池上彰さん「日本人はイスラム教徒をより理解してほしい」 増田ユリヤさんと宗教を読み解く本を出版

日本人は宗教にどう向き合うべきか。ハフポスト日本版は、宗教を読み解く本を出版したジャーナリストの池上彰さんと増田ユリヤさんにインタビューした。
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Wataru Nakano

中東の過激派組織「イスラム国」(IS)の勃興やフランスの「シャルリー・エブド」襲撃事件などの背後には、繰り返される宗教に関する争いがある。そんな中、日本人は宗教にどう向き合っていったらいいのか。ハフポスト日本版は、「世界史で読み解く現代ニュース<宗教編>」 (ポプラ新書)を6月に出版したジャーナリストの池上彰さんとジャーナリストの増田ユリヤさんにインタビュー。池上さんは「日本人はイスラム教の人たちをより理解してほしい。すると、彼らに対してとても親切になると思います」と期待を込めた。

フランス情勢に詳しい増田さんには、フランスの「シャルリー・エブド」襲撃事件などについて聞いた。

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インタビューに答える池上彰さん=東京都港区

――お二人は昨年10月、前著「世界史で読み解く現代ニュース」を刊行し、その中で「イスラム国」のことにも言及しました。その後、「イスラム国」は衰退するどころか、さらに勢いを増しているようです。

池上さん(以下、池上) アメリカの中東政策、要するにイラク政策の失敗でこういう事態になっています。フセイン政権を倒して、やっとのことでマリキ政権が樹立して最初はよかったんですが、どんどん(イスラム教)シーア派を優遇し、スンニ派への痛めつけが進みました。その結果、痛めつけられた側の人たちのところで「イスラム国」が勢力を伸ばしているということです。だから住民の支持はあるんですよ。

過激で極端なことばかりがニュースになります。確かに恐怖政治を敷いているのだけれども、どこかで「イラク政府よりはいいよね」と思っている人たちもいるから、あれだけの勢力があるんです。ということは、ちょっとやそっとの空爆ではやっつけることなんてできないです。

――「イスラム国」によって、日本人のなかで、イスラム教に対する誤解も生まれていますね。

池上 「イスラム国」ではない、一般のイスラム教徒の人たちは「イスラム国っていう名前を使いやがって」と怒っています。イスラム教全体が過激に見られてしまうと懸念しています。

一方、日本人も、後藤健二さんら日本人が犠牲になったということもあり、「あの人(イスラム教徒)たちは怖いね」と思っている人もいます。でも、そんなことはないのだと、何となく分かっている部分もあります。過激な人たちと普通の人たちが違うという認識のある人は、結構、増えています。ただ、それが実際にどういう人たちなのかという理解までには至っていません。でも日本人は、それを実際に理解すると、イスラム教の人たちに対してすごく親切になると思います。

――2020年には東京オリンピックが開かれます。様々な宗教の人たちが日本を訪れています。

池上 日本社会ももっと大きく変わるでしょう。いま、インドネシアからの観光客がどんどん増えています。ASEAN諸国の経済が発展し、なおかつ円安で日本に旅行しやすい状況です。ただし、イスラム圏の人たちが日本で食事をするときに何が食べられるんだろうかとか、お祈りする場所はどこなのかとか迷ったり、(聖地)メッカの方角に向かってお祈りしたいけれど方角はどこのなのか分からない、ということがまだまだ多いです。

――今年1月、ムハンマドの風刺画を掲載してきたフランスの週刊新聞「シャルリー・エブド」が襲撃されました。増田さんは、どう受け止めていますか。

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インタビューに答える増田ユリヤさん=東京都港区

増田ユリヤさん(以下、増田) 移民の取材をずっとしてきましたが、移民の不満、社会的な状況があの事件を生んでしまったのかと思うととてもショックです。

フランス社会は何よりも人権が優先される国です。それは、人々の平等を勝ち取ったフランス革命までさかのぼるのですが、その思いがあるからこそ、権力者に対する風刺画、あらゆる宗教に対する風刺をこれまでもしてきたのです。神様を冒瀆するようなこと、他の宗教の人たちが嫌な思いをするようなことはするべきではないというのが、多くの人たちの意見ではあると思うんです。でも、多くのフランス人にとっては、自分たちがこれまで、権力者を排除して国を作ってきた、人権を勝ち取ってきたという思いが強いんです。そこは、日本人が理解し難い部分だと思います。

