「先進国はどんどん貧しくなる」 森山たつをさんが語る海外、しかもアジア就職のススメ

海外で働くメリットとリスク、日本にとどまるリスクとは。海「海外就職研究家」の森山たつをさんに話を聞きました。
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森山たつをさん
Taichiro Yoshino

大学生の皆さん、世界で活躍したいですか? そのために今、何をすればいいでしょう。 「海外なんてリスク高い…日本で安定した会社に就職したい」と思ってませんか? でもこれから、日本に残る方がリスクが高いかもしれません。

海外で働くメリットとリスク、日本にとどまるリスクとは。海外での就職や起業を支援するNPO法人「ABROADERS」が大学生を対象に開いたセミナーで、「海外就職研究家」の森山たつをさん(38)の話を聞きました。

森山さんは早稲田大学理工学部を卒業後、外資系IT企業の日本オラクルや日産自動車に勤務。退社して世界を放浪した後、帰国して製造業のシステム構築の仕事に関わりました。「日本からどんどん工場がなくなっていくのに、その工場相手の仕事をしていたら仕事がなくなる。自分も出て行こう」と、アジア各国で就職先を探しながら、体験記をブログにアップし、海外で働く面白さや海外へ出て行く重要さを講演やセミナー、書籍などで伝える仕事をしています。Twitterはこちら

■なぜ、日本人が海外に出て行くべきなのか?

森山さんは、自著を電子書籍で出版したときの経験から語った。表紙のデザインはベトナム人に依頼し、かかったコストは1260円。日本で書籍のデザインに数万から数十万かかると言われるのに比べると格安だ。

「今、日本企業の経費精算などを請け負うベトナムの企業には、日本語能力試験1級、漢検2級、日商簿記3級を持っているベトナム人が、月給3万円で雇われています。これから日本人は辛いなって思いませんか? 同じプレーヤーとして手を動かすだけの仕事をしていたら、ベトナム人の給料は安すぎるから、どんなに精度を上げても、日本人の給与価格帯で同様のパフォーマンスを出すことは厳しい。

でもね、ベトナム人が日本人とまったく同じパフォーマンスでできるわけではない。たとえば日本のお客さんが、日本の新聞販売店について書いた本の表紙を依頼しても、新聞販売店という日本の商習慣がわからないから、満足のいく品物ができない。そこで日本人のマネジャーが『日本の新聞販売店というのはね…』と助言をして、画像を送ってあげる。それによってベトナム人10人分の作業効率を倍にしてあげれば、その分の給料を払ってもいいよね、となる。まだまだ僕らは、今もらっている給料をもらうだけの価値がある。これからの日本人は、そういうポジションを狙わないといけない」

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「今、新車がいちばん売れているのは中国です。次にアメリカ、日本、ブラジル、インド…。上位で、いわゆる先進国と言われているのは日米独ぐらい。新しいものを買ってくれる人は、海外、特に新興国の方が多い。若くて優秀な労働者もいるから、海外に行こうと考える経営者が多くなる。雇われる側も行くしかない。

世界全体では格差はむしろ縮まっているんです。1人あたりのGDPも、日本やEUは徐々に下がって、ブラジル、中国、南アフリカが上がってきている。インターネットがあるから情報の流れは一瞬だし、お金もいつでも海外へ送金できる。インドネシア人や中国人でも同じくらいいいデザインできる人がいたら、同じ報酬をもらう機会を得られる。日本人、アメリカ人っていうだけで高い給料をもらってた人たちのめっきがはがれちゃう。かなりの高確率で、先進国にいる人は貧しくなっていきます」

■めざすはスティーブ・ジョブスか島耕作か

実際に海外で働くためには、どんな道があるだろう。

「『海外で働きたいですか』って聞くと『国・地域によっては働きたい』っていう人がいます。ただ、だいたいこれ、アメリカかヨーロッパなんですよ。仕事があると思います? 新しい車も買ってくれないし、もともと給料の高い有能なデザイナーとかいっぱいいるし、英語ネイティブでしゃべれるし。EUは、日本人や中国人には簡単に労働ビザをあげない。アメリカも似たようなもんです。

