ネイティブ広告の〝スノーフォール〟:NYタイムズの次の一手

ニューヨーク・タイムズが13日に公開したイマーシブ(没入)型の特集記事「女性受刑者:男性型の仕組みはなぜうまくいかないのか」が話題になっている。女性受刑者の実態を描いた1500語ほどの記事は、インタビュー動画、イラスト、データでリッチに作り込んだコンテンツ。そしてこれは、ニューヨーク・タイムズが制作したコンテンツ型の広告「ネイティブ広告」だ。ハーバード大学ニーマンジャーナリズムラボ所長のジョシュア・ベントンさんは、こう表現している。
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ニューヨーク・タイムズが13日に公開したイマーシブ(没入)型の特集記事「女性受刑者:男性型の仕組みはなぜうまくいかないのか」が話題になっている。

女性受刑者の実態を描いた1500語ほどの記事は、インタビュー動画、イラスト、データでリッチに作り込んだコンテンツ。

そしてこれは、ニューヨーク・タイムズが制作したコンテンツ型の広告「ネイティブ広告」だ。

ハーバード大学ニーマンジャーナリズムラボ所長のジョシュア・ベントンさんは、こう表現している。

このスポンサードコンテンツ(ネイティブ広告)は新たな〝スノーフォール〟だ。

●広告主はネットフリックス

ベントンさんが引き合いに出す「スノーフォール」は、タイムズが2012年の年末に公開したイマーシブ型のマルチメディア特集で、翌年のピュリツアー賞も獲得した。

動画やCG、データなどを駆使した、デジタルジャーナリズムの到達点としてメディア業界の話題をさらった。

「女性受刑者」は、その手法をネイティブ広告に活用したものだ。

広告主はレンタルDVDのネットフリックス

同社は大ヒット作「ハウス・オブ・カード」など独自コンテンツにも力を入れる。

女性刑務所を舞台とした人気コメディ「オレンジ・イズ・ザ・ニュー・ブラック」の新シリーズが6月から始まったのに合わせて、タイムズのネイティブ広告が企画されたようだ。

タイムズは「ペイドポスト」の名称で、今年1月から「ネイティブ広告」を開始

当初はデルが広告主になり、「新世紀世代(ミレニアルズ)」「行政と起業家精神」「ビッグデータ活用」「女性起業家」という4つのテーマで、700語程度、写真1枚というシンプルな構成のコンテンツを掲載していた。

●記事のトラフィックを上回る

ネイティブ広告は、メディアの新たな収入源として期待が集まっている。

その一方で、記事と広告の垣根が曖昧になることで、ジャーナリズムとしてのブランド価値や信用を損なわないか、との懸念もつきまとう

そして、タイムズのネイティブ広告は、なかなかいい滑り出しだったようだ。

広告担当の上級副社長、メレディス・レビアンさんによると、2月のソチ五輪に合わせたネイティブ広告「チームUSAとの旅」は、通常の記事のトラフィックをはるかに上回る20万ページビューを集めた、とウォールストリート・ジャーナルが報じている

ユナイテッド航空が広告主で、動画やインタラクティブ(双方向)マップなどデータジャーナリズムの手法も取り入れている。

タイムズは、同じ2月に公開している「資本市場のインタラクティブ(双方向)ガイド」(広告主:ゴールドマン・サックス)でも、地図やグラフ、アニメーションをデータと連動させるデータジャーナリズムの手法を全面的に取り入れている。

これらの取り組みの集大成が、今回の「女性受刑者」ということなのかもしれない。

●読者を引き込むジャーナリズム

女性受刑者」は1500語の記事、5分弱の動画のインタビューが3本と音声インタビュー、スライドショー、アニメーション、データなどで構成されている。

記事の内容も、当事者のコメントやデータが豊富で、女性受刑者を取り巻く課題を適格に指摘しながら、読者を引き込んでいくジャーナリズムになっている。

米連邦刑務局女性受刑者協会など、外部リソースへのリンクも充実していて、高い完成度のウェブコンテンツだ。

「オレンジ・イズ・ザ・ニュー・ブラック」と直接つながるのは、元受刑者としての体験をつづったドラマの原作者、パイパー・カーマンさんが記事とインタビュー動画に登場することと、ネットフリックスと番組のロゴ、コンテンツの一番下に置いてあるバナー広告ぐらいだ。

タイムズのネイティブ広告の目印である、青い縁取りと「ペイドポスト」の表示がなければ、これが〝広告〟だとは、まず思わないだろう。

●Tブランドスタジオ

制作を担当したのはタイムズ社内の専従チーム「Tブランドスタジオ」。タイムズのすべてのネイティブ広告で明示されているように、編集局の記者は、一切タッチしていないという。

Tブランドスタジオは、ウェブ/ソーシャルメディアの経験者ら9人のチームで、リーダーは元ビジネスウィークのエディター、アダム・アストンさん。「女性受刑者」のライター、メラニー・デジエルさんもハフィントン・ポスト、バズフィードを経験してきたブランドコンテンツ、ネイティブ広告の専門家のようだ。

「アドエイジ」が記事にまとめている

●関係者が「惚れ込む」

ニューズ・コーポレーションの戦略担当上級副社長、ラジュ・ナリセッティさんは、ツイッターにこう書き込んでいる。

ニューヨーク・タイムズのネイティブ広告の出来栄えには、今回もほれぼれしている。

そして、ニーマンラボのライター、ジャスティン・エリスさん。

スポンサードコンテンツ(ネイティブ広告)〝女性受刑者〟を全部読み終えたところだ。これはすごい。

ミズーリ大学ジャーナリズムスクールの助教、エイミー・サイモンズさんも、こんな投稿をしている。

突然、ネイティブ広告のことで頭がいっぱいに。ストーリーの語り口、倫理......告白すると、これを読んで虜になっている。

●リッチ化ばかりでなく

ネットフリックスは、5月にもワイアードで、スノーフォール型ネイティブ広告「テレビは上り調子」を公開して話題になっていた。

ネイティブ広告の表現の幅は、さらに広がっていくのだろう。

ただ一方で、「女性服役囚」と同じ6月に、ニューヨーク・タイムズで公開されたジョンソン・エンド・ジョンソンヒューレット・パッカードのネイティブ広告は、データや動画の要素はあるものの、ネットフリックスに比べてずっと地味な内容だ。

リッチ化ばかりが進むべき道ではない、ということでもあるのだろう。

(2014年6月14日「新聞紙学的」より転載)