エージェンシースタッフの生活は、延々と続くプレゼン、タイトな締め切り、クライアントのために同時進行するもろもろの業務に浸食されて、ワークライフバランスがあいまいになりがちだ。
社員が過労自殺するなどの悲劇に直面している広告業界。少なくとも表面上は世界的な傾向として、心の健康増進につながる取り組みを奨励している。当然のことながら、エージェンシー各社は想定される妥当な労働時間を従業員に守らせるだけでなく、オフィス環境にも創造力を発揮している。
たとえば、アイリス・ワールドワイド(Iris Worldwide)は、スタッフの心身の健康を管理する常駐コーチを雇用し、オフィス内でのパーソナルトレーニングや週1回ペースのヨガ教室、サッカーとソフトボールの試合を催している。
このコーチはまた、禁煙志願者を対象にしたセッションを開き、リクエストに応じて鍼治療やストレス管理の講座、マッサージなども行う。
イギリスでは5月14日からの1週間、「精神衛生啓発週間(Mental Health Awareness Week)」だった。英DIGIDAYではこの機会に、英国内エージェンシー各社が、これまで導入したオフィス環境改善事例を教えてもらった。なかでも特に優れた取り組みを紹介する。
オグルヴィ:屋上ふれあいウサギ園
ふさふさした毛のペットはストレス緩和に大いに役立つ。ドッグフレンドリーなオフィスは、いまやロンドンでおなじみの光景だ。オグルヴィ(Ogilvy)はこのアイデアに、春の復活祭にちなんだひねりを加え、何羽ものウサギをレンタルして、サザーク地区にある同社オフィスの屋上にふれあい動物園を開設した。
ただし、実は「子犬に触れるセラピー」サービスがすべて予約済みだと知り、あとからひねり出した苦肉の策だったと認めている。
ウサギたちと交流するため、1200人のスタッフ全員に対して、この仮設動物園が開かれた。少なくとも半数が思い思いの時間帯に屋上を訪れ、ウサギたちとのふれあいを楽しんだ。
カラ:紅茶テイスティング
カラ(Carat)は毎年、精神衛生啓発週間のあいだに50の講座を開いている。2016年にはフラワーアレンジメントや卓球のトーナメント、リフレクソロジー(反射療法)、ガイドつきのウォーキングツアーといった多様なコースを実施。今年も霊気や循環トレーニング、紅茶のテイスティングなどが企画された。
カラはまた、1カ月間にわたる「メール制限」ポリシーも開始。従業員は平日の午前8時以前と午後7時以後、および週末のメール送信(社内へも社外へも)を控えるよう求められている。
エッセンス:「#ロンドンラブ」月間
エッセンス(Essence)は、とりわけ目まぐるしい今月、スタッフが適切なサポートを得られるよう全力を尽くしてきた。同社のロンドンオフィスで、6週間にわたって心の健康の増進に本腰を入れて取り組む「#ロンドンラブ(#LondonLove)」を展開。
この取り組みで、たとえば、昼休みにはストレスの多い状況に対処するスタッフを助けるマインドフルネスのセッションを、夜間にはプレッシャーの軽減を目的とするヨガのクラスを開いている。
また、オフィスにはトラック1台分ものヘルシースナックが買いだめされているほか、希望者は同社のヘルスパートナーのバイタリティー(Vitality)が行なう「ランチ・アンド・ラーン」セッション(ランチタイムに開かれる講習会)にも参加できる。期間終了の際にはパーティーが開催される予定で、スタッフらは6週間におよぶ努力をともに称えることになっている。
W+K:早朝ミーティング禁止令
ワイデン・アンド・ケネディ(Wieden+Kennedy)は、午後7時以降や週末にスタッフへ送信されるメールをなくそうと、1年がかりで取り組んできた。
フレックスタイム制も重視しており、その対象は乳幼児を抱える従業員だけではない。同社のロンドンオフィスでは、午前10以前や午後4時以後に社内会議を開くことは認められていない。
また、金曜日には仕事を4時半ちょうどに終了するほか、ウェルネスファンド(健康維持資金)も各従業員に支給される。
毎年5月、ワイデン・アンド・ケネディのスタッフは、2014年に亡くなった元グループアカウントディレクターのシェリル・ロジャーズ氏を偲んで、10kmウォーキングを実施している
ワイデン・アンド・ケネディのロンドン支社でマネージングディレクターを務めるヘレン・アンドリューズ氏は、つねにスイッチがオンの状態の現在のテックカルチャーでスタッフが行き詰まってしまわないようにするため、エージェンシーはさまざまな方法を絶えず再考すべきだと語る。同社では、休みなしにオフィスに入り浸ることがクリエイティブなアウトプットを促すとは考えられていない。
「電話に届くメールが意味するのは、我々がつねにオンになっているということであり、たとえオフォスにいなくても仕事について考え、実際に働く時間を延長しているということだ」と、アンドリューズ氏は語る。
「こうした状況は、やるべきことが大幅に増えたということでもある。反応が速くなり、物事が速く動くようになったからだ。たしかに素晴らしい面もあるが、これは考えるための時間が減っているということでもある。我々が求めたのは、現実に即した制度を導入することにより、より良いワークライフバランスの保護を促す一方で、深く創造的な仕事を実施するための時間的余裕をチームに与えることだ」。
エンジン:「ののしり言葉マラソン」
ハードに仕事をしていると、神経がすり減ったり、奇妙なののしり言葉が口をついたり、病的なほど業界用語を使いすぎたりする場合がある。エンジン(Engine)は、精神衛生啓発週間に合わせ、同社のクライアントであるMQの支援を目的とする「ののしり言葉マラソン」を開催して、この過剰なアドレナリンのはけ口をつくった。
これにより、期間中に下品な言葉や広告業界用語を使っているところを見つかったスタッフは、罰金を支払わされた。エンジンはまた、マッサージや年4回の栄養カウンセリング、登山、デッサンのクラスなど、さまざまなプログラムも従業員に提供している。
Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)
Image from 米DIGIDAY
(2017年5月26日DIGIDAY日本版「過労自殺を防げ! 英エージェンシーらのストレス対策事例」より転載)
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