小学生の禁煙学習は 誘いを断わる練習まで

小学校の保健で、飲酒、薬物と並んで禁煙指導に力が入れられています。まだたばこを経験したことのない子どもたちに、どのような教育をしているのでしょうか。
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 小学校の保健で、飲酒、薬物と並んで禁煙指導に力が入れられています。まだたばこを経験したことのない子どもたちに、どのような教育をしているのでしょうか。

受動喫煙を教える

 たばこの害については、小学5、6年と中学の保健で学習します。未成年者の喫煙が法律で禁止されているので、以前から保健の重要な学習項目となっています。

 教科書には、喫煙期間と肺がんの危険性を示すグラフや、喫煙していない肺と喫煙で汚れた肺を比較する写真などが掲載されています。最近では、喫煙により血管が縮んだり血流が悪くなったりする様子を示した画像も取り上げられています。煙の中の有害物質としては、がんの原因となるタール、血管を縮めたばこをやめられなくするニコチン、体を酸素不足にする一酸化炭素が挙げられています。このように、喫煙者自身が受ける害については、昔も今も紹介されています。

 変わってきたのは、受動喫煙の危険性を示す内容が増えたことです。喫煙者の周りで煙を吸ってしまう非喫煙者が受ける害について、明確に指導しています。なかには、「夫の喫煙と妻の肺癌の危険性」といった具体的なデータを小学生に示しているものや、「周囲のたばこの煙を吸って変色した子どもの歯茎」の写真を掲載しているものもあります。またアメリカ保健教育福祉省(注・1979年まで存在、現在は保健福祉省と教育省)の資料に基づいて、主流煙(喫煙者が吸い込む煙)に比べて、副流煙ではタール、ニコチン、一酸化炭素がそれぞれ3.4倍、2.6倍、4.7倍になることも示されています。

断わり方を練習する

 ある教科書には、中学生を対象とした「たばこを吸い始めたきっかけ」についてのアンケート結果(出典は、ある都道府県の報告書)が載っていました。1位は「一度吸ってみたくて」という好奇心でした。そして、2位から5位までが、友達、親、先輩、兄・姉といった「人に勧められて」で、全体の30%を占めていました。友達からは15%、親からは6%もあるそうです。

 2005年の報告書なので、アンケートはそれ以前に実施されたものでしょう。当時は今ほど禁煙の風潮が高まっていなかったので、同じアンケートを今行ったら、人に勧められてという理由は減るかもしれません。

 しかし、数が減ったとしても、もし近しい人から勧められ、仲間意識で強要されると、昔も今も10代の子どもたちにとっての断りにくさは同じなのでしょう。そこで、理由をはっきり言って断ることの大切さを保健で指導しています。

 断り方のヒントとしては、(1)相手の様子を伝える、(2)自分の気持ちを表現する、(3)具体的な提案をする、(4)提案の理由を伝える、と挙げられています。さらに、相手に嫌な気持ちを起こさせないようにと追記されています。でも、これって結構難しいヒントですよね。大人でもしばし考えてしまいます。

公衆衛生につながる

 これらの4点を考慮してはっきり断るには、コミュニケーション能力やテクニックも必要ですが、やはりなんといっても、たばこについての基礎知識がまず必要です。知識なくいい加減なことを言ったのでは、説得力はありませんし、相手の気分も損ねて、ますます意見が折り合わなくなってしまいます。

 思い込みや仮説でなく、誰が見てもそうだと思える客観的事実を述べ、その上で、明確な理由とともに、自分だけでなく、相手の健康をも考慮した提案をすることになります。

 果たして今の小学生はどのような回答を考えているのでしょうか。そして、そのような回答づくり授業で一生懸命取り組んだ子どもたちは、目の前で分煙もせずにたばこを吸っている大人たちの姿をどのように見ているのでしょうか。

 禁煙の教育は中学保健でも続きます。また、理科でも肺などの人体の仕組みについて詳しく学びます。小学生では漠然と捉えていた危険性についても、中学に行けば科学的な理屈を理解できるようになることでしょう。

 しかし、理解だけでは健康につながりません。自分がどういう行動をとればよいのか、自分だけでなく周りの人の健康をどう考えればよいのか、そこまで考えて行動していく必要があります。まさにこれは公衆衛生の考え方の第一歩で、個人の健康から、家族の健康、身近なコミュニティでの健康、市町村レベルの健康、国全体での健康、そして世界レベルでの健康へと広がっていきます。小学保健での学習が、将来の公衆衛生へとつながっているのです。大人になればなるほど、自分や知人の健康だけを考えて行動しがちです。禁煙に限らず、公衆衛生も意識して健康づくりに取り組んでください

吉田のりまき

薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰

(2014年6月号(vol105)掲載「ロバスト・ヘルス」より転載)