ロンブー・田村淳は「ギリギリを歩くため」44歳で大学を受験する

きょう、どこかの会場で、田村淳はセンター試験を受けている。

1月13日から、大学入試センター試験が始まった。

大学受験に挑むことを公表したロンドンブーツ1号2号の田村淳さんも今日、どこかの試験会場で問題を解いているはずだ。

金曜ロンドンハーツ」などの看板番組で、きわどい表現が持ち味の企画を相次いで打ち出してきた。一方、2017年にはアメリカに会社を設立するなど本業以外にもチャレンジしている。

活動の場を「受験」にまで広げ、その過程をインターネットテレビで番組化するなど、最近は地上波テレビの外での活動にも積極的だ。

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「外」に向かうきっかけは3年前、アメリカのシリコンバレーを訪問したことだった。

■「ムラ」を出て見えたもの

地上波のテレビ局に番組を持つ一方、BSスカパー!、AbemaTVなどの場にも進出している。

地上波のテレビは最近、「コンプライアンス」(法令遵守)が本当に厳しく求められるようになりました。法律を守るのは当然としても、法律の範囲内ならギリギリの表現が許されるのかといったらそうじゃない。法律の中にさらに自主規制を設け、その自主規制の中にさらに自主規制を犯さないためのルールができて、僕のような人間が、どんどん身動きが取れないようになっていると感じています。

日本のテレビ業界は「ムラ社会」だから、暗黙のルールも多くて、みんなスーパーの野菜みたいに、そろった大きさや形で並べられている。でも僕は、ギザギザの一風変わった野菜でいたい。

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BSスカパー!の番組『田村淳の地上波ではダメ!絶対!』
スカパーJST

だからいま、表現方法の幅をさらに広げようとしているところです。自分の能力や夢を「資産」と考えると、従来の場所にとどまらず、いろんな場所に資産を分散して運用した方が、より多くの可能性をつかめると思うから。

そう思うようになったきっかけは、3年前のことです。

その年の夏、僕が一番優秀だと思っていたマネジャーが休みを取ってシリコンバレーに行きました。帰国後ほどなく彼は吉本興業を辞め、文化人のマネージメント会社を設立しました。

彼を変えたものは、何だったのだろう。僕もシリコンバレー周辺の企業を訪問し、そこで働く人たちに話を聞き始めました。

たとえばFacebookで働いている人は、仕事が終わると外に出て、いろんな人たちとどんどん会い、そこで得た気づきを、自分の仕事に生かしていた。自分と異なる分野の人と触れあうことで、自分の感性が豊かになり、会社も、より豊かになっていくのだと聞きました。

日本の芸人のように、仕事の後も芸人同士で飲みに行き、居酒屋で「こんなパターンが今流行っている」「AってボケたらBっていうツッコミがいい」と、仕事の話を延々と話しているのとは真逆の風景だった。

そこから、完全に世界観が変わりました。

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ルール変更で表現手法が先細る中で外の世界を知らないまま、凝り固まった脳みその中で判断して、苦しみながら続けていく必要はないんだ。ぶっ壊していいんだ。無理じゃない方法があるし、無理じゃない見せ方だってあるんだ、と思うようになりました。

日本に戻ってきて、自分と遠い分野にいる人と積極的に交わり始めました。それまで熱心ではなかったFacebookも使い、普通なら出会うことのないような人ともつながりました。そうしたら、キャンピングカーだけを作るおじさんとか、僕にはない発想を持つ人たちと、たくさん出会えるようになりました。

■僕は全員に好かれようとは思っていない

自身の変化は、表現のありようをも変えていく。

シリコンバレーの最初の訪問から帰国してほどなく、BSスカパー!で特番をやることになって、しゃぶしゃぶを食べながらシャブ(覚醒剤)の依存症の経験者の話を聞く企画を提案しました。

覚醒剤は、逮捕者が出るたびにニュースになります。だけど、どうして手を出してしまうのか、なぜ繰り返してしまうのか、自分なりに掘り下げたいという思いがありました。

でも、そこでなぜ「しゃぶしゃぶ」? 社会的課題である「薬物依存症」というテーマを、問題意識だけで伝えようとしても、人は見てくれない。「笑い」「ユーモア」といったエッセンスをふりかけて、ポップなパッケージにしないと興味のない人には届かないんです。

だから僕は、「しゃぶしゃぶを食べながら、シャブ(覚醒剤)の話をする」という立て付けの入り口を作った。すると、それまで関心のなかった視聴者も、おもしろそうなことをやっていると入ってきてくれて、こちらが本来伝えたかったことも理解してくれる。いずれにしても「知らなかったことを知る」という出口は、同じじゃないですか。

