自動運転の普及を見越したまちづくり-完全自動運転が普及した社会とまちづくり。その7:研究員の眼

現在のまちづくりの方向性は、「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」だ。

現在多くの自治体が、市街地のコンパクト化に取り組んでいる。もう少し正確に言うと、現在のまちづくりの方向性は、「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」だ。

立地適正化計画(*1)で都市機能や居住を誘導して、市街地の密度を高めるとともに、公共交通網形成計画(*2)で公共交通を充実させて、自家用車に依存しない暮らしができるようにすることをめざしている。

改めて断っておくと、立地適正化計画は都市機能誘導区域や居住誘導区域を定めて、新規の開発や供給、あるいは移転を区域内に誘導するもので、区域外の住民を切り捨てるものではない。

それを前提にすると、中心市街地と周辺の居住エリアはなるべくコンパクトに区域を設定して密度を高め、一方で、その外側も含めた既存の居住エリアには、公共交通を隅々まで行きわたらせて人々の移動制約を無くすことが重要だと考える。どこに住んでいても、自家用車が運転できなくても、無理なくお出かけできる状態をつくるのだ。

公共交通の利便性が高まれば、郊外に住む人が増えてコンパクト化への誘導にならないのではないかと危惧する向きもあるが、そうではない。

郊外の公共交通にアクセスする起点のある地域の拠点には、集会施設や店舗などを集約化させ、その拠点周辺にも区域を設定して居住を誘導し、居住密度を高めることは行う。その上で、公共交通を充実させていくことが重要だ。

公共交通網整備の重要性はこれまでも認識されてきたが、多くの場合民間事業者に任せてきた面がある。それでは、赤字路線を切り捨てなければならなくなってしまう。これから深刻な高齢社会を迎える中で、やはり思い切った公共投資を行い、お出かけすることで健康を維持してもらうことを考えるべきである。

財政面で躊躇する気持ちも分かる。しかし、いずれ自動運転が普及すると考えればどうだろう。今から公共交通網を整備しておけば、いずれ自動運転がそれを代替する。

それまでは、運転手を雇用するために必要なコストを行政が負担しなければならないが、完全自動運転が普及すれば、それが必要なくなる。つまり、今こうしたまちづくりに投資することは、完全自動運転が普及した社会になっても全く無駄にならない。それどころか、完全に方向性は一致してくるのである。

(*1) 都市再生特別措置法に基づき、市町村が策定する、都市機能の立地を誘導するための計画。

(*2) 地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に基づき、市町村が策定する、地域にとって望ましい公共交通のあり方を示した計画。

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(2018年3月30日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 准主任研究員