――フランス人の受け止めは、割れているんでしょうか。

増田 割れていると言うより、襲撃事件を許せないというのが多くのフランス人の共通の理解です。人権と表現の自由を冒瀆するものだと思っています。

――風刺画を掲載したことは許容しているのでしょうか。

増田 彼ら(編集者)らがそれをするのは仕方ないと思っているでしょう。表現の自由だから。題材はなんであれ、宗教に関しても様々なことをやってきて、そのひとつである、という考え方ですよね。

――池上さんは、「シャルリー・エブド」襲撃事件をどうみていますか。

池上 日本の宗教観では、それぞれの宗教を尊重しようという意識があります。報道の自由、表現の自由があるにせよ、ある宗教をからかうのは、ふさわしくないんじゃ無いという嫌悪感がある気がします。だから、ムハンマドを風刺画にすることは、表現の自由としては分かるんだけれど、わざわざそんなことまでするのっていうのが、多数の日本人にあると思いますね。そこはフランスと違うところでしょうか。

――宗教の話でいうと、アメリカも実は宗教の影響を強く受けていますよね。

池上 例えば大統領選で言えば、民主党候補のヒラリー・クリントン氏は同性婚を認めるべきだと言っています。一方で、共和党の有力な大統領候補のジェブ・ブッシュ氏は「伝統的な結婚を守るべきだ」と主張しています。キリスト教的な考え方から、同性婚を認めるかどうか、中絶を認めるかどうかが、大統領選の大きな争点になります。日本人には分かりにくいのですが、世界をリードするアメリカの大統領が、こういう点で決まるっていうことは、我々の理解を超える話ですよね。

――フランスはLGBT(性的少数者)には寛容なんですか。

増田 2013年、法律で同性婚を認めることになったんです。フランスはカトリックの国ですから、それに反対するデモもすごかった。でも、大方の見方としては、それぞれみんな人権があるというように、ここでも人権が優先したようです。ただ、例えば2人で家を建てたとか、女性同士で精子提供で子供をもうけたという人もいますが、わざわざそれを大きい声で外に向かっていうことはありません。

――同性婚に関連して、日本では、東京都渋谷区が3月、同性カップルに「パートナーシップ証明書」を発行する条例をつくりました

池上 条例はあくまでパートナーであることを認めるもので、「結婚は両性の合意」とする憲法に違反するものではありません。なるほどと思ったのは、相手が入院して家族だけしか面会できないようなとき、「私は家族です」と証明書を見せれば言えるということになるということです。

同性愛の人たちの結婚を認めようというのはよくあります。ただ、愛するもの同士だったら同棲でいいわけですよ。でも同棲だけだと何かあった際に法的に保護されません。不利な部分を法的に認めてあげましょう、というところがポイントだと思います。

………

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世界史で読み解く現代ニュース<宗教編>(ポプラ新書)

池上 彰(いけがみ・あきら) 1950年、長野県松本市生まれ。慶応義塾大学卒業後、NHKに記者として入局。1994年から2005年まで「週刊こどもニュース」に、ニュースに詳しいお父さん役として出演。2005年に独立。2012年より東京工業大学教授。『伝える力』(PHPビジネス新書)、『おとなの教養――私たちはどこから来て、どこへ行くのか?』(NHKブックス)など著書多数。

増田 ユリヤ(ますだ・ゆりや) 1964年、横浜市まれ。国学院大学卒業後、27年余りにわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務める。日本テレビ「世界一受けたい授業」にも出演。日本と世界の教育問題現場を幅広く取材・執筆している。主な著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『移民社会フランスで生きる子どもたち』(岩波書店)など。

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