水神様が伝えたいこと~流水紋に魅せられて~

川の中に入り、水の流れを読みながら墨を水面に落とす。そして、そこに和紙を吸着させて、まさにその「瞬間」の川の流れを映し取る。その自然が生み出した表現、それが「流水紋」である。

流水紋という言葉を聞いたことがあるだろうか。

川の中に入り、水の流れを読みながら墨を水面に落とす。そして、そこに和紙を吸着させて、まさにその「瞬間」の川の流れを映し取る。

その自然が生み出した表現、それが「流水紋」である。

これを39年間続けているのが、流水紋作家、重富豪氏(74歳)だ。

重富氏の作品は、日本国内はもとより、海外でも仏ルーブル美術館はじめ、ドイツやオランダ、イギリスなど各地で個展・展覧会が行われ、ファンを増やしている。

元々、重富氏は、日本のダイヤモンド業界ではその名を知らぬ者はいない、ダイヤモンドカッティングの第一人者である。

何故、そんなビジネスマンが「流水紋」に行き着いたのか。

重富氏が流水紋に出会ったのは、「時の流れ」を見てみたい、そう思ったことがきっかけだった。水は35億年前から、大地と空との間を約7日間かけて往復する。その中で、水は地球周辺で起きたことのすべてを記憶する。だから、その記憶の断片が水の流れや動きの中に模様となって現れるのだという。重富氏は、川面に現れるその表情で、時の動きを、もっといえば、万物の根に繋がるものを見ることが出来るのではと、この流水紋という作品を作り続けてきた。

流水紋は、ダイヤモンドを知り尽くした男だからこそ理解できる、何十億年もの歳月を生きてきた「自然」がもつ本来の輝きと、その意思と、存在する意味を、人間たちへ翻訳する作業である。

初めてこの流水紋を見る時、誰しもが水墨画のように筆で描かれたものだと見間違う。

しかし、これはまぎれもなく、重富氏が数十年の時をかけ、川の流れとの対話の中で生み出した自然との共同作品である。

「作品の成功する確率は、百に一つか、千に一つか」、重富氏はいう。

何をもって成功とするのか。

それは、自身が水面を見ながら見えてきたイメージと同一か否かであるという。

ただ、そんな中、一作品だけ、重富氏のイメージを超えた作品が現出した。

約9年前のことだ。

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この作品をどう見るか。

意図をせず、流れる水のそのままに描き出されたその「紋」は、まるで人の姿に見えぬか。

重富氏は、これを見て「水神様」が現れたと思ったという。

そして、その神より使命を受けた思いで、流水紋を多くの人々に知って頂き、それによって、自然と人間との共存・共生、調和、自然への感謝の念を育んでもらいたいと重富氏は願う。

神を映し取ったこの絵は、現在、清水寺に奉納されている。

古より自然万物に神が宿るという、八百万の神の世界を信じてきた我々日本人において、そもそも自然との共生という概念は大変自然で、馴染み深いものである。

改めていうまでもなく、自然はこの上なき貴重な財産だ。その自然の中に神の姿を見、崇高する日本的なものの見方は、この成長という名の下の、自然を犠牲にした多大なる無駄な消費経済に疲れた日本や世界に、見直されてしかるべき美徳であることは間違いない。