■「本田はイタリアの新聞を読まない方がいい」
本田圭佑が1月11日のサッスオーロ戦でセリエAデビューを果たしてから約2ヶ月。ACミランは依然としてチャンピオンズリーグ(CL)圏内から遠い9位に低迷している。ヨーロッパリーグ(EL)圏内の6位・ベローナとの差は4でまだ逆転の可能性はあるが、3位・ナポリとの差は15と来季CL出場は絶望的。本田自身もいまだリーグ戦ではゴールを奪えず、チームの救世主になりきれていない。
セリエA事情に精通する『Goal.com』イタリア版編集長のフレデリコ・カソッティ氏は「彼は今、激しい批判にさらされているが、それもメディアが本田の地力を認めているからだ」と前向きにコメントしている。
「選手として発展途上だったかつての三浦知良や中田英寿、中村俊輔とは違い、本田はCSKAモスクワでCL決勝トーナメントも経験している完成されたフットボーラーだ。ミランが彼を獲得したのはアジアマーケット拡大や営業収入増という目的も大きかったが、それだけのために来た選手でないとイタリアメディアはみな分かっている。最も能力を発揮できるのがトップ下だというのも多くの関係者の共通認識だ。
その位置で使われないだけでも本田にとっては不幸なのに、やはりミランの10番という目立つ存在を自分で選んだがために、表立って批判される。10番の選手はどうしても得点を求められるから、不振の原因がチーム全体にあっても、本田がゴールを挙げていないだけでA級戦犯のような扱いを受けるのだ。
イタリアのメディアはとにかく喜怒哀楽が激しく、目先の出来事にとらわれすぎる傾向が強すぎる。最終的に優勝した82年スペインW杯の時だって、決勝の西ドイツ戦の残り1分までアズーリへ凄まじい批判を繰り返していた。本田はイタリアの新聞を読まない方がいいし、メディア側ももっと冷静に彼を見るべきだ」と自戒の念を込めて強調した。
■「セードルフとカカを表立って批判しにくい」
現在のミランが100年を超える歴史の中でも特に厳しい時期にいることも、本田の苦境を助長しているとカソッティ氏は指摘する。
「今のミランはセリエBに降格した1980年から83年の暗黒時代に次ぐ苦境に立たされている。本田が来てから1週間で監督が3人も変わり、今の指揮官はベルルスコーニ名誉会長と太いパイプがあるというだけで呼ばれた指導経験のないセードルフ。確かに彼はカリスマ性があるし、かつて選手としてミランで輝いていたが、現役最後の2~3年はルーズなプレーが多くてファンからもかなり文句が出ていた。
そのセードルフは4-2-3-1のシステムにこだわっていて、不慣れな右サイドで使われている本田は本当に不運だ。それでもメディアはミランの常勝時代を作ったセードルフとカカを表立って批判しにくいから、鳴り物入りで移籍してきたアジア人の助っ人の本田に矛先を向けている。その見方は間違っている」と彼は冷静に語る。
ミランを筆頭に、セリエAのビッグクラブは勝利至上主義が非常に強く、結果として計算のできるベテラン選手ばかりを起用しがちだ。現在の主力を見てもカカが31歳、ロビーニョが30歳、ボネーラが32歳、デ・ヨンクとパッツィーニが29歳と高齢化が著しい。
成績不振のままシーズンが終わらない限り、彼らはチームをガラリと変えられないのだ。カソッティ氏は「むしろCLにもELにも出られずにセリエAに専念しながらチーム改革をした方がミランはいい方向に進む」とさえ言い切る。
■ミラン再構築に必要な本田
「セードルフは本田とモントリーボを高く評価していて、2人を攻撃的MFで使いたいという意向があるようだ。今はカカやロビーニョがいるし、アズーリ(イタリア代表)のこともあってモントリーボは守備的MFにこだわっているが、チームが若返れば前目のポジションを前向きに受け止める可能性が高い。
彼らを軸にサポナーラやポーリら若い選手を組み合わせて新たな攻撃の形を再構築すれば、ミランも生まれ変わるはずだ」と。
セードルフ監督が「本田は右サイドで十分やれる」と発言している通り、彼の起用法は当面は変わらないだろう。それによって彼自身も得点へのハードルが上がるのも事実だ。そして、ゴールが取れないうちはメディアからの風当たりは強いままだろう。
それでも、出口の見えないトンネルはないし、明けない夜もない。カソッティ氏が言うように外野からの声は気にせず、本田には先を見据えてイタリアサッカーに適応していってもらいたい。
【関連リンク】
(2014年3月1日フットボールチャンネル「効いていた右サイドでの動き。セードルフ監督が本田をトップ下に置かない戦術的な理由」より転載)