今、熱海市が映画やドラマ、情報バラエティの関係者から「ロケ地」として、熱い支持を受けています。
フジテレビの月9ドラマ「HERO」の第7話(8月25日放送)、約600万回再生のサントリーのWEBプロモーション動画「忍者女子高生」、映画「機動警察パトレイバー」、情報バラエティ番組など、話題のドラマや映画のロケ地として選ばれる熱海市。メディア露出は熱海市のPRに直結し、宿泊客は前年比で、約20万人増(前年比約7.4%増)という大きな反響があるといいます。
その陰には、熱海生まれ・熱海育ち、熱海市役所 観光経済課 ロケ支援担当の山田久貴さんという、たった1人の"熱海のAD"の存在がありました。山田さんに、なぜ今熱海がロケ地に選ばれるのか、その秘密についてお話を伺いました。
―「熱海 ロケ」と検索すると、熱海市役所 観光経済課「ADさん、いらっしゃい」というページがあがってきますが、こちらの部署ではどのような業務をされているのでしょうか?
■熱海を知り尽くした、たった1人の"現地のAD"
熱海市は、平成24年度から「新生(リニューアル)・熱海」というテーマを掲げ、サンビーチや熱海梅園などをリニューアルし、シティプロモーションを行っています。シティプロモーションでは、「メディア広報(テレビ番組などで熱海が紹介されること)」にも力を入れています。
「ADさん、いらっしゃい」とは、その一環でもあり、熱海市役所 観光経済課の私が担当している「ロケ支援」のことです。一般的に、番組や映画などは、AD(アシスタントディレクター)さんや、制作担当さんが、ロケ地探しからロケ地での撮影交渉、出演者・スタッフの宿泊や食事手配など細かな調整を行いますが、それを"無償"でサポートする仕事です。
私自身が"現地のAD"という意識で、制作会社さんと一緒になって動き、早朝から深夜まで、休日でも対応します。ロケ地の紹介だけに留まらず、ロケ地との交渉や調整、弁当や宿泊施設の手配から、"そんなことまでやってくれるの?"ということまで、"現地のAD"として、徹底的にサポートします。
熱海市がテレビに出ることで観光客が増え、多数のスタッフがロケで滞在いただくことでの、宿泊費や飲食費による経済効果もあります。また私1人の部署だからこそ、ロケ支援に関する権限を集中させることができます。もちろん、このような活動に対する、市民の皆さまをはじめ、市長・副市長、市役所各課の理解があってこそです。
(以下、ホームページより抜粋)
【具体的な支援内容】
1. 番組の企画に見合うネタ(素材)・施設の情報提供
2. ロケ先における一般出演者(その道のプロ等)のご紹介、連絡調整
3. 公共施設における撮影の申請補助
4. ロケバス等の関係車両の移動ルート、待機場所に関する情報と手配
5. 出演者様の着替え・メイク、打ち合わせ場所等のご紹介と手配
6. ロケ弁等のご紹介と手配
7. ロケ中のご宿泊先、打ち上げ会場等の情報提供
8. その他、ロケハンの同行ご案内、ロケの同行・各種手配 etc.
★その他、こんなご要望にも対応・・・!
・ あまり知られていないディープなお店、人などの情報
・ ちょっと凝ったロケ弁や、早朝・夜食の軽食弁当の手配
・ ロケハン中、スタッフ様用お安い宿の情報
・ 各種公共施設の目的外使用の調整
・ 道路使用申請の代理提出、許可証の代理受領
・ 出演者様のご入浴、ご休憩場所の手配
などなど・・・、「えっ!そんなことまで?!」というものまでやります。
―そうした山田さんの徹底したサポートは、制作会社の方から"神対応"(神様のような対応)と言われることもあるそう。「ADさん、いらっしゃい」を始めたきっかけは何でしょうか?
