ハフィントンポストでは2月27日、NPO法人「若年層のアニメ制作者を応援する会(AEYAC)」による若年層のアニメーターに関する生活実態調査の調査報告書の内容を紹介する記事を掲載したところ、読者の皆さんから多くの反響が寄せられました。
「90%以上が非正社員」「50%以上が平均月給10万円未満」「80%以上が初任給10万円未満」――ショッキングですが、これがAEYACの調査で明らかになった数字でした。また、調査報告書では「新人は最低限の生活費すら稼げていない状態」「新人・玄人問わず、華やかな表舞台の裏で死に体で支えている」といった、現役若手アニメーターの悲痛な声も紹介されました。
こうした調査結果に対し、Twitterでは「数字だけ見ても搾取産業で、実際見ても搾取産業ってのは悲しい」「読んだけどブラックなんてもんじゃ無い」「死人が続出しないのが不思議」「『この数秒の作画のためにどれだけの血ヘドが吐かれたんだろう…』と思わなくてすむ環境を作って欲しい」といった声が寄せられました。
「アニメ作品にもフェアトレードマークの導入が必要かも」といった労働環境の改善策を提案する声もありました。一方で、「こんな統計いくらとっても無駄」と現状を悲観する意見もみられました。
記事への反響は、ハフィントンポストのFacebookページにも。「アニメ業界が若者の熱意の上にあぐらをかいている」「好きな仕事してるんだし、全て本人の責任」など、以下のような意見が寄せられました。
- 「アニメ業界全体が、若者の熱意の上にあぐらをかき、給料を上げる努力をしていないのでは?」
- 「漫画家の手塚治虫先生が自費でアニメを作った事で、安い費用で基準の高いアニメを作れることを体現したのがダメだった」
- 「アニメーター薄給の責任をいつまでも故・手塚治虫先生に押し付けていて慣例化してちゃダメですね」
- 「好きな仕事してるんだし、それ承知でアニメーターを目指してるのだろうから、全て本人の責任」
■どうすれば労働環境を改善できる? AEYACに聞いてみた
「君の名は。」「聲の形」「この世界の片隅に」など、2016年は邦画アニメーション映画が躍進した「当たり年」となりました。その一方で、同年10月期のテレビアニメでは放送延期などが相次ぎ、ネット上では「アニメーション制作者の労働環境が劣悪なのでは」という声が取り沙汰されました。今回のAEYACの調査によって、そうした声をが裏付けられる形になりました。
アニメーターの厳しい労働環境を改善するためには、どのような方策が求められているのでしょうか。ハフィントンポストではAEYACの秋吉亮理事長と松永伸太朗理事(調査担当)に話を聞きました。
――今回の調査の目的は、どのようなものですか?
松永理事:アニメーターの労働実態については、すでに日本アニメーター・演出協会が2009年と2015年に公表した報告書によって、低収入・長時間労働である実態が知られています。しかしながら、特に厳しいといわれている若年層アニメーターにフォーカスにした調査は今まで行われてきませんでした。
若年層アニメーターの労働実態に対しては未だに様々な見解が乱立している状況にあり、当団体では実態を明らかにし支援の方向性を定めるためにも独自に調査を行う必要があると考えました。
調査にあたって特に注意したのは、「若年層アニメーター」を一括りにして議論するのではなく、その中にある様々な属性ごとの差異に着目して、多角的な視点から実態を捉えることです。
こうした意図から、報告書では単純集計に加えて、性別・最終学歴・経験年数・勤務形態・給与形態・居住地域・実家暮らしか否かという7つの属性項目についてクロス集計をまとめてあります。
――今回の調査で、具体的にはどのようなことが明らかになりましたか?
松永理事:生活実態については、実家暮らしの者が回答者全体の約36%を占め、さらに実家暮らしではないけれども仕送りを受けている者が全体の24%を占めていることが明らかになりました。
実家暮らしで家賃を納めているとの回答はほぼなかったので、回答者の約6割が何らかの形で家族からの経済的援助を受けていると考えられます。労働条件については、まずは既存の調査研究と同様に収入、特に初任給がかなり低い水準にあることがわかりました。
加えて給与形態について、出来高制に比べて固定給を得ている者の方が高い収入水準であることも改めてわかりました。
――こういった環境になった原因・要因は、どのようなものだと考えられますか?
松永理事:家族からの経済的援助に関しては、入職間もない期間では自ら生活を支えることが難しい収入水準であることがわかりやすい原因としてあるでしょう。
ただし経済的援助は入職後の一定期間にのみ与えられている可能性もあり、援助を受けていることをもってどれだけ生活やキャリア展望が支えられているのかについてはさらなる調査が必要と思います。
収入については、まずは給与形態が原因の一つとして挙げられます。固定給と比較すると、出来高制は安定した収入が得られにくく、そのことが収入水準の低さと関わっていると思われます。
――こういった問題点を解決するために、どのような方策が求められるでしょうか?
松永理事:解決に向けては二つの方向性が考えられます。一つが現状の出来高制システムを打破して月給制などの固定給を主流にしていく方向、もう一つは出来高制システムは維持しながら、収入が安定するまでのキャリアアップを支援する方向です。
これらはいずれも有効な方針でありえますが、出来高制の収入制度は、歴史的に形成されてきたアニメーターの働き方や作品制作の仕組みとも密接に関連したものであり、前者を実行するとすれば業界全体での長期的な取り組みが必要になると思われます。
これは一つの団体として掲げる目標としては大きすぎるものになるので、当団体としては後者の方針から現状の改善ができればと考えています。
■若年層アニメーターの労働環境を向上させるには「二つの方法論が考えられる」
――今の若年層アニメーターをめぐる環境は、率直に言ってどう思いますか?
秋吉理事長:調査結果の通り非常に厳しい労働環境であることが明らかになりました。
――若年層アニメーターの労働環境を向上させるには、どのようなことが必要だと考えますか?
秋吉理事長:二つの方法論が考えられます。一つがスキルアップによる収入上昇です。初任給に関して回答者の84.1%が10万円以下であり、就職時に十分な収入を稼ぐのが難しい現状です。
これは新人といえどもプロとして他の中堅・ベテランアニメーターと同水準の質を求められますので、熟練度不足により作業量がこなせないことが原因と考えられます。
自由回答では具体的な支援策として「金銭的支援」、「住居支援」に次いで「講習会・勉強会」が挙げられており、現場のニーズにも合致するものです。当団体は「就職前の新人アニメーターと同水準の研修や実践的な研修」と「収入保障下での中堅・ベテランによる指導」によってスキルアップを応援します。
もう一つが住居支援・奨励金制度です。今回の調査では高い割合で家族からの経済的援助や貯金を切り崩しながら生活を維持していることが明らかになりました。
裏を返せば経済的援助や貯金がなければアニメーターに就職することを諦める、もしくは就職後も金銭的事情で辞めざるを得ない可能性があることが考えられます。
当団体は中長期的な活動として、高い能力や意欲を持ちつつも経済的援助を受けられない若年層に対し、低価格の住居提供や奨励金などの支援について検討してまいります。
今回153名から回答をいただき、若年層アニメーターの生活実態の一部を明らかになりました。2017年も若年層アニメーターに関する実態調査を行うとともに、新たに制作進行に関する実態調査の実施を検討しております。
※ハフィントンポストでは、アニメーター・アニメーション制作現場の労働環境に関する情報を募集しています。情報をお寄せいただける方、取材に応じていただける方は、news@huffingtonpost.jpまでお知らせ下さい。
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