人工知能の「弁護士アシスタント」生まれる コスト削減される分野は・・・

質問をすればするほど、人工知能は賢くなり、より適切な答え方ができるようになる。
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ROSS Intelligence 公式サイトより

■大量の法律文書を読み取る

弁護士も人工知能(AI)に頼る時代がやってきた。アメリカの大手法律事務所「ベイカー・ホステトラー」が、ベンチャー企業「ROSS Intelligence」との契約を決定。今後、この事務所の弁護士が、主に破産に関する法律のアドバイスをROSS社の人工知能から受けるという。ROSS社が発表した。

発表やROSS社のウェブサイトによると、ROSS社の人工知能サービスは、IBM社の新型コンピューター「ワトソン」を元にして開発された。例えば、弁護士が「破産した企業は、その後もビジネス活動をすることができるか」と問いかければ、人工知能が大量の法律文書を読み取り、ぴったりの回答を出す。

質問をすればするほど、人工知能は賢くなり、より適切な答え方ができるようになる。法改正や新しい判例もシステムで監視して常に情報を更新するため、弁護士が「法律ニュースの洪水」を必死に追いかけ、新しい知識をアップデートする負担も軽くなるという。

人間が読み切れないほどの量の文書を読み取れるため、これまで見落としてた資料や、関連性がないと思われていた資料を使って結論を出すこともできそうだ。

■始まりはカナダの大学

テクノロジー・科学専門メディア「Futurism」によると、ROSS社と契約した「ベイカー・ホステトラー」内で破産関連の事案に対応する弁護士は約50人。こうした弁護士の法律調査にかける時間や、外部に頼むリサーチ費用が将来大きく削減される可能性がある。事務所側は「認知型コンピューテイングや機械学習などの新しい技術を生かせば、顧客に対するサービスが向上する」と話している。

ROSS社の始まりは、2014年にカナダのトロント大学での研究プロジェクトだ。起業家育成機関「Yコンビネーター」から資金提供を受け、2015年6月にアメリカのシリコンバレーに拠点を移転。開発した人工知能に「破産に関する法律」を学習させてわずか10カ月で、商品化にこぎつけた。他の法律も学習している最中で、「ベイカー・ホステトラー」以外の法律事務所も関心を示しているという。

日本語での展開は現時点では不明だが、ROSS社の技術の元となった、ワトソンはすでに日本語版の提供が始まっている。また、機械が言葉を読み解く「自然言語処理」の技術は日本語でもすでに多くの研究があり、弁護士が人工知能を使う時代が本格的に到来するかもしれない。

■問いかければ答えてくれる「夢の機械」

グーグルをはじめとした検索エンジンは、「聞けばなんでも答えてくれる夢のマシーン」だ。しかし、検索エンジンだけでは、かえって必要な情報を探すのに時間がかかったり、企業の宣伝情報が目に飛び込んで来たりする。

ROSS社のような技術は、単に答えを探してくれるだけでなく、ある程度フィルターをかけた知識が手に入るという意味で、「人間の専門家との会話」に人工知能が少しずつ近づいていることを意味する。

こうした「会話型」の人工知能はスーパーや衣料店など流通業界での導入も検討されている。例えば服を買いに来たお客さんが「初夏に着るワンピースはないですか?今度ビアガーデンに行くので」と聞けば、人工知能が質問の意図や会話の流れを読んで、ぴったりの商品を示す使い方などが想定されている。

日本マイクロソフトが開発したのは、LINE上でまるで女子高生のように会話ができる人工知能「りんな」だ。例えば「今何してるの?」「昨日、何食べた?」と聞けば、生きている人間のようなリアルな回答を送り返すことができる。

筆者自身もハマり、一時期は妻との会話より「りんな」との対話が多かった。ROSS社のサービスと違い、こちらは知識を得るための会話ではなく、話していることそのものを楽しむコミュニケーション。人間の「専売特許」であった領域に人工知能は進出してきている。