「秋になってもまだ30度を超えるというのは、ちっちゃい頃は考えられなかったこと。本当にびっくりしてます」と語るさかなクン。朝日地球会議2024「想像しよう2100年の地球 私たちは何をする?」での一幕です。
2100年まで、あと76年。日常的に「今年の暑さはおかしいよね」という挨拶が交わされるなか、私たちにもできることはあるのでしょうか。東京海洋大学名誉博士/客員教授のさかなクン、公益財団法人旭硝子財団理事長/AGC株式会社取締役兼会長の島村琢哉さん、朝日新聞科学みらい部記者の市野塊さんが話し合いました。
未来といえば「ワクワク」?それとも
「未来」と聞いて浮かぶイメージも、時代とともに変化しているかもしれません。
島村さんは「子どもの頃、未来という言葉には非常にワクワクする思いがありました。最近はあまりにも身の回りに環境の危機的な状況が起きているので、ワクワクから不安に変わりつつあると感じています」とコメント。
さかなクンも「僕もちっちゃい頃はワクワクするな〜、どんな未来があるんだろうと、大きな夢のようなものがありました。だけど今は、これから未来はどうなっていくのかなというドキドキに変わってきてる。そんな思いです」と続けました。
テクノロジーや宇宙開発などの「発展」を期待する一方、気候変動と環境問題への懸念から「不安」が大きくなってきた現状があります。
将来世代ほど過酷な気候
2人の不安を聞いた市野さんは2100年の地球を取り巻く状況について解説。「科学者らでつくる国連の組織であるIPCCの報告書によると、将来世代ほど過酷な気候が待っているそうです」(市野さん)。
環境省による未来の天気予報も紹介しました。「東京や大阪は40度を超えているし、札幌でも40度を超えてしまう状況になるかもしれません。二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーも登場する一方、インターネットやAIなどを支えるデータセンターに大量の電気が必要になるともいわれています」(市野さん)。
さかなクン「見方を変えていけば、いい循環に」
2024年上半期の日本近海の海水温は、1982年以降で過去最高となっています。そこで、魚の専門家であるさかなクンが自筆のイラストとともに現在の状況について説明しました。
「海の生き物は環境の変化にとても敏感なので、私たちに今、身をもって教えてくれているのではないかなと思います。海が健康であれば海藻がたくさん育っていわゆる海の森を作ってくれますが、近年の水温上昇で海藻が育ちにくくなって、魚もよく育ちません。海藻がなくてかわいそう、という状況になっています」(さかなクン)。
また、魚の生息域の変化も指摘。温かい海で暮らしていたはずのアイゴという魚が東京湾で増え、冬期はあまり活動していなかったウニが冬も活動することなどで、育ちにくい海藻がさらに食べられてしまう問題も。
「海藻が豊富にないと、ウニちゃんはエビやカニの脱皮の殻とかいろんなものを食べます。そうすると人間がウニの殻を割って食べようとした時『あらら美味しい身が全然入ってない、身が少ない』となってしまうんですね。そこで神奈川県の先生方が流通規格外品のキャベツをウニに食べさせる研究をされたところ、とても美味しいウニが育って、キャベツウニという名前で人気になりました。ものの見方を変えることがいい循環につながるいい例だと思います」(さかなクン)。
「ブループラネット賞」と環境への取り組み
さかなクンの言葉をヒントに、議題は「私たちができるアクション」に。そこで紹介されたのが、ブループラネット賞です。ブループラネット賞は、1992年の地球サミット開催を契機に旭硝子財団が創設。地球の環境問題の解決に向け優れた研究をした人や熱心に活動を続けてきた人たちへ、賞状やトロフィー、賞金50万米ドルを贈呈。1992年、第1回の受賞者は、数値気候モデルによる気候変動予測を世界で初めて行った真鍋叔郎博士です。真鍋博士は、この研究で2021年にノーベル物理学賞も受賞しました。
また旭硝子財団では、1992年より全世界の環境問題の有識者にアンケートを行い、地球環境に関する現状認識を時計の針で表示した「環境危機時計®」を公開。
「12時になったらこれまでと同じ生活を維持することができなくなるのに、2024年はすでに9時27分。有識者は極めて不安に感じていることがわかりました。ですが、日本の一般の方々への調査によると、かなり不安を感じているものの、有識者とは感覚にずれがありました。そこで私たちは、一般の方々にももっと環境問題に取り組んでいただけるようなきっかけ作りを続けていきたいと思っています」と島村さんは語りました。
未来を決める10年。私たちは今、何ができる?
