【あいちトリエンナーレ】津田大介氏「匿名の群衆からの抑圧があった」。「表現の不自由展」再開は8日以降の見込み

「表現の不自由展・その後」について、津田大介氏が「8日以降の再開というのが現実味が高い」と話した。

国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で、開始3日目の8月3日で中止が決まった企画展「表現の不自由展・その後」。再開が10月6〜8日に予定されているが、正式な開始日程は未だ決まっていない。

同芸術祭の芸術監督・津田大介氏、参加アーティスト、表現の不自由展の実行委員会のアライ=ヒロユキ氏、憲法学者の横大道(よこだいどう)聡・慶應大大学院教授らがディスカッションに参加した。

津田氏は不自由展の中止について、「匿名の群衆からあいちトリエンナーレに対する抑圧が大量にあった」と表現した。

 

■「匿名の群衆からの抑圧」

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フォーラムのディスカッションに参加した津田大介氏
HUFFPOST JAPAN/AKIKO MINATO

 

ディスカッションの終盤、会場の参加者から、「誰が誰を抑圧しているのか分からない」という声が出た。文化庁の補助金不交付や、菅義偉官房長官ら政治家の発言などもあり、今回の問題を巡る「階層」が複雑だという趣旨の質問だった。

これに対し津田氏は、「匿名の群衆から『あいちトリエンナーレ』への抑圧」があったと答えた。

僕は、抗議をしてきた人たちの大半は、お客さんじゃないと思っています。なぜなら、見ていないから。お客さんであるかどうか、愛知県民であるかどうか分からない。展示を見ていない、議論に参加する気もない匿名の群衆から『あいちトリエンナーレ』に対する抑圧が大量にあった」

「脅迫によって、観客と職員が人質に取られて、我々は中止を余儀なくされたという風に僕は理解しています。知事はこの企画を承認しているわけです。僕もこの企画を持ち込んで、最後までやりたかった。不自由展実行委員も作家も最後までやりたくて、覚悟もあった。しかし、それができなかった」

また、アライ=ヒロユキ氏は、「マクロで見ると、日本の保守化など明らかに社会的背景の存在があるんですね。一つの引き金になるのが権力者の発言なんです。そういった点を結びつけて見ると、表現の不自由展が日本の歴史の転換点での、必然的に起きてしまった事件としてこれを考えるのも、美術界でも(あって)いいのかな」と持論を述べた。

この「抑圧」についての参加者からの質問に対し、横大道教授は、法的には、決定権を持つトリエンナーレ実行委員会が不自由展側を制約したことになると補足した。

 

■「公的な場所で発言ができないから、電話やメールに」

また、ディスカッションメンバーではないが、不自由展に作品を出品している韓国人写真家・安世鴻(アンセホン)氏と、韓国人彫刻家のキム・ウンソン氏も会場から発言した。

安氏は「日本で何回か写真展をやりましたが、表現の自由は難しいなということを感じました」と話した。

「私だけじゃなくて、色んな作家がそういう経験をしていると思います。今まで中止されたり、中断されたりした作品たちは未だに公開されていないものもあります。そういうことを曖昧にしてきたために、表現の自由が確立してなかったと思います。歴史の中で今回のあいちトリエンナーレの今の状況がつくられたのだと思います

そして、展示の早期再開を求めた。「理論を検討することよりも、実際に表現の自由を守る行動を起こすことが大事だと思います。6日ないしは8日にオープンするだろうと言われていますが、明日どうなるかも現時点も分からない。ぜひ再開できるように祈っています。明日にでも再開できるように」 

キムさんは、「表現の自由というのはただ与えられるものではなくて、私たちが勝ち取ったものであるということを改めて確認しました」と話した。そして、津田氏がディスカッションの中で、SNSで作品が拡散される時代に、芸術の自由をどう守るべきかという課題を示したことを念頭にこう発言した。

「津田さんもSNSが登場してからこの問題がますます複雑になっているとおっしゃっていました。私は、SNSが問題ではなくて、もっと公的な場で問題が議論されなかったということが、今の『表現の不自由展』以降の状況を作ってるんじゃないかと思います

「『こんなこと言ったらダメなのか』ということを、ずっと積み重ねている内に、いつの間にか表現の自由というのが守られなくなってしまう。ですから、公的な場所で発言ができないから、電話をしたり、メールをしたりという形で自分の気持ちをぶつけてしまう状況が今あるんじゃないか

 

■津田氏「8日以降の再開が現実味が高い」

津田氏はディスカッションの終了後、報道陣の取材に応じた。不自由展の再開日程について「8日以降」との見通しを示した。

「8日以降の再開というのが現実味が高い。協議は続いている。だが再開の日程が先ではなく、妥結するのが先。そして海外、国内アーティストから『8日に再開できないならボイコットする』という話も出ている。様々なステークホルダーとの調整が続いている。交渉が決裂したら、トリエンナーレ自体がそこで終結してしまう可能性がある。緊張感が高まってきている」

フォーラムは6日にも開かれ、津田氏やアーティストらがプレゼンテーションなどをする予定だ。参加申し込みは終了している。

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「伝える」が、バズるに負けている。ネットが広まって20年。丁寧な意見より、大量に拡散される「バズ」が力を持ちすぎている。 

あいちトリエンナーレ2019の「電凸」も、文化庁の補助金のとりやめも、気軽なリツイートのように、あっけなく行われた。

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