたが、議長たちから「ダメ」と言われました。結局、緒方議員は長男を友人に預けてから、出席しました。
緒方議員は厳重注意されましたが、本人は「子育て世代の代表として、子どもと一緒に議会に参加して発言できる仕組みを整えたかった」と訴えています。
この一件を受け、2月21日、それまで市議会の会議規則になかった「議場に入ることができる人の条件」を新たに盛り込んだ改正案が提案されました。
議会で可決されれば、「議員」「市当局の職員」「議長が特に必要と認める者」だけが入れるようにになります。ですが「特に必要と認める者」の部分があいまいなまま。緒方議員が主張するような赤ちゃんの議場入りが実現するかどうかは分かりません。
2. 何が問題なの?
■ 赤ちゃんは「傍聴人」?
市議会の傍聴人規則の中には、「傍聴人はいかなる事由があっても議場に入ることはできない」という部分があります。ですが、母乳が必要な赤ちゃんのいる議員にとって、赤ちゃんは「傍聴人」という扱いになるのでしょうか。
■ 改正案の中身、ここがヘン
改正案の中身には、ほかにも問題があります。改正案では、「行政視察は議員本人以外の者の参加は認めない」と明文化されてしまいました。緒方議員はハフポストの取材で、次のように語っています。
「子育て世代の政治参画が難しくなるような方向性になっていると感じています。私のように子どもを母乳で育てている議員は、(行政視察に)行けなくなってしまいます。2泊3日の日程ですら胸が張りますから、母乳を絞っては捨てて、を繰り返しながらの参加になり、現実的ではありません。議員として、市民の付託を受けた議員としての務めを果たせなくなることを意味します。」
3. 批判の声も
緒方議員が赤ちゃんを議場に抱いて入ったことについて、批判も出ています。
■ 議会事務局の担当者
緒方議員からはこれまで議場に連れて行きたいという申し出はなかったという。「今回のことはいきなりだった。(傍聴人の)規則違反に当たるので認められなかった」と話しています。
■ 赤ちゃんが泣いたらどうするの?
議事進行を乱す可能性も、ないわけではありません。また、「赤ちゃんがかわいそう」との声も。
■ パフォーマンスは迷惑だ
同じ女性から「パフォーマンスは迷惑だ」という声も。特に「私は育休さえ取得せず、子供を犠牲にして働いてきた」「私たちは我慢してきたのだから」という意識を持っている方からの批判が目立ちました。
4. 一方、世界では...
世界に目を向けてみると、赤ちゃん連れの女性議員が議場に入る事例が、各国で広がりつつあります。
2012年にはカナダの議員、サナ・ハッサイニア氏が、生後3カ月の赤ちゃんを連れて庶民院に現れました。理由は、夫の都合が悪く、赤ちゃんの面倒が見れなかったから。彼女はすぐに、赤ちゃんが騒ぎを起こしてで、議長から警告を受けましたが、働く親が毎日直面する困難を表現し議論を巻き起こしました。
「こうしたことが考慮されないと、女性、特に若い女性が政治に関わることを思いとどまってしまうようになります。これは非常に残念なことです」と、ハッサイニア氏は当時語っています。
2017年5月には、オーストラリアのラリッサ・ウォーターズ元老院議員が、議場内で生後2カ月の娘に授乳したことが話題となりました。
ラリッサ議員は「娘のアリアが連邦議会で授乳された初めての赤ちゃんになったことを誇りに思います。議会には、もっとたくさんの女性や親たちが必要です」とコメントしています。
5. SNSではこんな声が...
Twitterでは 、「#子連れ会議OK」というハッシュタグで意思表明が広がっています。
■ ハフポストブロガーからはこんな声も
<田澤由利さん>
「テレワークなど、新しい道具(ICT)を使って、柔軟な働き方を可能にし、それに対応してルールを見直すことが、『YES』『NO』以外の答えを出す第一歩になるのかもしれません」
<駒崎弘樹さん>
「1人の女性市議の勇気ある訴えに対し、『ルールを守れ』『パフォーマンスやめろ』『赤ちゃんが可哀想』と抑圧するのではなく、耳を傾けてはどうでしょうか。そして、何が子どもと子育てしている人たちを排除し、追い詰めているのか。そこに思いを寄せてみませんか」
<黒岩揺光さん>
「自分の政治的主張よりも、その状況でその子どもにとって何が最良の選択なのかを考えることが大事なのではありませんか。今回巻き起こった議論のほとんどは『どんな議会にすべきか?』というそれぞれの政治的主張に終始し、あの状況であの議員の息子さんにとって何が最良の選択だったのかという視点が欠けているように思えてならない」
緒方さんはハフポストの取材に、次のように語っています。
「議員の多くは中高年の男性で、こういう流れとはまったく違う価値観の中で生きてこられた人たちです。だから、その中で議論や反対も当然あります。その中で、進化の方向は変わらずにある。だから、まったくあきらめていません。むしろ、始まったばかりなんです」