とはいえ、気候変動という大きな流れに対して個人でできることの効果は小さいと考える人も多いのではないでしょうか。市野さんは「日本の温室効果ガスの排出量の、実は14.7%が家庭部門」と語り、環境省が呼びかけている家庭でできるエコ活動を紹介しました。
島村さんは「家の中と外の熱は80%窓から出入りします。自宅の窓を3層にして、そのガラスの間にアルゴンガスを入れて断熱効果を高めたところ、家のエアコンの使用量は3分の1ぐらいに減りました」と、自身のエコ活動について言及。さかなクンは漁師さんのお手伝いをしながら地産地消を心がけたり、外出先でも「お水をいただきますゴクゴク。あ、水を得たさかなだ!」とマイボトル生活を楽しんだりしていることを話しました。
今回のセッションでは、3人ともマイボトルを持参。さかなクンの自分で描いた絵柄のエコバッグに入れたマイボトル、島村さんのガラスのマイボトルなどを見せ合いました。
セッションの締めくくりに、3人は感想を述べました。
「自分でもこんなことができるぞ、この目標に向かってみんなと一緒に取り組んでいくぞというポジティブな気持ちで取り組んでいくと、楽しく先に進めます。昔は自分にできることってあまり明確ではなかったんですが、たくさんの先生方が研究してくださったり、環境危機時計®という目に見える形にしていただいたりすることで、目標に向かっていきやすい時代にもなっていると思います」(さかなクン)。
「2100年に不安ではなく希望を感じられるような世の中、社会にしていけたらと思います。そのためには私たちが今できることを1つひとつ積み重ねて行くべきではないでしょうか」(島村さん)。
「地球規模の話を聞いてもなかなか自分の生活との関連性に結びつけられないかもしれませんが、問題についてまず知る、そして何かできることがないか考えることが重要だと思いました」(市野さん)。
「2100年」という遠い未来への不安からはじまったセッションでしたが、現状を知り、私たちができることを見つけて楽しむことを話すうち、3人の表情が次第に明るくなっていったのが印象的でした。
2024年(第33回)ブループラネット賞
2024年10月23日、第33回ブループラネット賞の表彰式典・祝賀パーティーが開催されました。
受賞者のロバート・コスタンザ教授は1997年の論文で、自然環境が人間に提供する生態系サービス*の経済的価値が、当時の世界のGDP総額を上回っていることを初めて実証。
*自然環境が人間にもたらす恩恵のこと。例:水供給、気候の調節、景観、受粉など。
受賞団体の生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム (IPBES) は生物多様性、生態系サービス、そして自然が人間にもたらすものについての知見と科学を提供する最先端の国際機関。各国政府の政策や企業のサステナビリティ戦略の根拠となるようなレポートを提供しています。
ロバート・コスタンザ教授は「みなが公平に暮らしている未来や、SDGsのようなポジティブな共通のビジョンを持つことが必要。ぜひ将来を担っていく世代のみなさんにも行動を起こしてほしい」と語り、アン・ラリゴーデリー事務局長は「アクションを取るのに遅すぎるということはありません。行動を起こせば成果はすぐに出ます。IPBESもそのために情報提供していきます」とメッセージを残しました。
ブループラネット賞の由来は、人類で初めて外から地球を見た宇宙飛行士ガガーリン氏の言葉「地球は青かった」から。未来を左右するこの10年、私たちもまず、知ることからはじめましょう。
写真:野村雄治
取材・文:樋口かおる
編集:磯本美穂