■「えっ!そんなことまで?!」を徹底的にサポート
制作会社の方からの要望は徹底的にサポートします。過去には、ドラマであるホテルに主人公が宿泊するシーンがあり、しかもホテル名が映るという条件が揃ったことで、ホテル側にスタッフ総勢50名の宿泊費と夕食代を負担してもらったこともあります。制作会社は経費を抑えることができ、ホテルや市にとっては宣伝効果があり、両者にメリットがあり、そのような交渉も私が率先して行います。
また、台本の演出が変わって、急遽牧場でロケをしたいということになり、牛やヤギを手配したことも(笑)。急な変更が発生しても、臨機応変に対応します。
■"神対応"がメディア露出を増やす
「ADさん、いらっしゃい」のきっかけは、ある深夜バラエティ番組です。熱海の取材があって、たまたま私が当日ロケの立ち会いをしながら、ディレクターの方に「こんなところもありますよ、あんなところもありますよ」と熱海のスポットを紹介したんです。すると当初その番組は1回だけの放送予定だったのですが、翌月も、翌々月も...と、結果的に半年くらい、熱海の紹介が続いたんです。
そのときに、もしかすると、とことん制作チームの中に入り込んでお手伝いすることで、番組での露出が広がるのではと思ったのがきっかけです。
―実際に、熱海ロケの際に、山田さんの"神対応"を受けたADさんにお話を伺うと...。
旅番組で熱海ロケを行いましたが、山田さんには、地元の方しか知らないグルメや名物おじさんなど、熱海の"知る人ぞ知る"スポットをいくつも紹介いただきました。また、山田さんは市民の方にも顔が広いので、ロケもとてもスムーズでした。ロケの現場では、急に「あれも撮りたい」とお願いすることがあるのですが、すぐに連絡を取って調整いただいたり。あそこまで対応いただける方もめずらしいと思います。本当に助かりました!(旅番組ADのAさん)
―HPを見ると「1年365日、夜間もOK」という文言と、山田さんの「携帯番号」までオープンにされています。ここまで対応する役所の方はあまり見かけないですが、なぜそこまでするのでしょうか?
■制作会社のリズムに合わせる"顧客重視"
市役所に勤める前は、商社など民間企業で働いていました。民間企業の場合、お客様には携帯番号を教えることは当たり前のことですし、お客様が連絡したいときにつながらないと仕事にならないですよね。その延長線上で、市の職員になっても携帯番号を公開しています。
私にとっての「顧客」は制作会社です。制作会社の働くリズムに合わせて、どうすれば満足してもらえるか顧客重視で考えると、自ずと「1年365日、夜間もOK」という対応になります。
■「人とのつながり」がメディア露出を呼ぶ
「市の職員」という肩書があるので、各所と交渉しやすいというのはあります。一方で、「肩書」というよりも、民間企業や役所の他の部署にいたことで、市内の土地勘や事業社と関係ができ、そういった人とのつながりも生きています。真正面から交渉しても難しい場合でも、その施設の有力者にお願いすると「山田さんが言うならいいよ」とロケをさせてくれるということもあります。
制作会社の方から「市の職員なのに、そこまでやってくれるの?」と驚かれることも。そういう意外性を感じていただくことで、信頼感を得る部分もありますね。1つの制作会社はさまざまな番組を作っているので、他の番組でもロケに使ってくれたり、映画やドラマはフリーランスの方が多いので、次から次に案件をもってきてくれたりするので。そうした人のつながりが増えることは、今の熱海のメディア露出にもつながっています。
■「LINE」で迅速対応
ロケなどで、仕事の9割は外に出ているので、制作会社の方との連絡は「LINE」も活用しています。制作会社の方にロケ候補地を確認してもらうときに、「もう少しこういった場所がないか」といった相談も、LINEであればその場で撮影してすぐに送り、確認してもらうことができます。
―そうなんですね。制作会社の方から要望のある「ロケ地」はどのような場所が多いですか?
