テロリストの妻や子どもの心情、ドローンで簡単に人を殺せる苦悩、正義感だけでは成り立たない組織のしがらみ……。
アメリカの情報機関、CIAの分析官を主人公にしたAmazon Prime Videoのドラマ『トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン』(以下『ジャック・ライアン』)は、勧善懲悪ではないストーリーが人気で、新シリーズが11月1日から配信開始した。
「全ての人の観点が深掘りされているドラマ。これまでの“アメリカンヒーローのストーリー”では描かれてこなかった視点がいくつもあります」。そう評するのは、タレントのREINAさん。
REINAさんは日本人の両親を持つが、アメリカで生まれ育ち、ハーバード大大学院でテロ対策などを研究、CIAやアメリカの捜査機関であるFBIの内定を勝ち取った経歴を持つ。
そんな彼女に、「ネタバレ」しない範囲で作品の見どころを語ってもらった。
REINAさんは諜報員として中東に行く予定だった
ベストセラー作家トム・クランシーの代表作である『ジャック・ライアン』が、舞台を現代に移し、Amazon Prime Videoでドラマシリーズ化した本作。
ジャック・ライアンは、CIAの“T-FAD(テロ資金・武器対策課)”の分析官。シーズン1では、中東・イエメンで不審な資金移動を発見し、大規模なテロが起きる可能性をつかむ。
テロリスト集団のリーダー・スレイマンを、ライアンが知略を尽くし追跡するストーリーだ。
ライアンは分析官にも関わらず、現地に赴き、銃を片手に1人で敵に迫る。手に汗を握るギリギリの攻防は面白いが、こんなかっこいいCIA分析官は実在するのだろうか?
REINAさんに聞くと、「残念ながら、CIAが銃を持って街を走り回るなんてことはないと思います…(笑)」とのこと。
「逆に一番リアルだなと思ったのは、ジャックが何かをしようとする時に、CIAの他の部署やFBI、政府機関が介入してくるような、官僚的な組織の様子です」
REINAさんがCIAの試験を受ける時、試験官に「CIAは地味でつまらない仕事だよ」と言われたそうだ。しかも、意外にCIAやFBIの給料は低く、職歴を履歴書に書けないため、転職も難しい職場だという。
「もしCIAの内定を受諾したら、諜報員としてイラクやシリアなどの中東地域に行く予定でした。英語もアラビア語もできて、顔立ちも現地に馴染むので、当時は重宝されたのかなと思います」
2010年にCIAの内定をもらったタイミングでハーバード大学院の内定をもらったREINAさんは、進学することに決めた。
2010年といえば、ちょうどオバマ大統領がイラク戦争の軍事作戦終了を宣言した年だ。もしCIAの諜報員として中東に派遣されていたら、終戦前後の混乱する中東で、ライアンさながらに「第二のビンラディン」が現れないか、目を光らせていたかもしれない。
人がテロリストになるのは、宗教対立が理由じゃない
登場人物一人ひとりにストーリーがあるのも本作の魅力だが、REINAさんが特に興味深いと感じたキャラクターは、テロリストのリーダー・スレイマンの妻ハニンだという。
「テロリストの妻や子どものストーリーが、主人公のストーリーと同じくらい描かれているのは驚きでしたね」
作中では、ハニンが夫のスレイマンを恐れ、アメリカに亡命するまでにたどる場所、難民キャンプの様子や国外脱出ボートに乗る海岸でのやり取りなども鮮明に描かれている。
同時に、スレイマンのストーリーについてREINAさんは「“移民の娘”として理解できる点が多かった」という。
スレイマンは、幼い頃空爆で家族を失い、たった1人の弟と中東からパリに移住。貧しい生活に耐え大学を出た苦労人だ。
しかし、パリで就職活動をするも、差別の壁に阻まれる。人種差別を受けたことがきっかけで、スレイマンはテロリストの道に進んでいった。
「宗教からではなく、人間的な感情から怒りが生まれていて、『テロリストってこういう風に作られていくんだ』ということに改めて気づかされました」
「人種とは何か」が問われている
作中でも、ライアンがフランス警察のアルノーに「なぜスレイマンは大学まで出たのに就職できなかったんだ?」と問いかける。
それに対してアルノーが答えたセリフを、筆者は忘れられない。
