イギリスの新50ポンド札になるアラン・チューリングってどんな人?

アラン・チューリングは「人工知能の父」と呼ばれる天才数学者で、第二次対戦ではナチス・ドイツの暗号「エニグマ」を解読することに成功した。一方で、同性愛者として逮捕され、長らく社会の厳しい視線にさらされていた。
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イギリスの中央銀行は7月19日、新しい50ポンド札に描かれる肖像について、「人工知能の父」として知られる数学者のアラン・チューリング(1912~1954)を採用すると、公式サイトやTwitterで発表した。 

チューリングは数学の分野だけでなく、第二次世界大戦でドイツ軍の暗号を解読するなどの功績もあげた。一方で、戦後になって同性愛の罪で逮捕されたことから社会の厳しい視線にさらされ、再評価の動きが出たのは死後になってからだった。

性的少数者への理解が進んだことや、チューリングに対する再評価の動きなどを考慮し、採用が決まったとみられる。

中央銀行によると、当初は22万7299の候補があり、そこから6週間かけて989人の科学者を選抜。最終的にチューリングや理論物理学者のスティーブン・ホーキングら12人まで絞り込んだという。

チューリング、何をした?

チューリングはロンドン生まれ。子どものころから数学と科学で才能を発揮し、ケンブリッジ大キングス・カレッジに進学し、本格的に数学の研究に取り組んだ。

当時、数学界では大御所ダフィット・ヒルベルトが、数学の「完全性」と「無矛盾性」を構築するための取り組み(ヒルベルトの決定問題)を進めていた。

これに対し、チューリングは1936年の論文の中で、あらゆる計算とプログラムを実行できる仮想の万能機械「チューリングマシン」を用い、「数学には解けない問題がある」ことを導き出した。

この結果、ヒルベルトの「夢」は砕かれることになり、数学界に大きな衝撃を与えた。だが、このチューリングマシンの考え方はコンピューターの誕生に大きな影響を与えることになった。

チューリングはまた、第二次対戦中にナチス・ドイツが使っていた難解な暗号「エニグマ」を解読することにも成功。連合国の勝利に貢献した。

だが、この事実は機密扱いとされ、戦後も長らく知られることはなかった。

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エニグマの機械
TIMOTHY A. CLARY via Getty Images

一方、チューリングは1952年、同性愛の罪で逮捕された。イギリスでは当時、同性愛は違法で、チューリングは「矯正」名目で女性ホルモンを投与された。戦時中の功績も知られることはなく、1954年に自殺した。

その後、チューリングを再評価する動きが相次ぎ、2013年にエリザベス2世の名前で恩赦されるとともに、キャメロン首相(当時)が声明を発表し、彼の業績をたたえた。

チューリングの生涯は2014年、映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」で再現された。