ASCが環境に配慮したブリ・スギ類の養殖基準を公表

2016年10月には、生産の90%を日本が占めるブリ・スギ類の養殖の認証基準を新たに公表。海の自然を守りながら取り組む、ブリの養殖が始まろうとしています。

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世界各地で増え続ける養殖水産物。今や全ての水産物のおよそ半分が、この養殖水産物で占められています。しかし、養殖は時に、餌や薬品による汚染や、餌となる天然魚の乱獲、養殖魚が野外へ逃げ外来生物となる問題を引き起こします。こうした問題に対応するため、ASC(水産養殖管理協議会)では、環境配慮の国際基準を設け、世界の養殖業の認証を行なっています。2016年10月には、生産の90%を日本が占めるブリ・スギ類の養殖の認証基準を新たに公表。海の自然を守りながら取り組む、ブリの養殖が始まろうとしています。

ブリ・スギ類の養殖の認証基準をASCが公表

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さまざまな魚や貝などを人の手で育てる養殖業が近年、世界的に生産高を伸ばしています。しかし、餌(飼料)の与えすぎや養殖魚の排泄物による周辺の水質悪化や、餌となる天然魚の過剰利用といった、海の環境と生物多様性に悪影響を及ぼす例が懸念されています。

その解決のため、ASC(水産養殖管理協議会)では、環境や地域社会に配慮した、責任ある養殖業の認証基準を順次、魚種ごとに策定、公表しています。

2016年10月下旬には、新たにブリ・スギ類の養殖の認証基準が公表されました。 これは、ティラピア、パンガシウス、サケ、エビ、マス、二枚貝、アワビなどに次ぐ、8つめの認証基準になります。

世界の養殖ブリの90%は日本で生産されているため、今回の基準には、日本の関係者の声が多数反映されています。

この認証が広く利用され、日本のブリ養殖が環境と社会に配慮した、責任あるものへと転換されることには、国際的にも大きな意味があります。

養殖基準の策定プロセス

ASCの認証基準は、ASC自身が養殖基準を作成するのではなく、「水産養殖管理検討会」と呼ばれる円卓会議が執り行ないます。

この会議には、科学者(研究者)、生産者、飼料メーカー、NGOなどが運営委員として参画。

公開での議論と、パブリックコメントでの意見募集を行なった後、養殖基準をとりまとめ、出来上がった基準をASCに移管します。

そして、ほかの魚種の養殖基準との間に齟齬が無いか、調整などがなされた上で、ASCによって世界に向けて公表されます。

今回のブリ・スギ養殖の基準作りに際しては、計4回の水産養殖管理検討会が開催されました。 特に、具体的な養殖基準案を吟味する第3回は、ブリ養殖の盛んな日本の関係者の声が取り入れられるように、東京で開催。

そこでまとめられた養殖基準(第二案)は、2013年10月に鹿児島で行なわれた第4回検討会で、国内外の関係者によって議論され、パブリックコメントの募集も行なわれました。

そして2015年2月、ブリ・スギ類養殖管理検討会による養殖基準が完成。ASCでの調整が行なわれ、今回公開されることになりました。

ASCはこの1年の間に「監査マニュアル」を用意。パイロット監査で養殖基準を実際に適用し、認証を行なう際の課題を洗い出すなど、公表に向けた準備を進めていました。

また、検討会の運営委員の一人であったWWFジャパンも、多くの利害関係者に広く検討会への参画を呼びかけ、日本の養殖関係者の積極的な意見表明を促すと共に、パブリックコメントの募集などにも取り組みました。

公表された基準のポイント

ASCの養殖基準は、次の7つの項目を満たすものとなっています。

1.法令順守

2.自然環境および生物多様性への悪影響の軽減

3.天然個体群への影響の軽減

4.責任ある飼料の調達

5.養殖個体の健康の適切な管理

6.養殖場の責任ある管理運営

7.地域社会に対する責任 

そして今回公表されたブリ・スギ類の認証基準では、特に下記の点が注目されるところとなりました。

1.天然魚の使用率を下げるなどえさの原料調達について厳しい基準が設けられた

2.養殖魚の脱走の防止と管理措置を定めた

3.病害虫の適切な管理方法を定めた

4.養殖場周辺の環境汚染の防止が盛り込まれた

5.野生動物が養殖場に侵入した際の対処法が整備された

日本をはじめ、世界でブリ・スギ類の養殖を手掛ける業者が、この基準を満たし、認証を取得することで、海の自然と地域社会への配慮が進むことが期待されます。 

日本における期待

今回のブリ・スギ類の養殖基準策定の作業を通じて、ASCの必要性について日本国内関係者の意識が高まったとWWFジャパンでは考えています。 

WWFジャパンで水産プログラムを担当する前川聡は、次のように述べています。

「ブリ類の世界生産の9割を占める日本において、養殖管理検討会(アクアカルチャー・ダイアログ)が開催され、パイロット監査が実施されるなど、多くの日本の関係者の協力を得て、グローバルなASCスタンダードが策定されました」

「また、一つの成果として、ASCが求める責任ある養殖に対する理解を日本で浸透させることができました。今後、認証の取得を視野に入れた、日本のブリ養殖の実際の操業(オペレーション)改善が進むことを期待します」。

また、今回の基準に則ったブリ・スギ製品には、店頭で販売される際に、ASCの認証ラベルが付けられます。

その製品が自然に配慮したものであることを、消費者が一目でわかる仕組みです。

こうした認証製品が広まれば、販路拡大にも寄与するとの期待が、生産者や流通に関わる業界の間でも大きくなっています。

すでに海外からASCの認証製品を輸入、販売してきた、イオンリテール株式会社の水産企画部部長松本金蔵氏は、次のように述べます。

「ASCブリ・スギ類養殖基準が策定されたことを歓迎します。日本で消費量の多いブリ類が仲間入りすることで、消費者にASC認証をより身近に感じてもらうことができるでしょう。国内最大手の水産物取扱い企業として責任を持って、調達された水産物をできるだけ多くの消費者のみなさまに提供し「次の世代に豊かな食文化を引き継ぐための取組」として更なる拡大に力を注ぎたいと考えています」

こうした企業、NGO、生産者などの努力は、ASCの掲げる「責任ある養殖業」の発展と確立につながるものです。

WWFはまた、このような認証制度などを利用し、養殖業を環境配慮型の産業に転換していくことは、世界の水産業全体を持続可能なものにし、海洋環境を保全する上でも、欠かせない条件であると考えています。

★2016年10月1日現在:認証取得した養殖場の数:334か所(申請中105か所)、認証製品数:6559製品・56か国

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