アマルフィの断崖絶壁ホテル

57年前に作られた「トリトーネ」ホテルは、海に面した断崖の上に作られている。
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午前6時。潮騒の音で目が覚めた。ここはナポリの南60キロの海岸に面したプライアーノである。ホテルの窓から外を見ると、青いサレルノ湾の水平線が広がっている。窓の下は、断崖絶壁。波が岩にあたって砕けるのが見える。やや左手の丘の上には、キューポラ(円屋根)に青いタイルで精緻な模様を施した教会が、村を守るかのように鎮座している。

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アマルフィ海岸の教会(筆者撮影)

57年前に作られた「トリトーネ」ホテルは、海に面した断崖の上に作られている。ロビーは、海面から150メートルの高さの場所にある。高所恐怖症の人は、テラスから下を見ると眩暈(めまい)がするかもしれない。豆粒のように小さく見えるかもめが、はるか下の方をゆっくりと飛んでいる。

客室や通路の一部は、断崖の岩をくり抜いて作られている。ロビーから海岸へ降りるには、2本の専用エレベーターを乗り継いでいかなければならない。エレベーターが一番下の階に着くと、暗く湿ったトンネルの先に、海が見える。くぐもったような、潮騒がトンネルに響き渡る。

ロビーから客室へ行くにも、迷路のような廊下を横切り、2本のエレベーターで断崖の中を8階分降りていかなくてはならない。岩盤をくり抜いて行われた半世紀前の工事は、さぞ手間がかかったに違いない。

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テーブルの向こうは、海だ。(筆者撮影)

この地域の特徴は、海面から崖がほぼ垂直に切り立っていることである。ホテルの前の海岸には、高さが100メートルもありそうな、巨大な岩盤が屹立している。まるで巨人が積み木遊びをしている間に、海に突き刺したかのように見える。かつては断崖の一部だったのだが、岩が気の遠くなるような長い歳月の間に波風にさらされて崩されて行き、巨大なチョコレートのような岩盤だけが残ったのである。

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アマルフィ海岸に屹立する巨大な岩。(筆者撮影)

サレルノやアマルフィなど主な町を結ぶのは、断崖絶壁の上を縫うように走る1本の細いバス道だけ。片側は切り立った崖、反対側は海。ヘアピンカーブの連続である。景色は良いが、車でも時速20キロくらいしか出せない場所が多い。日が暮れると、プライアーノやポジターノなど周辺の村の灯りが、暗闇の中に浮かび上がる。どの村も、猫の額ほどの平地しかないので、家々が断崖にしがみつくように建っている。

アマルフィ海岸の眺望は、美しいイタリアの中でも特に強烈な印象を残す。ユネスコの世界文化遺産に指定されているのも、理解できる。

ナポリ空港からレンタカーで1時間半。交通の便は極めて悪いが、苦労して行ってみる価値はある。

保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載

(文と写真・ミュンヘン在住 熊谷 徹)筆者ホームページ