依存症の経験者として、元・光GENJIの赤坂晃さんに出演をお願いしました。一度は断られたのですが、僕はあきらめたくなかった。だから、自ら趣旨を説明するビデオレターを撮りました。「番組の最初はおもしろおかしく始めるけれど、それ以降は真剣な覚せい剤の話しかしない」。そう説得して出てもらうことができました。

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この特番からレギュラー化した番組(田村淳の地上波ではダメ!絶対!)が、いま僕が一番全力で取り組んでいる番組です。スカパー!は、見たい人が見たい番組にお金を出して視聴する、という手法をとっている。そういうやり方で、お金を出してでも僕の番組を見たい人たちに支えてもらう方法が、僕自身が一番表現したいと思っているかたちにうまく収まるんです。

僕は全員に好かれようとは思っていない。コアな人たちに支えてもらえればいいと思っています。

■「失敗」で得たことは

自分で製作したテレビ番組もあります。

僕は自分のテレビ局を持つのが夢でした。持ちたい、持ちたいと言い続けていたら、鹿児島県の会社の社長さんが、自分が持っている電波のうち深夜2時から10分だけくれました。好きな番組を作っていい、と。

そこで「日本国憲法TV」という番組を作りました。日本国憲法を読んだことのない芸人やタレントたちに集まってもらい、憲法の第1条からひとつずつ条文を取り上げ、あなたはどう読み解いたのかと聞いていく内容です。

正解はないです。集まった人がその人なりの解釈をすればいい。僕は司会として入りましたが、わかりにくい話を整理はするけれど、話をある方向に導きはしなかった。

この番組、音声に想像以上のコストがかかって2000万円の赤字が出ました。でも、生配信の時代にこんなに音声にこだわる理由もないと、やってみて思いました。同時にテレビに誰も手を出さない理由が分かりました。儲からない。自分がやってみなかったら、分からなかったことです。

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メディアで番組を作る、という手法にこだわっている訳ではありません。

マスクを付けたままお見合いするイベント(マスクdeお見合い)も何度かやりましたし、最近は、生前に「遺書」をビデオレターで作っておき、死後、希望した時期に家族たちに送る「itakoto(イタコト)」という事業を始めました。

「itakoto」の資金をクラウドファンディングで募ったけれど、1000万円の目標額に対して430万円しか集まらなかった。若い世代は、死んだときのことをあまり意識していなかったんだろうと思います。

だけど、おじいさん、おばあさんは関心があって、やりたいけどやり方が分からないという。墓石や線香といった業種の会社に事業を持ちかけたところ、数千万円を出資してくれる会社が現れました。

最初は「資金調達はクラウドファンディングしかない」と思い込んでいたけれど、調達できた資金が目標額に届かないという失敗を経たからこそ、別の一手が生み出せたと思っています。

■したいことができる箱=新会社

11月には、アメリカで新会社「BE BLUE VENTURES」を設立した。

会社を始めたのは、いま日本で所属している「吉本興業」にいる間、できないことが出てきたら、アメリカですぐに始められるような「箱」を作っておきたかったからです。吉本も、僕のアメリカでの活動には文句言えないはずなので。

新会社でやりたいことは目下、模索中です。社名の「BLUE」は「ブルー・オーシャン」のブルー。まだ誰もやっていないことをやるぞ、という決意表明です。

芸能界に今ある、暗黙のルールのがんじがらめには、みんな気付いています。どこかで爆発すると思う。その時に、備えて色々なことをバランスよくやりたい。ビジネスはその一つの手段です。

■「安全な場所」は歩きたくない

2月、青山学院大学を受験する。

それまで、僕は知らないことが出てきても、知ったようなふりをしたり煙に巻いたりして、逃げていました。「コンプライアンス」という言葉も、知ったかぶりでやり過ごしていた。だけど本を読むようになって、「分かっていない自分」に気づくようになりました。

一方、ラジオ番組(田村淳のNews CLUB)に出ていただいた弁護士に、困った案件があると、いつも相談していました。彼女はものごとに白黒をつける能力が本当に高い。その能力の土台が法律の知識だった。僕も彼女のような能力が欲しくなった。

ルールの逸脱が厳しく問われる時代だからこそ、どこまでがルールの範囲内で、どこからが逸脱なのか、それを分ける縁がどこかも知っておきたい。知った上で逸脱とルールの境目の、そのギリギリ内側を歩きたい。大学で手に入れたいのは、そのための知識です。

ルールを知らない人たちは、ビクビクして安全な場所ばかり歩きたがるようになるでしょう。でもそこは、僕の生き方、というか表現者としては、歩きたくはない場所です。

ガードレールに乗って歩く少年って、いるじゃないですか。

見ている方からしたら落ちそうで怖いし、大丈夫か、と言いたくなるような危なっかしさがある。

でも僕はずっと、そんなギリギリの感じを続けたいんです。内側に重心をかけながら。

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青山学院大学を受験する田村さん
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