2013年3月31日、中華人民共和国「衛生と計画生育委員会」は研究室で確定診断された鳥インフルエンザウイルス(H7N9)の3症例を報告した。2例は上海、1例は安徽省である。そのうち最も早く報告された症例は上海の87歳男性で、同年2月19日に重度のインフルエンザ様症状に見舞われた。同じ症状を呈した第2、3例の症例の発病時期はそれぞれ2月27日と3月15日であった。5月31日に至るまでのわずか2ヶ月内の短期間に、H7N9感染の患者数は133例に達し、そのうち死亡者数は38例となった。初期に報告された上海と安徽省に続き、感染症発生区域はさらに山東省、浙江省、河南省、湖南省、福建省、江西省、江蘇省の7つの省と北京市にも拡大した。その他、台湾でも1例が報告され、当該患者は発症前に江蘇省への渡航歴があった。
2013年夏季は、報告された感染者数は著しく減少し、7、8月の2ヶ月で併せて2症例が報告されている。2013年10月には、第2波の流行期に突入し、この流行状況は2014年の6月まで継続した。2014年6月27日までに、研究室で確認された鳥インフルエンザウイルス(H7N9)感染者は計450例となり、そのうち死亡例は165例となった(第2波流行期間内の発症数と死亡数はそれぞれ317例と127例)。そのうち435例は中国「衛生と計画生育委員会」から報告、4例は台湾疾病予防コントロールセンター(台北センター)から報告、10例は中国駐香港特別行政区健康保護センターから報告された。また、別の1例は中国の旅行者がマレーシア渡航中に発症したため、マレーシアから報告された。全体的に言えば、症例の多くは中高齢者であり、幼児と青少年は比較的少なかった。年齢中央値は58歳(第1波:62歳、第2波:57歳)、男女比は明らかに男性で高かった。当時患者の一部が依然として緊急救護状態にあるにも関わらず、2度の流行期の死亡率はいずれも約36%前後であった。2度の流行期に報告された患者の大多数は重症例で、第2波の流行期間にのみ例外的に1例軽症の幼児症例があった。
2014年6月28日から2014年10月2日までは、流行が沈静化した夏季であるが、合わせて3例の死亡例が報告されており、うち1例は湖南省、他2例は新疆ウイグル族自治区から報告された。これは新たな流行区域県であり、またいくつかの周辺国家に隣接している。
インフルエンザの流行しやすい冬季の疫学的特性によれば、第3波のH7N9の流行は2014年の冬季と2015年の春季に最も再燃しやすい。事実、2015年に入って以降、H7N9の新規発症例は福建、上海と広東省等の府県で継続的に報告されている。
復旦大学公共衛生安全実験室の分析では、2013年の発症例で感染を起こしたH7N9ウイスルのヘマグルチニン(hemagglutinin)H7は現在のその他H7亜類型インフルエンザウイルスと異なると考えており、それらは相対的に独立して変異した経緯がある可能性を認識している。しかし、その内部のゲノムセグメントは近年持続的に東アジアで流行している鳥インフルエンザウイルスH9N2から派生していると見られる。また、そのニューラミニダーゼNAの起源は近年の東南アジア、例えば、韓国と中国のH11N9亜類型インフルエンザウイルスにある。
H6N1の鳥インフルエンザウイルスは野鳥や家畜に感染することがよくあるが、過去にこの種のウイルスによるヒト感染に関する報告はない。2013年5月20日に台湾で第1例のヒト感染H6N1鳥インフルエンザを報告し、患者は回復後退院した。本感染例のH6N1ウイルスA/Taiwan/2/2013(H6N1)に対する系統樹解析によって、ウイルスの8つのゲノムセグメントはいずれも明白な地理的クラスターの特徴を有し、いずれも台湾本土由来とした。分離された時間の経時的推移からみると、その母系祖先の可能性を有す。A/chicken/Taiwan/A2837/2013は、血球凝集素H6の由来となったかも知れない。また、別の研究者によれば、A/chicken/Taiwan/ch1006/04(H6N1)こそH6血球凝集素の由来であり、その他にA/chicken/Taiwan/0101/2012(H5N2)(pb2とPAゲノムの由来)、A/chicken/Taiwan/A1997/2012(H5N2)(Mゲノムの由来)、A/chicken/Taiwan/TC135/2010(H6N1)(PBI,NP,NAとNSゲノムの由来)とされている。
2013年11月30日、江西省で73歳の女性患者が持続的な発熱を訴え、南昌大学附属第一病院に入院した。9日後、彼女は多臓器機能不全により死亡し、その7日後、新たに組換されたインフルエンザウイルスH10N8が彼女の気道サンプルから分離された。これは全世界で当該亜型インフルエンザウイルスからもたらされた最初のヒト感染例である。2014年2月に、もう一例の同じ亜型インフルエンザウイルス感染による死亡病が、再び江西省の南昌大学第一附属病院により報告された。
ゲノムシークエンシング解析によれば、中国大陸で流行したH7N9とH10N8の鳥インフルエンザウイルスは同一起源を有する関係になっている。ウイルス内部の6つの遺伝子セグメントはいずれもH9N2(リンク先の図参照)に由来しており、なおかつH9N2自体は華東、華南における家畜と野鳥中によく見られる鳥インフルエンザウイルス亜型の一つである。
2014年4月、四川省で重症肺炎で死亡した1例の呼吸管サンプル中から鳥インフルエンザウイルスH5N6が検出され、情報筋によると感染した家畜と接触したことが感染の発端となった可能性がある。2014年12月、広東省の58歳男性に重症インフルエンザと疑われる症状が出現した。彼は12月4日に発病し、12月9日に危篤状態に陥ったため病院に運ばれ、2015年1月15日に至るまで、依然危篤状態が続いている。患者は生きた家畜と接触した経緯がある。上述した2例のH5N6感染症例はいずれも独立した事例に見える。しかし最近数ヶ月間に、世界動物保健機関は中国、ラオスとベトナムでいずれも家畜高病原性鳥インフルエンザH5N6の突発と死亡事例を報告されたことを考慮すると、当該鳥インフルエンザが引き起こした高病原性鳥インフルエンザの流行は家畜中ではすでに普通に見られている。
全世界でH5N1の散発または局地的な発生事例は常に出現しており、このため偶然の接触による感染はそれほど珍しいものではない。特にそれらの家畜養殖場とその家庭では、この種のリスクは非常に高い。幸い、ここ数年でH5N1による人間社会への感染傾向は顕著に増加していない。2013年、中国大陸では合わせて2例のヒト感染H5N1症例が報告され、患者はいずれも死亡した。2014年、再び2例のヒト感染症例が報告されたが、患者はいずれも回復した。
2013~2014年、さらに中国大陸で報告または検出されたインフルエンザと鳥インフルエンザウイルスは他にもH9N2、H7N2、H7N3、H5N2、H3N8、H3N2、HIN2とHIN1があり、特に中国の南方地区においてよく発生している現状がある。
(2015年2月9日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)