先日、AKB48の握手会で悲しい事件が起きてしまいました。その後に行われたAKB48グループの総選挙では、被害を受けたメンバーの方が電話で出演したり、元気な姿を見せたりといった事もあったようですが、改めてこの問題をメンタルヘルスの観点から考えてみたいと思います。
ここでは、加害者に関する数少ない情報の一つとして、中学校校長の「無口でおとなしい子」という話を元に、人を傷つけるといった行為、意識に至らせないための予防についてお話しします。
■目に見える人の姿は、その人の真の姿とは限らない
よく犯罪者の地元のインタビューでは、「大人しい子なのになんで?」とか「良い子なのになんで?」という言葉を耳にすることも少なくありません。
学校内でのいじめでも、いじめをする側の親の多くは「うちの子は、そんなことをする子ではない!」と言います。
表面上に見えている姿は、本当にその人本来の姿なのでしょうか。良い子でいるために自分の感情を押し殺して演じている別の姿ではないでしょうか。
■想定される原因の一つ、抑圧と発散のバランス
人は、大人しく・・・ではなく、ありのままに喜怒哀楽を表現するという能力を持って生まれてきます。本来、その喜怒哀楽は、様々な経験や学びを経て、我慢や心配をかけないという気持ちなどから、強さの現れとして抑制されるようになります。
しかし、強さの現れではなく、他者から威圧などを受け、自身の感情を抑え「良い子」を演じなければならない場合、その時間が長ければ長いほど、心身の余裕を失い、視野も考えることも狭まります。
そして、その状況を受け止めてくれる人が存在せず、自分の中でその辛さを抱え続け限界を超えると、溜め込んだ抑圧を一気に発散するかのように、人を傷つける犯罪に至るケースもあれば自分を責めメンタルダウン、自分を傷つける行為に至るケースもあります。
これは、精神分析学でいう「失敗した防衛機制の行動化」に相当するもので、本来、本能的欲求や衝動から社会に適応できるように自分自身を制御する防衛機制が、衝動や葛藤に対する過剰な抑圧によりコントロール出来なくなり、問題行動として表出したものと考えられます。
親、上司、先生、お客様など、上の立場に位置づく人もしくは同級生などで自分が上だという立場を誇示する人が、立場などの強さを利用して自分の言うことを聞く従順な人を育てようとしていたりする状況を見かけたことはありませんか?
たとえば、言い返したいけど言えない状況、行き場のない怒り、これを長期間抱え続ける場合の心身の負担を想像してみて頂けるとわかりやすいかもしれません。
■予防策はコミュニケーションの原点、"存在"として認め合うキャッチボール
良い子を演じるという抑圧を軽減し、心身健康で自分らしく生きるためには、コミュニケーションを改善する必要があります。誰しも、一人では生きていけないという所属の欲求と認められたいという承認の欲求があります。すなわち、「存在」です。
存在を考えるときに大切なのは、コミュニケーションの基本である、相手のことを考えること、思いやることです。立場が上でも上に立とうとするものであっても、お互いが理解しあえる"なんで?"を忘れずに、自分だけでなく、相手にも自分の気持ちや考えを話させること、その繰り返しが、人を守り、強くします。
家庭、学校、職場、人はそれぞれ育った環境も文化も違います。考え方も違います。苦手なタイプもいるかと思います。けれど、目の前にいるその人は、敵ではありません。
自分と同じ、心身健康で幸せでありたい、意志や考えを持った人なのです。
《参考記事》
■心の病と偏見について 西川公平
http://sharescafe.net/38703415-20140508.html
■ワタミのモデル残業時間は「合法だが過労死危険ライン」という怪奇。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39148012-20140602.html
■「良いお母さん」のレベルが高すぎる日本。働く女性は意識と行動をどうやって変えたらいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/39261507-20140608.html
■育児・介護しながら働く人たちが増えてきた。経営サイドがすべきことは何か? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/39019075-20140525.html
■新入社員が5月病で会社を辞めるのは悪いことではない? シェアーズカフェ・オンライン編集部
http://sharescafe.net/38916978-20140520.html
メンタルヘルスコンサルタント 海老澤剛