だからアジアなんです。新しい工場がどんどんできて、新しい仕事がどんどん増えている。

 ◇グローバル・マッチョになる方法

まず思いつくのが、スティーブ・ジョブスみたいなグローバル・マッチョです。グローバル企業で、世界全体を巻き込む素晴らしい製品を造りたい、という人です。

ハッキリ言ってメチャクチャ難しいです。当たり前ですね。世界中の優秀な人がみんななりたがるからです。最近のグローバル・マッチョの半分以上は中国人とインド人です。10億人以上いる中の、超優秀で超ハングリーな奴らが死ぬ気で勉強するから、先進国の奴らは勝てません。ハーバードとかオックスフォードとか、世界の有名な大学のMBAとか持ってないと入社は難しい。さらにアメリカの会社はえげつないです。失敗の押しつけ、足の引っ張り合い、そういう社内政治を英語でしなきゃいけない。覚悟を持ってやらないといけないです。

ちなみに、日本人で日本の大学に入っちゃった人は難しいけど、ひとつルートがあります。日本の外資系企業に入る方法です。僕は日本オラクルという会社に新卒で入りました。六十数人同期がいたんだけど、そのうちの数人が、アメリカのオラクルで働いてます。会社の中の転籍ならビザも下りやすい。

大学生ってみんな、就職活動をして入った会社がゴールだと思ってるんです。全然違うんです。入ったあとが戦いなんです。まず日本の外資系企業に足場を置いて、そこから戦いが始まる。本社に転籍しても、そこもゴールじゃない。自分がやりたい仕事を探して、勝ち取っていかなきゃいけない。結構大変です。でもその一個一個のプロセスが意外に楽しかったりします。

 ◇ジャパニーズ・ビジネスマンになる方法

もう1つは島耕作です。えっ、皆さん知らないの? 日本の初芝電機という会社に新卒で入って、社内で戦いながら社長に上り詰めた人の話ですよ。

日本のビジネスマンとして海外で働くのはどうでしょう。日本の多くの企業は、トップは日本人じゃなきゃ嫌だっていうんです。だから日産がカルロス・ゴーン社長になり、ソニーがハワード・ストリンガー社長になっただけでニュースになるんです。日本人にとって、トップになりたい、世界中を股にかけた仕事をしたいときは、日本企業の方がライバルが少なくて楽なんです。

「社長・島耕作」を目指しても目指さなくても構いませんが、日本人が日本企業の海外支社で働く方法は二つあります。駐在員と現地採用です。

駐在員は給料がメチャクチャいいです。危険手当とか、メードさんを会社が雇ってくれたり、超高級マンションをあてがわれたり。ただ、いつ飛ばされて、いつ帰らされるか、どの国に行かされるかもわからない。日本の企業ってやっぱり新卒を大切にするので、できたら新卒で日本のグローバル企業で働く方が得ですが、そんなに簡単に日産やトヨタやソニーに新卒で入ることはできない。海外で働きたい人も山ほどいて、結構みんな優秀です。そもそも会社が超デカいから、まったく関係ない部署に配属されることもある。

たとえば自動車関係でインドネシアで働きたいという目的があるなら、もっと小さい、インドネシアに工場がある部品会社を探せばいい。浜松や静岡の部品会社は、日産やトヨタに着いていって、自分たちもインドネシアで部品を生産しないと食っていけなくなってる。だけど誰も行きたがらない。マイホームを買って35年ローンを組んだ瞬間、やめられない状態にしてから海外へ飛ばすわけです。

自分のめざす業界のホームページで、事業所一覧や年表を見て、インドネシアに工場がある会社を選べばいいんです。『御社はインドネシアの事業を拡大していることを知りました。インドネシア語も勉強していて、まだまだですけど○級取りました』と言ったら、人事部は『本当に行きたいらしい。採ろうかな』と思うはず。

現地採用は、給料は駐在員よりはるかに低いですが、どこの国に行くかも、いつまでその国で働くかもすべて自分で決められる。現地の人材会社に行けば、それなりに仕事も紹介してくれます。面接とかも8割方、日本語でできます。なので1~3年くらい日本で働いてからでも全然遅くない。英語を勉強したり、いろんな国を見て知識を広げたり、準備をしてから行くことをお勧めします。

ちなみに、現地採用から本社の社長になるのはちと難しいです。野心のある人は、現地のトップや外資系企業へ転職してのグローバル・マッチョを目指しましょう。

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■いちばん大事なのは「サバイバル力」

実際どんなスキルが求められるのか。森山さんはスキル、語学力、サバイバル力の3つをあげる。「英語はしゃべれた方がいいし、いろんなものを食べられて汚い街に慣れておくと選択肢も増えます。外国人を怖がらないオープンマインドを持って、日本でも働ける日本的ビジネススキルを持っておく。これが組み合わさると、世界中どこでも働けるからお得です」

