「自分に自信を持って、前向きな気持ちで日々を過ごすお手伝いをしたいと思っています」
アッヴィ合同会社 アラガン・エステティックス(以下、アラガン)のプレジデント、スザナ・ムルテイラさんは、そう話す。ありのままの自分もいいし、あまり好きにはなれない部分がある自分もいていい──。「私らしさ」を大切にした美容の選択肢の一つとして、美容医療があるという。
美容医療と「美の多様性」の現在は?SNSなどに情報が溢れる中、科学に基づいた情報の収集のために気を付けるべきこととは?ムルテイラさんに話を聞いた。
―日本で展開している主なビジネスについて教えてください。
アラガンは美容医療の製品や乳がん患者さん向けの乳房再建の製品を開発、製造、販売する製薬会社です。
美容医療の分野では、ボツリヌス製剤やヒアルロン酸注入材、脂肪冷却による部分痩せ医療機器など、乳がん患者さんには、手術で全摘出した乳房を作り直すためのブレスト・インプラントなど、日本の厚生労働省の承認を得た医薬品や医療機器を提供しています。
―アラガンが目指す「美の多様性」について教えてください。
かつて「美」の基準は画一的でしたが、美しさは一つではなく、美しさの基準を決めるのは自分自身で、その個性や多様性を認めあうことが重要という考え方になってきていると思います。
アラガンは、ブランドスローガンとして「あなたに、自信を。」を掲げています。
画一的な「美」を追い求めるのではなく、美容医療で患者さんに自信を持ってもらうお手伝いができればと考えています。
「自分らしい美しさを大切に」考え方に変化も
―各国で「美しさ」や「多様性」に対する考え方は変わってきていますか。それに合わせて美容医療業界も変化していますか。
一昔前の美容医療はいわゆる「白人中年女性」をターゲットにした施術やマーケティングが主流でしたが、今は違います。「美しさ」に対する考え方は大きく変わってきていますし、人々は「自分らしさ」や自然な美しさを求めていると感じます。
90カ国以上で美容医療のビジネスを展開するアラガンでも、あらゆる人種、年齢、ジェンダーに寄り添った治療とコミュニケーションを大切にしています。
また、美容に関してもウェルビーイングやメンタルヘルスを大切にする人が増えています。その中で、自分らしい美しさを大切にするための美容医療を選択する人も多くなっていると感じます。
美容医療への関心が高まっている一方で、正しい情報が不足していたり、ネガティブなイメージを持つ方がいたりするのも事実です。美容医療の正しい効果と安全性の認知の底上げによって、安心して美容医療を受けられる世の中を目指していきたいです。
業界自体の多様性や働き方も変化しています。当社でもEED&I(公平・平等・ダイバーシティ&インクルージョン)を推進しています。多様なバックグラウンドや考え方を持つ人たちが共に働くことで、より良い仕事ができると考えています。
小さな自信や、前向きな気持ちを持つ「お手伝い」
―貴社の調査(*1)では、美容医療とウェルビーイングの関係についてもポジティブな結果が出ています。美容医療による自己肯定感の高まりについてどう考えますか。
調査では、美容医療治療を受けるメリットとして、回答者の56%が「コンプレックスを改善できる」、39%が「前向きな気分になる」、32%が「理想の自分に近づける」と答えました。調査結果は日頃、患者さんから届いている声を裏付けるものだったと思います。
患者さんのコンプレックスは、例えば目の下のクマを取ったり、お腹の脂肪を減らしてボディラインを整えたりという治療で改善され、自分を少し好きになれるという気持ちに繋がるのではないかと思います。
美容医療は、自己肯定感を高めて前向きな気持ちになっていただくための「選択肢」の一つだと考えています。
歳を重ねるにつれ、少しずつ顔の形やボディラインに変化がでてくることがあります。私も最近、脂肪冷却による部分痩せ医療機器を使った治療を受けました。着られなくなった洋服が着られるようになり、そんな小さなことがとても嬉しかったんです。
美容医療によって、そんな前向きな気持ちを持つお手伝いをしたいです。
また、 乳がん患者さんに関しては手術で乳房を摘出した後の元の生活を送ることに貢献できればと考えています。
玉石混交のネットの美容医療情報。気を付けるべき点は
