性的な対象として見られてきたアジア系女性。それが女性たちの命を危険にさらしている

女性はミソジニーを毎日のように経験している。だけどアジア系女性は、さらにもう一枚人間性を剥奪されるような扱いを受けているのです
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ジョージア州アトランタで3月17日起きた銃撃事件の現場の一つ。犯人は3つのマッサージ店で銃を乱射し、8人の命を奪った。そのうち6人はアジア系の女性だった。
THE WASHINGTON POST VIA GETTY IMAGES

新型コロナウイルスでロックダウンが始まった時に、私は日記をつけ始めました。

パンデミック疲れで、数週間後にはやめてしまったのですが、日記にはパンデミック当初に感じた恐怖が書き残されています。

2020年3月22日の日記にはこう書かれています。

「家を出るのが怖い。ウイルスのせいではなく、私の外見がパンデミックの最中は安全とは言えないから」

「外に出るのが怖い。友人や親戚が新型コロナウイルスを非難している。中国に帰れと言われた。ウイルスだけじゃなく、人種差別も抑え込めていない」

パンデミックが始まった頃からアジア系アメリカ人を狙ったヘイトクライムが増えていましたが、ほとんど注目されていませんでした。時々「自分が過剰反応しているのではないか」とか「自分がヘイトクライムに遭う確率はどれくらいだろう」と考えていました。 

日記を書き始めてから約1年後の2021年3月、ジョージア州アトランタにある3つのマッサージ店に白人の男が押し入り、8人を銃撃して殺害しました。犠牲者のうち6人がアジア系の女性で、2人が白人でした。

自分がヘイトクライムに遭う確率がどれくらいなのか。それはヘイトクライムが何かという定義次第だとも言えます。

信じられないことに、アトランタの銃撃事件を重大な犯罪だと捉えていない人も少なくありません。事件の後、保安官は犯人は「セックス依存症」であり、銃撃事件の日は「彼にとってついていない日だった」と説明しました

統計を見ると、アジア系アメリカ人女性が身体的暴力や性暴力の被害に遭う確率が高いことがわかります。アメリカ在住のアジア系女性の21%~55%が被害にあっています

この1年間に起きたアジア系女性への暴力は、アトランタの銃撃事件だけではありません。

アジア・太平洋諸国系アメリカ人(AAPI)への差別や嫌がらせや暴力に対応する「ストップAAPIヘイト」によると、2020年3月19日〜2021年2月28日までに寄せられたAAPIの人たちを狙った犯罪は3795件。被害者のほとんどが女性で、アジア系女性の被害はアジア系男性の2.3倍多いと報告されています

女性が狙われやすいという事実は、驚くことではありません。特にアジア系の女性がアメリカでどのように見られているかを知れば、そのことがよくわかると思います。

私たちは永遠に外国人扱いされています。市民権があるかないか、どこで生まれたのかは関係ありません。どこに行っても、私たちを自分を喜ばせるために東洋からやってきたエキゾチックな存在であるかのように見る人がいるのです。

彼らの目にうつる私たちは、性欲が旺盛なドラゴンレディーか、相手を喜ばせるためのセックスドール。どちらであっても、私たちは性的な対象や物のように扱われます。そしてそのことが私たちを危険にさらすのです。

そういった扱いを、私たちはまるで当たり前のように、数え切れないほど経験しているのです。

以前、免許証を更新しようと列に並んでいた時に、後ろに並んでいた男性から「すみません、もしかしたらあなたは太平洋諸島系の方ですか?」と声をかけられました。

「フィリピンです」と答えると、「ああ、どうりで。私は若い頃にフィリピンに駐留していたんです。人生で最も美しい女性に会いましたよ」と言われました。

彼の目線は私の顔ではなく、胸に向けられていました。すぐ横には彼の妻が立っていました。列はとても長く、彼との距離がとても近かったので、私は列を離れて翌日並び直しました。

他にも、アジア系の女性の体について“知っている”ことを男性から何度も言われてきました。

君のヴァギナは白人の女性よりも引き締まっているはずだよ、それを広げたい。君は本当の悦びを知らない、なぜならアジアには本物の男がいないから。ピンクより甘いチョコレート色の乳首を味わいたい――。

お金を払うからセックスさせてくれと言われたこともあります。その時に言われたのは「フィリピン人の女性がやれることと言ったらそれくらいだろう」という台詞でした。

「目と同じくらいアソコが細いかを確かめる」と言って、スカートをめくられそうになったこともあります。

人種的、性的な中傷を浴びせられて泣いたこともあります。泣いた後に、嫌がらせをした相手は私が泣くのを見たかったのだと気付きました。

そういう男性のほとんどは攻撃的ですが、中には付き合ってくれと懇願する人もいます。彼らは「昔から伝わる中国の性の秘密を耳元で囁いて欲しい」と懇願したり、私を「女王のように扱う」と約束したり、「足下に桜の花を飾る」と申し出たりしました。しかし私が断ると「アジアの女は醜い」と言い捨てて去っていきました。

アジア系女性を性的な対象として見ることが、暴力の大きな原因になっています。

男たちは拒否された時にひどく暴力的になります。アトランタの銃撃犯人は犠牲者たちのことを「取り除くべき誘惑」だと言いました。

女性はミソジニー(女性嫌悪・蔑視)を毎日のように経験しています。しかしアジア系女性は、さらにもう一枚人間性を剥奪されるような扱いを受けているのです。

ミソジニスト(女性を蔑視する人)は女性に向かって「いい胸してるね」と声をかけるかもしれません。アジア系女性の場合、さらに人種差別や性差別が加わり、「ワオ、こんなに大きな胸のアジア系の女性を見たことない」と言われます。

恐怖を感じながら生きる人生なんてまっぴらです。だけど家を出るたびに、不安に立ち向かわなければなりません。だから催涙スプレーを入れるためのポケットがある服を着るようにしています。友人の何人かは、万が一に備えて銃を買おうと思っていると打ち明けてくれました。

悲惨な事件が起きるなんて想像したくもないけれど、姉妹であるアジア系女性が攻撃されたと聞くと、次は自分ではないかと恐ろしくなります。

今、アジア系アメリカ人はかつてないほどの結束を感じています。だけどこんな形で団結したいと思っていたわけではありません。トラウマをシェアすることで繋がるなんて、誰が望むでしょう。

しかしそれが、アメリカで暮らすアジア系女性の現実なのです。私たちはトラウマと苦悩、そして怒りで結束しています。

私たちは自分たちの声がかき消されることに怒っています。生まれてから死ぬまで直面し続ける人種差別やミソジニーが、ほとんど注目されないことに怒っています。6人の女性の命が奪われるまで、この1年間起き続けてきた人種差別が問題視されなかったことに怒っています。

 「なぜアジア系の女性たちが、声をあげ始めたのでしょうか」と聞かれます。

私たちはずっと声をあげてきました。あなたたちが耳を傾けようとしなかっただけです。

ハフポストUS版への寄稿を翻訳しました(翻訳:Satoko Y )。