 ◇「日本人的ビジネススキル」が重要

「まずは『スキル』。プログラムが組める、海外と貿易する書類が作れるといった以外に、〝日本人的ビジネススキル〟もあります。おっちゃんを飲みの席でいい気持ちにさせるスキル、時間をきっちり守って会議に出席するスキル、空気を読んで言っちゃいけないことを言わないスキル。日本語がしゃべれる外国人はいっぱいいるけど、日本人的ビジネススキルを持ってる外国人は少ないんです。だから日本の会社で働いてから海外に行った方がいい。

そして『語学力』。世界中の仕事はとりあえず英語で回ります。英語ができれば海外求人の7~8割ぐらいは応募できます。現地語はできればかなりプラスになります。

アジアで働くのであれば、高い語学力は必要ないです。もちろんレベルが高ければ高いほどいい。アメリカとかイギリスで働くなら、ネイティブ並みの表現力や語彙力、正確な文法も必要ですが、アジアはあまり問われません。なぜなら現地の人もみんな下手だから。TOEIC600~700点くらいあればいいかなー、と、現地の人は苦々しい顔で言います。

 ◇24時間戦えますか? 無理っす!

そして『サバイバル力』。日本というのは世界でも圧倒的に住みやすい国なんです。水道管も破裂しないし、おつりもちょろまかされない。あまりにも裕福なところで育ちすぎているから、他の国で働けないんです。だから他の国で働ける日本人は得なんですよ。ライバルが少ないから。

僕はカンボジアでカレー店をつくる『サムライカレープロジェクト』というのをやっています。15万円払ってカンボジアの首都プノンペンに来てくれれば、誰でも小さなカレー店の経営に参加できるんです。

カンボジアは何でも市場で買うしかない。英語が通じないから気合で会話しないといけない。正確な文法や単語よりも、不正確だし足りないけど何とか通じさせる力の方が使える。最初はジャパニーズカレーがいまいち受けなかったから、向かいのカンボジア人のおばちゃんに、現地のカレーの作り方を習いに行った。専門家はどこにでもいる。こういうことを、僕は学んでほしい」

ある日、3日後までに100人前作る必要が生じた。寝る時間を1日3時間に削るのはいやだから、森山さんは従業員にヒントを出した。「カンボジア人の時給は1ドルぐらいです。このお店の前にはヒマそうなおっちゃんがうろうろしてます。さあ、あとは皆さん考えてね」

「帰って来たらカンボジア人がカレーを混ぜていた。そのうち『うちのかみさんも呼んできていいか』と言い出す奴が出てくる。いつの間にかカンボジア人の主婦が、カンボジア人スタッフを仕切りだす。自分たちで全部やろうとしちゃいけない。いかに優秀なマネジャーを見つけてきて任せるかが仕事の肝なんです。

自分が何時間も寝ないでやるっていうだけの考え方だったら、これから辛い目に遭う。別のソリューションがある、こういうことを考えられる人がこれから絶対有利です。

海外で働くって超大変そうじゃないですか、でもカレー店は現地で6歳の子でもやっている。たいしたことはないんです。やってみればそういう感覚が分かる。

■できない理由を言い訳する前に、どうすればできるかを考えよう

ある事業家と話をしました。彼はベトナムとインドネシアと中国で事業をやっています。事業を任せられる人はどんな人ですか?『何かがうまくいきませんと報告する人はだめです。うまく行かないから○○してもいいですか?と提案できる人です』。こうなるためには、それまでにいろいろな経験をすること。自分である程度のスキルを持つ人。で、前向きに行動する人です。できない理由を考える前に、どうすればできるか考えるくせをつけてほしい」

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参加した学生は「英語力って大事だなと思った。リスニングと音読を今日から勉強しようと思う」(大学4年、女子)、「思ったことを速実行に移すことが重要なんだ」(浪人生、男子)、「まだ就職が決まってないんですけど、悩んでばっかりいないで、手を動かすのも大事だなと思いました」(大学4年、女子)といった感想を話していました。

十数年前、日本の新聞社に就職して、ずっと国内で働いてきましたが、去年ハフィントンポストに移ったら、ニューヨークから突然スタッフがやってきて「英語でスピーチして」と言われる会社で面食らいました。「世界」はある日突然やってきます。日本人にとって、世界はもっと身近になるでしょう。否応なしに海外に出るケースも増えるでしょう。大学生が切実に、サバイバル力をつけて生き抜いていけるよう願っています。

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