DHAを摂ると赤ちゃんの頭が良くなる?

「DHAを摂ると頭が良くなる!」それって本当なのでしょうか?

「DHAを摂ると頭が良くなる!」という話はどこかで聞いたことがあるかもしれません。それって本当なのでしょうか?赤ちゃんやお母さんはどのように摂取するのが一番良いのでしょうか?

DHAは、ω3脂肪酸の1つで、脳細胞や網膜の細胞をつくる大切な成分です。 DHAは体の中でαリノレン酸から合成されますが、αリノレン酸は体内合成ができない脂肪酸で、食事から摂るしかありません。エゴマ油や亜麻仁油、くるみなどに多く含まれており、最近はスーパーでもこういった油を見かけるようになりました。DHAについても、体内合成だけで脳の成長をまかなえるのかはわかっておらず、食事からも摂取することが必要と考えられています。DHAを摂取できる食品は、魚などの海産物です。

赤ちゃんの脳は、胎児期、特にお母さんの妊娠後期から生後1年までの間にかけて、特に急激に発達します。正期産で産まれた赤ちゃんの脳は平均で350gと言われていますが、それが6か月までに約660gになり、1歳までに約950gになります。脳細胞で情報を伝えるシナプスの数は急激に増加し、最大で1秒間に4万個も作られると言われていますが(1)、このシナプス膜の35%がDHAでできているのです(2)。赤ちゃんはお母さんのお腹にいる妊娠後期からDHAを体に貯め込むため(3)、特に早産の子はDHAが不足しやすい傾向にあります。

では、DHAをたくさん摂れば、実際に「頭が良くなる」のでしょうか?

2007年にアメリカとイギリスの研究者がLancet誌に発表した論文では、イギリスのブリストル周辺に住み、1991〜1992年の間に出産予定だった11875人の妊婦さんのデータを解析しています。研究対象者の98%以上は白人です。妊婦さんに1週間でどのくらいの量の魚を食べているか聞き、産まれた子どもの認知機能を調べました。その結果、週に340g以下しか魚を食べていないグループでは、8歳時点での言語性IQが低かったり、行動問題のスクリーニングテストの点数が悪かったりする子が多いことがわかりました。(4)

しかし、2017年にオーストラリアの研究者がJAMA誌に発表した論文では違う結果になりました。2005年から2008年にかけてオーストラリアの5つの産院に通っていた2399人の妊婦さんを2つのグループに分け、DHA800mgとEPA100mgの入ったカプセル、またはプラセボのカプセルを妊娠22週から出産まで飲んでもらいました。産まれた子の18か月、4歳、7歳時点での発達やIQを調べましたが、2つのグループで差は認められなかったのです。

魚やDHAの効果を検証した論文は他にもたくさんあり、効果があったという結果のものもあれば、効果がなかったという結果のものもあります。少数ですが、逆効果だったという論文もあります。それらの結果を合わせて考えると、魚を摂取することは、たとえわずかであっても赤ちゃんの発達に良い影響を与えるようです。

もともとどのくらいのDHAを摂取していたかによって、効果の有無が変わってくる可能性があり、少なくとも、DHAが不足しないようにすることはとても重要です。また、DHAのサプリメントが必ずしも同じような効果を発揮するわけではないようです。魚に含まれるタンパク質やビタミン、セレンなどが良い影響を与えている可能性もあります。

それでは、母乳やミルク中のDHA量はどうでしょうか。現在販売されている主な育児用ミルクにはDHAが含まれているようです。母乳に含まれる脂肪酸の組成は、実はお母さんの食事内容によって変わることがわかっています(5)。DHAをたくさん摂ると、母乳の脂肪分の量はあまり変わらない一方で、母乳の中の脂肪酸に占めるDHAの割合が増加するようなのです。

魚を食べるお母さんの母乳はDHA濃度が高いという研究も複数あります。例えば、ナイジェリアと日本の研究者が行った研究では、ナイジェリア人20人と日本人53人の母乳を調べたところ、脂肪酸全体の中のDHAの割合はそれぞれ0.34%と0.53%で、日本人の方が高いことがわかりました(6)。

また、アイスランドでは暗い冬の間にビタミンDを補給するため、肝油を飲む習慣があるそうです。そこで77人のお母さんの母乳を調べたところ、肝油を日常的に飲んでいるお母さんと、そうでないお母さんの母乳中のDHAは、それぞれ0.54%と0.30%で、肝油を飲んでいるお母さんの方が高いことがわかりました(7)。

さらに、母乳中のDHAに関する106の論文をまとめて解析した研究(8)では、母乳中のDHAが多いのはカナダ北極圏、日本、ドミニカ共和国、フィリピン、コンゴでした。お母さんたちがどのくらいの魚を摂取していたかについてのデータはありませんが、コンゴ以外はすべて海に囲まれ、よく魚を食べる地域です。コンゴにはコンゴ川が流れていて、淡水魚をよく食べるようです。一方でDHAが少ないのはパキスタン、南アフリカの都会から離れた地域、カナダ、オランダ、フランスでした。これらは比較的内陸の国が多く、あまり海産物を食べないことが影響している可能性があります。

DHAサプリメントも母乳中のDHA濃度を上げる効果があるようです。1996年に発表された研究では、お母さんに産後5日目からDHA入りのカプセルを飲んでもらったところ、産後3か月時の母乳中のDHA濃度が上昇していたことがわかりました。DHAの濃度は、飲んでいたDHAの量が多いほど高くなっていました。(9)

妊娠中はもちろん、母乳で赤ちゃんを育てているお母さんも、しっかりDHAを摂取することは大切ですね。次の記事では、どのようにDHAを摂取したらよいのかについて解説します。

1.Innis SM. Impact of maternal diet on human milk composition and neurological development of infants. Am J Clin Nutr. 2014;99(3):734S-41S.

2.Innis SM. Dietary (n-3) fatty acids and brain development. J Nutr. 2007;137(4):855-9.

3.Kuipers RS, Luxwolda MF, Offringa PJ, Boersma ER, Dijck-Brouwer DA, Muskiet FA. Fetal intrauterine whole body linoleic, arachidonic and docosahexaenoic acid contents and accretion rates. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2012;86(1-2):13-20.

4.Hibbeln JR, Davis JM, Steer C, Emmett P, Rogers I, Williams C, et al. Maternal seafood consumption in pregnancy and neurodevelopmental outcomes in childhood (ALSPAC study): an observational cohort study. Lancet. 2007;369(9561):578-85.

5.Francois CA, Connor SL, Wander RC, Connor WE. Acute effects of dietary fatty acids on the fatty acids of human milk. Am J Clin Nutr. 1998;67(2):301-8.

6.Ogunleye A, Fakoya AT, Niizeki S, Tojo H, Sasajima I, Kobayashi M, et al. Fatty acid composition of breast milk from Nigerian and Japanese women. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 1991;37(4):435-42.

7.Olafsdottir AS, Thorsdottir I, Wagner KH, Elmadfa I. Polyunsaturated fatty acids in the diet and breast milk of lactating icelandic women with traditional fish and cod liver oil consumption. Ann Nutr Metab. 2006;50(3):270-6.

8.Brenna JT, Varamini B, Jensen RG, Diersen-Schade DA, Boettcher JA, Arterburn LM. Docosahexaenoic and arachidonic acid concentrations in human breast milk worldwide. Am J Clin Nutr. 2007;85(6):1457-64.

9.Makrides M, Neumann MA, Gibson RA. Effect of maternal docosahexaenoic acid (DHA) supplementation on breast milk composition. Eur J Clin Nutr. 1996;50(6):352-7.

(2018年1月4日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)