本当に「時短勤務はデメリット」なのか。ワーママにまつわる誤解、経営学者に聞いてみた

なぜ働く女性たちは管理職を目指したがらないのか
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働く女性たちは「うちの会社や上司は子育て中の社員への理解が足りない」と不満を抱き、企業側は「女性は子どもを産むと、仕事のパフォーマンスが下がる」と嘆く。

この不幸なすれ違いは、どうすれば解消できるのだろう。

育休中の会社員のスキルアップや復職支援をする「育休プチMBA」の代表で経営学者の国保祥子さんは、著書『働く女子のキャリア格差』の中で「問題の根源にあるのはミスコミュニケーション」だと指摘する。

なぜ働く女性たちは管理職を目指したがらないのだろう? 

職場復帰後にパフォーマンスを上げるための秘訣とは? 

働く母親は増えている。18歳未満の子どもがいる人のうち仕事をしている人の割合が68.1%(厚労省 2015年「国民生活調査」より)に達した。働くママと企業を取り巻く課題や解決策について、国保さんに話を聞いた。

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Kaori Sasagawa
1児の母でもある経営学者の国保祥子さん

企業と女性、両方の声を聞いてわかったこと

――国保さんは組織マネジメントが専門ですが、出産を経て職場に復帰する女性社員に、どのような印象を持っていましたか。

私はもともと経営学者として、企業目線に立って管理職教育や人材育成のプログラムを手がける立場にいたのです。

仕事柄、人事の方とお話する機会も多かったので、「産後に復帰するワーキングマザー(ワーママ)は権利を主張しがちで困る」という話はよく耳にしていて。自分自身も子どもを産むまでは「そういうものなのか」と思っていたんです。

ところが、2014年に自分が娘を出産して、いろんなワーママの声を聞く機会が増えたことで、彼女たちは、権利主張をしたくてしているわけじゃない、やぶら下がりになりたくてなっているわけじゃないんだ、ということに初めて気づいたんです。

「産後の女性の職場復帰」という事象を、今までと逆の女性側の立場から見ると、まったく違うものに見えました。

けれども、そこにズレがあることに、企業側も女性側も気付いていない。

ヒアリングを重ねて色々調査していくうちに、これは個人ではなく職場の構造的な問題だなと思いました。

女性のパフォーマンスが伸びない、責任のある立場を担いたがらないというのは、個人の仕事へのモチベーションが低いからではありません。

「長時間労働とセットになっている働き方では、育児やプライベートと両立する自信がない」「制約を抱えながら責任を担うことに対する不安が大きい」というケースが多いですね。

時短勤務はデメリットなのか

――管理職100人のうち女性が占める割合を見ると、アメリカでは43人、フランスで36人、スウェーデンで35人、シンガポールで34人、対して日本ではわずか11人というデータもあります。

育児期の女性が仕事を離れるという現象は、日本以外の先進国ではほとんど見られません。

日本でそうなってしまう原因の1つは、結婚出産をきっかけに離職することが原因です。

また離職しないまでも、育児中だからという理由で「負担の少ない業務にしてあげよう」と上司側が「過剰に」配慮すれば、女性社員はやりがいを感じにくく意欲を失っていきます。

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Kaori Sasagawa

――昇進とは縁遠いキャリアコースに追いやられる。いわゆるマミートラックですね。復職後は配慮をされすぎても、配慮が不足していても、お互い不満が募ってしまう。

意欲が最初からないのではなく、職場環境が女性から意欲を奪うんです。特に時短をとると、会社側から「働く意欲を失っている」とみなされて、能力開発の機会を与えられなくなることもあります。

そうすると、そこで成長が止まってしまう。

成長が止まったまま数年間を過ごした人が、その先に挑戦的な業務に戻れるかと言うと果たしてどうでしょう。会社も本人も、もはや怖いのではないでしょうか。

――「時短勤務はデメリットが大きい」。著書の中でもはっきり書かれていますね。

これは私だけの主張ではなくて、経営分野の共通見解だと思います。

だからこそ、細々とでもいいから挑戦的な業務をやっておくということがすごく大事。

あるいは、数年後に挑戦的な業務を担えるように今何をするかを戦略的に考えて、上司に伝えていくべきですし、上司はそれをサポートしてほしい。

――では組織や上司とのミスコミュニケーションを防ぐために、女性たちは具体的にどう行動すればいいでしょうか。

まずは組織目線をふまえて、自分のモチベーションを上司に伝えること。

「自分はこんな形で組織に貢献したいけど、こういう制約がある。だからここだけ配慮してもらえれば、もっといろんなことができるようになります」としっかり伝えることで、「じゃあこれはぜひやってほしい。その制約は配慮します」という円滑なコミュニケーションが取れるようになるはずです。

時短勤務も全面否定しているわけではありません。

ただ、時短を取るなら取るで、「こういう事情で今は時短を取らざるを得ないけれど○年間だけのつもりです」というリミットを決めて、そのことを上司にしつこいくらいに伝えるようにすることが大事だと思っています。

――「しばらくは時短で働きます」という伝え方では、見通しが甘いと。

「しばらく」って何年なのか、上司にはわかりませんよね。そもそも一般的な感覚だと、「しばらく」は1、2年だと思います。

上司や会社側がどう捉えるかということを想像して、会社の視座に立ってコミュニケーションを取っていくことを心がけるといいと思います。

同様に、自分がやりたい仕事がある人は、それを自分が手掛けることがどうすれば会社にとって合理的に見えるのか、を考え抜くことも重要です。

――家事に育児に忙しいワーママも、仕事は能動的に取り組む意識をちゃんと持つことが必要だと。

そうです。要するに「主体的に働きましょう」の一言に尽きますね。やらされている感があると、仕事ってつらくなりやすいですから。

それから、仕事と子育てを両立させながら組織で働き続けるためには、「予算」と「自己裁量権」が大切になっていきます。どうすればそれが手に入るのかというと、昇進することなんですね。

上に行けば行くほど、裁量権がついてくるから、仕事と家庭を両立しやすくなります。だから昇進したほうが、ほんとうはいろんなことがやりやすくなるはずですね。

働く女性はみんな昇進すべき、と言いたいわけでありません。そうではないけれども、上に行かなければ見えない世界があるのも事実だということは伝えていきたい。

私もそこを見たいな、と思っています。

(取材・文:阿部花恵 / 編集・写真:笹川かおり)

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