選挙に大勝した安倍政権は未来に残る投資としてリニア中央新幹線の前倒しをはじめとするインフラ財政出動を検討しています。しかし、2050年にかけて人口が1億人を割り込み、その大半が60歳以上の高齢者となる日本において、こうした大環境破壊を伴うインフラ投資が未来に残る投資とはとても考えられません。
いま必要なのは、OECD諸国において最低水準となっている教育投資の拡充なのではないでしょうか。
日本は、世界第2位の経済大国の地位を滑り落ちただけでなく、1人あたりGDPでも90年代の世界3位から26位まで順位を落としています。一方、労働時間はオランダやノルウェー、デンマークなどの北欧諸国と比べ年間300時間も長く、私たちは彼らに比べてまるごと1ヶ月以上、余計に働いていることになります。
日本はなぜ、これほど生産性の低い国になってしまったのでしょうか?
過去に成功した古いパラダイムを信じ続け、新しい社会の変化の中で、一人ひとりが本質的な価値を生み出すことに向き合ってこなかったからではないでしょうか。そして、そうした人材を育てることにも力を注いでこなかったからではないでしょうか。
戦前の日本は教育に投資をした国でした。明治初年から始まった義務教育は明治末年には99%にまで普及し、明治6年頃には4%に満たなかった全人口に占める学生比率も、1930年にはイギリスを抜いてアメリカに迫る勢いを見せていました。当時の政治家や官僚たちは、「今、教育に投資しなければ、30年後の新しい世界に対応できない」と考えたのでした。
実際、教育はその投資による効果が還ってくるまでに長い時間を要します。戦後、焼け野原から奇跡の復興を遂げたのは、戦前の教育投資のおかげです。そして戦後の厳しい状況の中でも、目先の価値だけを追うのではなく、教育という未来への投資を行い続けたからこそ、素晴らしい経済成長を遂げ世界第2位の経済大国となることができました。比較的少ない格差の中で誰もが上質の教育を受ける国、貧富や家柄などに関係なく安価な公教育を受けることで、だれもが大きな夢を持つことができる国になることができたのです。
しかし今日、残念なことに、日本の教育投資は先進国において最低水準となってしまいました。1990年、日本の税収は60兆円あり、社会保障費は11兆円でした。今年度は税収58兆円、社会保障費32兆円。税収はほとんど変わらないのに、社会保障費だけが3倍に伸びています。
一方、公教育支出の対GDP比率はこの間、ほとんど変わらずOECD(経済開発協力機構)諸国のなかで、最低水準です。「人」という資源しかない日本が、教育に手を抜けば後から大きなツケが回ってきます。そして、すでにその兆候は見え始めています。
現代の日本では、親の年収と進学率に明らかな相関関係が生まれています。塾にいける生徒といけない生徒の得点差も厳然としてきました。しかも、この教育格差は拡大しているだけでなく、再生産され固定化されてきているのです。「一億総中流社会」と言われた日本は、格差社会へと確実に歩み始めているのです。
世界的な社会経済の状況は21世紀に入り大きな変化を遂げています。とくに、先進国では高度に付加価値をつけることができる経済体制を整えない限り、グローバル企業の下請けになるか、途上国の低価格競争に駆逐されるかの二択しかない状況です。
ではそんな状況の中で、GDPが低下し、格差も広がりつつある日本は、どこに活路を見いだせばいいのでしょうか。私たちは、過去の成功体験に習うのではなく、今日の世界の現状を踏まえて、新たな日本らしい成長の姿を模索する必要があると考えています。社会経済生活において新たな付加価値をつける行為、すなわちイノベーションが求められているのです。
そしてイノベーションをおこす人材において最も重要なことは、自分で問題を発見し、仮説を立てて解決策までを考える総合的な力です。この力は、知識の伝達だけでは決して身につけることができません。人間の主体性を重視し、自ら課題に取り組める訓練の場、また正解のない問いを用意し、挑戦と失敗を奨励し、それを支えていくような環境が必要となります。そのためには効率的な情報処理のみをよしとする教育パラダイムからの脱却が必要なのです。
そして、このパラダイムチェンジの実質のところを担うのは、未来の人材である生徒と、日々現場で向き合う先生たちなのです。日本の先生たちは世界で最も忙しく、授業以外にも、進路指導、生活指導、部活の顧問と余裕がありません。
そのような中で、現場の先生たちは教育に対する社会の複雑なニーズに応えようと努力していますが、新たなインプットをする時間も機会も無く、それを支える社会の仕組みもありません。意欲ある先生たちが依って立つ基盤は脆弱で、彼らは孤独な無力感の中にいると言っても過言ではありません。
今こそ、社会全体で先生をさまざまな角度から支援しなければならないのです。その思いを実現すべく、私たちはティーチャーズ・イニシアティブを立ち上げました。社会の最先端の人材育成のノウハウやスキルを先生に身につけてもらえる場、正解のない創発的な学びを体験出来る場を用意し、21世紀型の学びを教育現場に届けていこうと考えています。
未来を創る若者を育てる先生。その先生を応援し、支えるために社会はもっとできることがあるはずです。先生のパラダイムシフトが、日本のパラダイムシフトを推進する近道となることを確信しています。
21世紀に必要な学びの実現を目指し、日々生徒に向き合う教師を社会全体で支援するために設立されました。
7月23日(土)に設立記念シンポジウム「シフトする教育~未来をつくる教師」を開催します。
また、8月より、教師向けに「21世紀ティーチャーズプログラム」を始動します。
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