「フランスには2種類の人しかいないの。フランス人か、フランス人以外か、よ」
多様性あふれるおしゃれで憧れの街、というイメージが強いフランスの“現実”が突き付けられたような気分になった。ハッとするような、心に刺さるセリフが多いのも、本作の魅力だろう。
REINAさんは、本作でフランスを出してきたのは興味深いと言う。
「フランスでは、移民に対して『フランス人』になるような政策を取っています。一方アメリカは、どんな人でも受け入れ、その人が持つ価値観を尊重しようとする政策を取っているんです」
そんな「多様な国、アメリカ」のアイデンティティが問われる事件があった。2001年のアメリカ同時多発テロ(9.11)だ。作中でも「また9.11が起きるぞ」「次のビンラディンが生まれるぞ」というセリフがたくさん出てくる。
そしてまた、2016年にトランプ大統領が就任したことを機に、「“アメリカ人“とは何か」というアイデンティティが見えなくなっている、とREINAさんは言う。
「どんな人でもその価値観も含めて受け入れる、多様な国であることがバリューだったアメリカで、今、人種差別が本当にひどくなっているんです。『人種とは何か』ということが問われているように感じます」
人種差別や移民の問題は、日本人にとっても他人事ではない。深刻な人手不足や人材のグローバル化を背景に、日本に住む在留外国人の数は263万人にのぼる。
REINAさんは移民の受け入れは慎重に行わなければならないとしつつも、「日本人には異文化を受け入れ理解する力が必要だと思います」と話した。
なぜ本筋と関係ない「ドローン」のシーンが差し込まれたのか
REINAさんはまた、ドローン操縦士・ビクターがシリアに行くシーンも印象に残ったという。
ビクターのストーリーはこうだ。
ドローンを使ってターゲットを監視し、狙撃するドローン操縦士のビクターは、リストのミスによってターゲットではない男性を殺してしまう。
ゲーム感覚で安全な場所から罪のない男性を殺してしまった罪悪感にさいなまれたビクターは、その男性の家族に会いにシリアまで行き、家族と対面する。
このドローン操縦士のストーリーは、主人公ジャック・ライアンが追うテロのストーリーとは深く交わらない。また、現実には殺された人物の家族に接触することはあり得ない、とREINAさんは言う。
「それでもあえてドローンの話を入れたのは、なんというか…アメリカ人が今抱えている罪悪感を表しているように思います」
実際にアメリカでは、ドローンを使用した軍事攻撃に問題があると批判が後を絶たない。ターゲットリストや運用体制の甘さ、ドローン操縦士のPTSDなどが問題視されている。
安全な場所にいながら人を簡単に殺してしまっていいのか、と倫理観を問う声も少なくない。
一方で、作中には「現地に行ってもドローンでも人を殺すのは一緒じゃないか」と、ビクターに問うシーンもある。戦場に行き、自らも命の危険にさらされていれば、人を殺す罪悪感が軽減されるのか。
他にも、ゲームアプリ内のメッセージがテロリストの連絡手段になっていたり、バイオテロが行われていたりと、現代社会ならではのテロの一面が盛り込まれている。
技術が発達し、より簡単に効率的に戦争ができるようになってしまったことに対する問いを投げかける作品にもなっている。
気になるシーズン2の最新情報は?
シーズン1について語りたいことは他にも山ほどあるが、続きはぜひ実際に見て欲しい。さらっと気軽に見ても楽しめるが、ストーリーの背景にある社会問題について深掘りしても楽しめる、味わい深い作品だ。
そんな『トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン』シリーズのシーズン2が、本日11月1日よりAmazon Prime Videoで独占配信が開始される。
シーズン2では、ベネズエラで不審な武器の出荷が疑われ、その追跡をしたジャックが調査のために南米へ向かうところからストーリーが展開されていくようだ。
中東から南米へと舞台を移し、今実際に起きている南米の政治問題など、タイムリーな時事にも焦点をあてている。
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