4月29日から5月8日まで開催されている、セクシュアル・マイノリティが前向きに生きられる社会の実現を目指す「東京レインボープライド2016」。今年のテーマは「Beyond the Rainbow ~LGBTブームを超えて~」だ。LGBTという単語が日常で聞かれるようになった昨今、ブームの先には何があるのか。フランス人女性と国際同性結婚をしているタレント・文筆家の牧村朝子さんに話を聞いた。
■LGBTは「当事者」だけの問題ではない
――ここ数年、LGBTという言葉を耳にする機会がずいぶん増えましたよね。
もうすっかり時事用語になりましたよね。WHO、NATO、LGBTみたいな(笑)。私がいわゆるカミングアウトをしたのは4年前ですが、当時はどこかで書いたり喋ったりするときにLGBTって言葉はそのまま使えませんでした。解説を添えてくださいとか、別の言葉に言い換えてくださいとか言われました。
でも今は雑誌の特集がLGBTだったりする。NHKも使ってるし、国会質問にも出てくるし、法務省はLGBTQって使ってますけど、すごいですよね。広がりが。
――LGBTへの理解が広がることは望ましいことだと思いますが、逆に危惧していることはありますか。
LGBTという言葉が人間の種類の名前だと思わないでほしい、ということです。きっとこの先、LGBTニュースメディアやLGBT向け商品などがどんどん登場してくるでしょう。でもLGBTについて勉強していくと、あることに気づくと思います。結局、LGBTって言葉が指しているものは性のことであって、肉体を持って生きている限り、性について当事者じゃない人はいないということ。
たとえば、同性愛嫌悪の強い国では「お前はゲイだ」と言われて殴られたり、死刑にされたりすることがある。でもその被害を受けているのは、必ずしもゲイの人とは限らないんです。ゲイに見える人、ゲイだということにされた人である場合だってあるんですよ。
――LGBTかどうかは重要ではない、と。
海外の例じゃなくても、今では日本でもLGBTに対するいじめ問題の研究や啓発活動がされていますよね。それは大切な素晴らしいことですけど、でも「LGBTの人たちを守ってあげよう!」目線では根本解決しないんですよね。「あいつ、ゲイでもないくせになよなよしやがって」とか「ノンケのくせに私たちLGBTの何がわかるの!?」みたいなことが、「あの人たちLGBTを理解してあげよう」と指差すような風潮の中では、生まれてしまいますから。
だから私は「LGBT当事者」という言葉はなるべく使わないようにしています。男/女らしくないからおかしい、って結局は性のことでしょう? 望む望まざるに関わらず全員が部外者ではないんだ、ということは意識していかないといけないと思います。だから「LGBTの人たちの問題」という風に切り分けて見ないほうがいいのではないでしょうか。
■「フランスに比べて日本は~」論法は使いたくない
――牧村さんは2012年からフランス人のパートナーと同性婚をしていますが、日本とフランスで生きやすさの違いを感じることはありますか。
制度上のことは大きいですよね。たとえば私と彼女が一緒に家を買いたいとなったときに、日本で共同名義で住宅ローンを組むことは大変難しい。そういうことはあります。でもだからといって、「フランスは愛の国だから寛容。それに比べて日本は!」みたいな物言いの論法を絶対に私はしません。
フランスでも「ゲイだから」というだけの理由で殴られて顔パンパンになっている人、家から追い出された人、水をかけられる人、殺される人だっている。どこの国にいるかということじゃなくて、どんな人とどういう風につきあうか、自分がどう物事を見るかに尽きると思います。だから日本で抱えている問題がフランスに行ったら解決した、あるいはフランスの問題が日本で解決したという風にはあまり思いません。
■「(不)可能な子供、朝子とモリガの場合」で感じたこと
――メディア芸術祭アート部門優秀賞を受賞した「(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合」では、牧村さんとパートナーのモリガさんの遺伝子を解析してふたりの子供の姿が映像化されていましたね。賛否両論を巻き起こした作品でしたが、どんな心境でしたか。
あれをやっているときっていうのは……やっぱりすごく、感傷的でしたね。自分が妊娠しているような気がして、本当にこの子がここにいる気がしていた、というか。あんまり虚実の区別がなくなって、すごく感情が動く体験でした。
でも今はアルバムを閉じた感じです。アート作品として受け止められるようになりました。モリガは徹頭徹尾、「これはアート作品だから」と言っていたんです。「私の子どもにこれから会うんだとか、そういう気持ちは持っていない。でもアートとしての作品は楽しみだね」と言ってくれて。その考え方が私を救ってくれましたね。
■家族という共同体は、そんなにも「性別」が重要ですか?
――2016年4月にはアメリカ全州で同性カップルが養子を迎えることが合法になりました。子供を持つ、養子を迎えるなどの選択肢は現時点でありますか。
今は考えていません。それは私たちが同性同士だからということが理由じゃなくて、単純にお互い今は仕事を頑張りたいので。そもそも今、所属事務所の女子寮で暮らしているので、さすがに寮で子どもは育てられませんよね。
――日本でも2015年に渋谷区・世田谷区で同性パートナーシップを認める取り組みが始まりましたが、これからの日本の結婚・家族制度に望むことは。
やっぱり一回きちんと同性婚というものも含めて、今の日本の結婚制度がどうしてそんなに「性別」にこだわりまくっているのか、ということは改めて見直さないといけないと思います。女が16歳、男が18歳という婚姻年齢や、夫婦別姓の問題などについてもそうですよね。
話し合った結果として「それでも女16、男18でこれからもいきます」という結論に達したのならまだいいんですよ。でも「そういうもんでしょ?」という感じで続いてきただけにしか思えないので。公的な場でも、私的な場でも、話し合いが足りていないのではと感じています。
ふたりの人間が協力しあって、家族として生きていくことに、そんなに性別が関係あるのかなあ、って私は思っています。
(後編は5月6日に掲載予定です)
牧村朝子(まきむら・あさこ)
1987年生まれ。タレント、文筆家。日本で出会ったフランス人女性と婚約後、フランスの法律に則って国際同性結婚。レズビアンであることを公表して各種媒体に出演・執筆を行っている。著書に『百合のリアル』、『同居人の美少女がレズビアンだった件。』(漫画監修)がある。
「同性愛者」という言葉が誕生した背景と、それに翻弄されてきた人々の悲喜劇をユーモアを交えながら綴った新著『同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル』(星海社新書)を上梓。Twitter:@makimuuuuuu
(取材・文 阿部花恵)