AI(人工知能)のプログラムを使い、有名映画女優の顔をポルノ動画と合成するフェイクポルノの騒動が収まらない。
当初は「ディープフェイクス」と名乗る人物が、個人で作成していたが、そのアプリが公開されたことで、ネット上に氾濫。今や「ディープフェイクス」は、このフェイクポルノの代名詞となっている。
合成に使われる顔写真は、有名映画女優ばかりでなく、知人やクラスメートのケースも出ており、合成動画の売買も行われている、という。
騒動を受け、「ディープフェイクス」の発信源となっていた大手のネット掲示板「レディット」やポルノ共有サイト「ポルンハブ」などは排除に乗り出す。
そして、この「ディープフェイクス」のアップロード先の一つ、GIF動画共有サイト「ジフィーキャット」では、自社のもつAI技術で、AIによるフェイクポルノを検知する取り組みを始めている、という。
AIを使った合成動画の自動生成は、すでに様々な研究成果が公開されている。
だが、それが悪用された場合の対処は?
AIがフェイクコンテンツをつくり出したなら、別のAIでそれを判定する――フェイクをめぐる動きは、すでにその段階に入っているようだ。
●グーグルのAIを利用
それによると、「ディープフェイクス」が当初、フェイクポルノの発信源としていたのは、ネット掲示板「レディット」。
フェイクポルノの作成に使ったのは、グーグルがオープンソースで公開している機械学習のためのライブラリ「テンソルフロー」などのAIの機能と、グーグルの画像検索、ユーチューブなど。
収集した有名女優の顔の画像とポルノ動画でAIを訓練した上で、フェイクポルノを自在に生成できるようにした、という。
これにより、映画『ワンダーウーマン』の主演女優、ガル・ガドット氏や、『ゴースト・イン・ザ・シェル』などで主演を務めたスカーレット・ヨハンソン氏、歌手のテイラー・スウィフト氏らの合成動画を作成し、公開していたようだ。
さらに「レディット」のユーザーの一人が、この「ディープフェイクス」のアルゴリズムを使い、専門知識がなくてもフェイクポルノがつくれる、というアプリ「フェイクアップ」を公開。
フェイクアプリが一気に拡散の動きを見せた、という。
その被害者は、著名人は言うに及ばず、中には知人やクラスメート、さらには元交際相手のフェイクポルノをつくる動きも見られたようだ。
しかも、それを仮想通貨によって販売する事態となっていた、という。
●ネットサービスからの排除が始まる
さらに、ツイッターも関連アカウントの停止を表明する。
排除の動きが広がる中で、「ディープフェイクス」のユーザーたちは、独自サイトを立て始める。
ただこの中には、閲覧者のパソコンのCPUを仮想通貨の「採掘(マイニング)」に使うという、「コインハイブ」と呼ばれるサービスのジャバスクリプトを埋め込んでいるものもあるようだ。
アクセスすると、ユーザーの知らぬ間に、マイニングをさせられていることになる。
●ニコラス・ケイジ氏のフェイク動画
ヒラリー・クリントン氏やドイツ首相のアンゲラ・メルケル氏の動画に、ドナルド・トランプ氏の顔を貼り付けたものも、出回っている。
また、映画俳優のアレック・ボールドウィン氏が「サタデー・ナイト・ライブ」で披露したトランプ氏のものまねに、トランプ氏本人の顔を貼り付けるといった、手の込んだものもある。
さらに、出演作が多いことで知られる映画俳優のニコラス・ケイジ氏の顔を、実際には出演していない『インディー・ジョーンズ』や『バットマン vs スーパーマン』など様々な映画に貼り付けたり、登場人物をすべてケイジ氏の顔にしたり、といった動画が次々にネットに投稿されている状態だ。
●AIが探知する
当初は、ユーザーの申告をもとに削除を行っていたというが、さらに取り組みを進めた。それが、AIによる「ディープフェイクス」のチェックだ。
「ワイアード」によると、ジフィーキャットが使うAIは2種類。
「マル」と名付けたAIは、GIF動画の中の人物の顔を認識し、タグをつける。もう一つの「アンゴラ」と名付けたAIは、GIF動画のソースとおぼしき高精細の動画をネットから探し出す。ソース動画と、チェック対象の動画の顔が違っていれば、それはフェイクとして排除される。
ただ、この検証作業は、有名女優など参照できる画像が豊富な場合は機能するが、リベンジポルノのような、一般の人々を素材としたフェイク動画の場合には、判定は難しい、という。
●AI対AI
AIを使い、オバマ大統領の自然な「口パク」動画を自動生成できた――。
ワシントン大学は2017年7月、そんな研究成果を発表している。
オバマ大統領の過去の講演などの音声ファイルをもとに、自然な口元の動きと表情でしゃべる新たなオバマ氏の動画を自動生成するという仕組みだ。
また、これに先立つ2016年3月に公開された「フェイス2フェイス」は、別人の表情を、ターゲットの動画とリアルタイムで合成することができる、というものだ。
マザーボードによると、この論文の筆頭筆者の独ミュンヘン工科大学のジャスタス・ティース氏は、やはり「ディープフェイク」のようなAIの悪用を探知するアルゴリズムの研究に取り組んでいる、という。
AI対AIの行方は、まだ決着はついていない。
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■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)
(2018年2月24日「新聞紙学的」より転載)