―SNSなどネット上では美容医療について様々な情報が溢れています。何に気をつけて情報収集をすればよいのでしょうか。
SNSなどで情報が氾濫し、しばしば誤ったメッセージも散見されています。科学や研究に基づいた、適切な美容医療情報の提供が喫緊の課題と考えています。
当社では「アラガン・ビューティー」という美容情報総合サイトを運営し、美容医療の治療を検討する時にどんな選択肢があるのかという情報を、医師へのインタビューや医師監修の記事を通して発信しています。
美容医療はあくまで医療ですので、情報源を確認することが大切です。発信者が医師なのかインフルエンサーなのかという点や、クリニックからの情報であれば、信頼できるクリニックなのか、過度に安価なプロモーションをしておらず、誇張した治療効果をうたっていないかという点もチェックポイントだと思います。
―安全で科学に基づいた美容医療を選ぶためには、何に気を付けるべきですか。
まず、美容医療の施術に使用する製品には、厚生労働省が承認しているものと承認していないものがあります。その違いを知ることで自分にあった選択肢を選び取っていただきたいです。
例えば、厚生労働省が承認した製品は品質の基準を満たしていて、製薬会社がその製品を使う医師に研修を提供するという要求事項があります。
美容医療にはもちろんメリットだけではなく、リスクもあります。ですが厚生労働省が承認した製品であれば、科学的なエビデンスに基づいた治療の効果と安全性が確認されています。
クリニックや医師を探す際には、「安さやメリットだけが強調されていないか」「医師の経歴や得意な治療」「カウンセリングはしっかりとしているか」という3点に気をつけてください 。
また、医師による個人輸入の医薬品には、偽造品や品質にリスクがあるものが混じっている可能性があると厚生労働省が注意喚起しています。
承認品であれば、品質を担保した形で日本に輸入され、医師の元に届けられています。その製品を使う医師も、研修を受けた上で治療にあたっています。しかし、個人輸入されたものの中には、適切な方法で輸入されていないものもあります。
例えば、厚生労働省の薬事承認を取得しているボツリヌス注射は、5℃以下で保管、輸送されることが決まっています。正規の承認品ではない場合、きちんとした温度管理のもと、病院やクリニックまで輸送されているのか不明な場合もあります。5℃以下で管理されていない薬剤の安全性は確認されていませんし、薬剤の効果が落ちてしまう可能性もあります。
自身の治療に使われる製品が承認品なのかどうかを確かめることが大切です。
―日本の医学部教育で美容医療を学ぶ機会はほとんどないと聞きました。製薬企業としてどのようなことに取り組んでいますか。
当社ではアラガン・メディカル・インスティチュート(AMI)という専門部署で、医師向けの美容医療の教育プログラムを実施しています。注入テクニックやカウンセリング方法など様々なトレーニングを行っています。
日本の医学部では美容医療を学ぶためのカリキュラムは含まれていないため、美容医療の医師になるためには、文献を読んで勉強したり、海外で学んだりするしかないのが現状です。そのため、アラガンではAMIのトレーニングで医療従事者をサポートし、2023年秋からは大学などと協力して、関心のある医師向けに美容医療の教育プログラムの提供を始めます。
今後も、研修の分野には力をいれていきたいと思っており、美容医療に興味を持つ若い世代の医師にも、さらに充実したトレーニングを提供できればと考えています。
(プロフィール)
スザナ・ムルテイラ
製薬業界で22年以上の経験を持ち、欧州各国や中南米、日本でゼネラルマネージャー、マーケティング、薬事などを歴任。アストラゼネカ社で中米、カリブ、中央アンデス諸国社長を務めた。2020年4月より現職。2014年にフランスのクロード・ベルナール・リヨン第1大学で博士(医療経済学)取得。2000年にポルトガルのリスボン大学で学士(薬学)取得。
注釈)
*1…アラガン・ジャパン株式会社「美容医療に関する調査」(2022年5月、全国の20代~60代の男女1000人を対象に実施)
撮影=川しまゆうこ、ヘアメイク=岡田いずみ(KiKi inc.)、編集協力=尹世羅、編集・文=冨田すみれ子/ハフポスト日本版