■「廃校、廃墟、病院」はロケ地のテッパン
情報バラエティ番組は、基本的には、グルメや新しいスポットなどの情報を提供しますが、映画やドラマではロケ地そのものが重要です。ロケ地のテッパンは「廃校」「廃墟」「病院」の3つですね。
廃校など「都内ではなかなか使えず、しかも無償で使えるロケ地」は重宝されます。熱海には、海岸、漁港、お城、大型ホテル、旅館、飲み屋、断崖絶壁、爆破で使える場所など、多彩なロケーションがあります。唯一、現状無いのは工場くらいです(笑)。あるドラマでは、大型ホテルのロビーを「空港」に見立てて撮影したこともあるんです。
熱海は町全体がコンパクトなので、ロケ先からロケ先までの移動も15~20分くらい。1日で多くのカットを撮影することができるのも魅力の一つだと思います。
■新しい情報をキャッチして、新しいロケ地を開拓
最近、開拓したのは「旧・下水処理場」。最近までこれといった活用がされていなかった市の所有する物件ですが、広大な場所で地下倉庫のようにも見えたので、「ここ使えるんじゃないか」と。すぐにLINEで写真を撮って、知り合いの制作会社の担当者に見せたら、「こういうのはセットだとなかなか作れないから、ぜひ使いたい」と。早速、ある映画のロケ地に使われました。
―メディア露出数の増加とともに、観光客はどのくらい増加していますか? また、メディア広報について、地元の方々からの反響はいかがですか?
■宿泊客数は約20万人増(前年比約7.4%増)
「ADさん、いらっしゃい」を始めたのは平成24年度です。その前年度と比較すると、ロケ支援の実績数は約2倍(平成24年度実績:62件)になりました。今年度もロケ支援数は増えて、常に4~5つの案件が並行して動いています。宿泊客数は、平成25年度が約285万人で、前年度と比較すると、約20万人増加(約7.4%増加)しています。
ロケ支援のこの活動は、「制作会社」、「市民」、「役所」にとってメリットがあります。観光客が増えたというのは、町が目に見えて変わっていることがわかります。地元の方々の意識も変わって「このシーズンは例年若い人たちがいないけど、あの番組の効果で増えたね」とか、「若い方が増えた」ということはよく言われます。
50代、60代の方からすると、昔ながらの大きな温泉歓楽街という印象を持たれている方もいるかもしれないですが、若い方はそれを知らないですし、ビーチエリアを見た後に昭和レトロなものが残っている場所に行くのが新鮮といったイメージを持たれているのではないでしょうか。
―今後、熱海市としてどのような展望をお持ちでしょうか? また地域のPRに携わっている方々にアドバイスをお願いします!
■熱海は町全体がテーマパーク。"日本のハリウッド"に
映画やドラマ、プロモーション動画などのロケ誘致を増やしていって、毎日どこかでロケが行われている、ハリウッドのような場所にしたいです。旅行に来たらロケに遭遇して、「熱海でロケが行われているんだ」と目にすることで、満足度やイメージもアップして、リピーターにもつながると思います。
熱海は町がコンパクトなので、町全体が「テーマパーク」のようになるとよいなと思っています。新しいものも、古いものも、きれいなものも、きたないものも、ぐちゃぐちゃに混じっている場所という意味で「テーマパーク」に近いと思います。
理想はメディア露出の際に「熱海」という地名が出て、施設名も紹介してもらうのがベストですが、なかなかそういう条件が揃うのは難しいです。そのときには視点を変えて、大人数で熱海に撮影に来ていただけるということは、宿泊施設や飲食店を利用いただけるので、地域への経済効果につながっていると考えています。
■地域のPRについて
地域のPRで必要なのは、町の特性を十二分に生かすことだと思います。新しいものを作ったりするのではなく、地域が持っているポテンシャルをまずは押し出すことではないでしょうか。
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情報バラエティ番組、映画、ドラマ、プロモーションビデオなどのロケ地探しでお困りの方は、ぜひ山田さんにご連絡を! 今後の熱海にもますます注目です!
[取材・撮影 DIGITAL BOARD / 國枝 至・松尾 雄介]