ALSと共に歩み、今そして、将来を生きる。ALS患者の真下貴久さんが高校生に語った「3つの信念」

「生きるとは何かを失っていくこと。失いながら大事なものを感じられるようになること」。ALS患者の真下貴久さんが授業で高校生に贈った言葉とは。
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12月中旬、都立高島高校の教壇に、車椅子の男性の姿があった。来春、それぞれ新しい環境に羽ばたいていく高校3年生に語りかける。

喋れない。動けない。食べられない。呼吸できない。

思い浮かべてください。

あなたなら、生きることを選択しますか。 

男性は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の真下貴久(ましも・たかひさ)さん。この日、特別授業の講師として招かれた。静まる教室で、生徒たちの視線は真下さんにまっすぐ注がれた。

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真下貴久さん
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ALSとは、脳からの指令を筋肉に伝える運動神経が何らかの原因で損なわれる難病。日本ALS協会によると、2018年末の時点で全国に約9800人の患者がいるという。

発症すると、体を動かすのに必要な筋肉がだんだん痩せてなくなる。体の感覚や視覚、聴力に障害が出ることはないため、発症後も考えたり感じることはできるが、それを伝える術が徐々に奪われていく。末期には眼球運動も麻痺し、周囲との意思確認が極めて困難になるケースもある。

進行も早く、診断されてからの生存期間は通常3-5年と言われている。今のところ、有効な治療法は確立されていない。

7月の参議院選挙でれいわ新選組から比例代表で初当選した舩後靖彦さんも、ALS患者だ。

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真下さんによる特別授業は、政治経済の時間に行われた。
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「もしもあなたに突然ALSが降ってきたら、何を思い、何をしますか?」

真下さんがALSを発症したのは2015年2月のこと。当時34歳だった。

現在は病気が進行し、声を発することが難しい真下さん。授業には、かつての肉声を元にした人工音声が使われた。

語られたのは「ALSの現実」だ。

「『24時間365日介護』が必要になり、人の手を借りないと生きていけない」

「介護によって疲弊する家族を黙って見つめるしかない」

「人工呼吸器をつける事で延命できる。その代わり、意思表示が全くできなくなる恐怖と闘わなければならない」

そして、生徒たちに語りかける。

「思い浮かべてください。あなたなら、生きることを選択しますか。もしも、あなたに突然ALSが降ってきたら、何を思い、何をしますか?」

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真下貴久さん
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ALSと共に歩み、今そして、将来を生きる

そんな状況に置かれても、真下さんは自分らしく生きることを諦めてはいない。ALS当事者という立場から人との出会い、つながりは、病気を乗り越えることができる」という思いで、講演活動などを積極的にしている。8月には訪問介護事業も始めた。

生徒たちに語ったのは「ALSと共に歩み、今そして、将来を生きる」ために真下さんが大切にしている3つの「信念」だ。

◼︎普通の毎日を普通に過ごす

「1日1日を大切に生きる」という意味ではなく、普通に、当然に、毎日を暮らしていきたい。その上でできないことは、手伝ってもらえばいいのです。

つい最近まで当然のようにできていたことに対して、介助してもらうことにはとても抵抗があります。でも今は、手を差し伸べてもらった時は素直に「ありがとう」と思うようになりました。強がって感情論や理想論を言っても、何にも前に進みません。

自分のプライドを守るために、小さなつまらないプライドを捨てたというのが正しいのかもしれません。

私は普通の毎日を普通に過ごしたいのです。ただ、それだけなのです。

◼︎今の積み重ねが、将来を創る

私は将来を創ります。全く諦めてはいないです。これで諦めているようでは、病気になっていなくても、どこかで挫折していたと思います。

なので、今やるべきことをやって将来を作っていきます。これからも仕事をして、稼いでいくつもりです。「ALSだからできない」この感情自体が自分を病人にしてしまいます。

もしかしたら何をするにも時間がかかったり、苦労するかもしれません。

それでも、病気だけど病人になるつもりはありません。

◼︎どんどん外に出ていき、沢山の方々と繋がっていく

病気になり、沢山の出会いや繋がりに救われました。このたくさんの出会いがなければ、今の自分はありません。

新たな出会いには、感動が必ずあります。また色々な情報は可能性を生み出してくれます。

病気や障害に関わらず、出会いは平等です。狭い殻の中に閉じこもって生活することを想像するだけでも恐ろしいです。最悪のシナリオしか浮かびません。

これからも人の手を借りれるならば、どんどん外に出て沢山の方に出会いたいと思います。

禅の言葉「放てば手にみてり(手放してこそ大切なものが手に入る)」は、真下さんが大切にしている言葉だ。

ALSで身体の自由など、失ったもの多い。一方で、病気と引き換えに得た財産もある。

「生きるとは何かを失っていくこと。失いながら大事なものを感じられるようになること」真下さんはそう話す。

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スマートフォンのフリック入力を模した「フリック文字盤」を使って、通訳の方とコミュニケーションを取る真下さん。真下さんは、文字盤を使わない「エアーフリック」を開発した。
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「繋がりを大事にして、人を頼って、頼られる人になって」

真下さんの一言一言に生徒たちはじっと聞き入っていた。

生徒からは「もし自分がALSになってしまったら、絶望的に感じていたと思います。どうやって立ち直ったんですか」という質問が上がった。

真下さんは、目の動きで平仮名を一文字ずつを伝える「エアーフリック」というコミュニケーション方法で、通訳を介しながら学生の質問に答えた。

「実はまだ立ち直っていないのかもしれませんが、いきなりこういう状態になったわけではないので、それが救いでもあります。突然だったら生きるのもしんどかったかもしれないですが、この病気が準備できるのが幸いだったのかもしれません」

看護師を目指している女子生徒は、授業を受けた感想をこう語った。

「今、大学受験の一般入試の勉強をしていて、勉強が嫌だなって思うこともあります。でもALSだったら、問題集を選びに本屋さんに行ったり、自分で勉強したりすること自体が当たり前じゃないんだなって…。勉強嫌だ、なんて言ってられない。看護師に向けて頑張っていきたいと思いました」

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祖母がALSで亡くなったという男子生徒。 祖母は延命治療を希望しなかった。真下さんは彼に対して「おばあちゃんも必死に闘って生きたのだと思います。延命する・しないに関わらず、みんな生き切っているのだと思います」と話した。
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「僕から一言」。授業の最後、真下さんは一文字ずつ言葉を紡ぎながら、メッセージを送った。

これから沢山の壁にぶつかると思いますが、人との繋がりを大事にしてください。自分の力だけではしんどい時もあると思うので、沢山の繋がりを大事にして、人を頼って、頼られる人になってください

 

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生徒に囲まれる真下さん
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