新監督就任2試合目という状況を考えれば、ベネズエラ戦は悪くはなかった。もちろん、まだ、チームとしての完成度は低かったけれども……。アルベルト・ザッケローニ監督の場合は就任が遅れ、アジアカップまで時間がなかったこともあって、基本的には南アフリカでのワールドカップに出場し、その後、原博実監督代行の下で2試合を戦ったチームをそのまま引き継いだ形だったので、アルゼンチン(勝ち)や韓国(引き分け)と対戦した時の完成度は現在のチームより高かった。
ハビエル・アギーレ監督は、ワールドカップ・メンバーに加えて、無名の選手を含めて多くの若手を加え、そして、実際に初招集組をピッチ上に送り込んで戦ったのだ。初戦となったウルグアイ戦では、「ぎごちなさ」ばかりが目についた。ワールドカップ組も本田圭佑が右サイドとか、森重真人がアンカーもしくはフォアリベロとか、これまでと違う、あるいはクラブと違うポジションで起用された。又、これまで日本代表に落ち着きをもたらしていた遠藤保仁が招集されず、さらに長谷部誠も故障で離脱。選手がとまどい、ぎごちなくなってしまうのも当然だったろう。任されたポジションをこなすことに汲々となってしまい、そのポジションから離れることが出来なくなってしまったのだ。その結果、動きの量が減り、選手間の距離が離れすぎ、前に飛び出していく動きが少なくなってしまう。
例えば、トップで起用された初招集の皆川佑介はボールをもらう動きを繰り返すのだが、動き自体が単調だったし、動いているのが一人だけというのでは、世界有数の守備力を誇るウルグアイのディフェンス陣を揺さぶることが出来るはずもない。
しかし、2戦目となったベネズエラ戦では選手たちも新しい並びに慣れてきた様で、次第に動きの量が増えていった。ベネズエラ戦でも、アギーレ監督の下で初出場という選手は多かったが、吉田麻也、長友佑都、森重真人、本田圭佑あたりは2試合目だったので、チームの軸みたいなものが見えはじめていた。こうして、本田が前でボールを持った時に、サイドバックの酒井高徳が追い越していくなど、選手と選手の間のコミュニケーションも上がってきていた。
「アギーレ色」として最も目立っているのはロングボールの多用だ。後方でボールを動かしながら、前線が動いてコースを作る。そして、長いボールをトップに当てて、落としたボールを拾って勝負に行く。あるいは、相手のプレッシャーがかかっている時には、無理に繋がずに蹴っておく。そんなプレーが、これまでの日本代表との違いとなる。
そこで問題となるのが、ワントップである(日本には人材不足なので、これは誰が監督であっても問題になる)。ウルグアイ戦では初招集の皆川が起用されたが、やはり、当然のことながら経験値に欠け、動きが単調過ぎた。ベネズエラ戦の先発は大迫勇也。ドイツに渡った事で、従来に比べてだいぶ「強さ」が出てきた様で、なんとかボールを収めることも出来たが、やはりミスも多く、時間と共に相手DFに覚えられて抑え込まれてしまった。2戦とも、スタート時にはサイドにいた岡崎が途中からトップに入ったが、さすがにブンデスリーガでトップを務め、二桁得点を記録した選手だけあって、左右のスペースに動いてパスを引き出す辺りは手慣れたもの。ベネズエラ戦は後半に入って攻撃が噛み合いはじめ、武藤嘉紀と柴崎岳が代表初得点を決めたが、攻撃のリズムが生まれたのは岡崎の功績が大だった。
果たしてアギーレ監督は、今後誰をトップに起用するのか。岡崎のプレーを評価して、彼にトップを任せるのか、それとも、やはりサイズを重視してハーフナー・マイクとか豊田陽平などを招集するのか……。ベネズエラ戦後の記者会見で、アギーレ監督は「アイデアは監督から与えるが、ピッチ上では選手がそれを応用、発展させていい」といった趣旨の発言を繰り返した。今回の2試合で「ぎごちなさ」を感じたのは、「長いボールを使いなさい」という監督からの指示に、選手たちがあまりに忠実に従ってしまったからだ。監督の指示に忠実なのは日本人選手の良さでもある(だから、ドイツでは日本人選手が好まれる)。だが、指示に忠実なのはいいが、「一辺倒」になってしまうのが、日本選手の欠点でもある。まして、新監督就任直後ということで、選手たちは監督の指示に気を使い過ぎたのだろう。
だが、状況によっては、監督の指示とは反対のことをしてもいいわけである(イビチャ・オシム元監督が、よくそういうことを言っていた)。アギーレ監督も、この2試合でそんな日本の選手たちの「忠実さ」を感じたのではないだろうか。だから、ウルグアイ戦の後も含めて、先程のような発言が出たのだろう。ザッケローニ監督の時代に、日本はパスを繋ぐサッカーを追求し、ブラジルでもそれを試みようとして失敗したが、あれは日本にとって強大な武器だった。あのパスを繋ぐサッカーと、ロングボールを使ったサッカーをうまく使い分けられればいい訳だ。
実際、ベネズエラ戦の前半最大のチャンスは柴崎が大迫にくさびのボールを入れた所から、最後は柿谷曜一朗が抜け出した場面だったが、あれもダイレクト・パスをポンポンと繋いだ形だったし、柴崎が決めた2ゴール目も中盤で柴崎が起点となり、武藤、岡崎と渡り、岡崎がドリブルで持ち込んでいる間に起点となった柴崎が大きく回り込んで、ファーサイドでフリーになったもの。パス攻撃が日本の武器であることには変わりはないのだ。
9月の2試合は、チームの戦術などよりも、アギーレ監督が選手を身近に観察して、日本の選手の特性を理解することが最大の目的だったはず。先程のワントップの問題も含めて、10月の親善試合(ジャマイカ戦、ブラジル戦)に向けて、新招集組の中で誰が生き残り、また、次に誰が新しく招集されるのかが注目される。得点を決めた武藤と柴崎は、得点シーン以外でも随所に持ち味を発揮し、当選確実。田中順也も2試合を通じて、魅力的だったが、さて……。守備陣の個人的ミスから4失点というのは、もう「相変わらず……」としか言い様がない。たった2つのミスをどちらも見逃してくれなかったウルグアイは、さすがに世界的強豪だった。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
(2014年9月11日J SPORTS「後藤健生コラム」より転載)