「どうしても育てられない」と思った生みの親が、「育てられる」と思えるまで。

養子縁組仲介や妊娠相談の現場から
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(写真はイメージ)

子供をどうしても育てられないと思った妊婦。

そして、特別養子縁組で子供の親になりたい人たち。

養子縁組仲介や妊娠相談をしている一般社団法人「アクロスジャパン」には、その両者が訪れる。

「うちは基本的に、養子縁組支援しているとは思っていないんです」

生みの親が「『自分で育てたい』となれば、それはもう育てていくべきです」

第一子出産後、不妊治療を経て、第二子を特別養子縁組した、アクロスジャパン代表の小川多鶴さんはそう語る。現場を見つめてきた小川さんに、本当に必要な養子縁組支援や妊娠相談について聞いた。

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Kaori Sasagawa

――特別養子縁組は子供を育てる選択肢のひとつですが、アクロスジャパンでは、子供を生んでもどうしても育てられない妊婦のケアも大切にされていますね。妊婦と親になりたい人、どちらの問い合わせが多いのでしょうか。

どちらもいらっしゃいます。親御さんになりたいという方もいますし、うちは今、事務所が医療施設にあるので妊婦さんもいます。

未妊健というんですけれど。

――ミニンケン?

未来の「未」に、妊婦の「妊」に、健康診断の「健」です。妊婦健診を受診できてない妊婦さんです。

未妊健は、医療でも最も嫌われるひとつというか、ハイリスクでして、特に(妊娠)後期になるほどリスクは倍増するんですね。

一度も健診を受けていないお母さんは、なんらかの社会的事情、家庭的事情を抱えた方がほとんど。そうでなければ普通に健診に行けているはずなんです。

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bee32 via Getty Images

産科はたくさんありますけれども、(未妊健の)お産を「受けましょう」と言ってくれる所は、実はとても少ない。医師もリスクのあるお産は受けたくないですよね。

もちろん、妊婦が仮に性感染症や何らかの疾患を持っていて、いきなり駆け込んできて帝王切開となれば、妊婦にも赤ちゃんにも、医師側にもリスクはあります。

例えば、未成年で、お産の1週間前にうちとつながった方がいました。うちでは(お産を)受けられましたが、実はその女性はリスクが高すぎたため、公立病院で断られています。

関東圏の医療現場から紹介されて、うちとつながることもありますね。

人口の少ない地方では、地域の村役場に母子手帳ももらいに行けないお母さんもいる。

医師の知り合いを通じてうちにつながり、後期にこちらに入院して、計画的に分娩することもあります。

――年間、どのくらい問合せに対応されていますか。

年間相談件数は、養親、実親合わせて1000〜1500件です。いろんな話をして養親、実親さんとの面談まで進むのが年間100件。でも、面談したからといって、みんな養子縁組となるわけではありません。

うちは基本的に、養子縁組の支援をしているとは思っていないんです。

生んで育てていく人が「難しい」と感じる事情は何なのか、その課題と向き合っています。問題点をちゃんと聞き取ってカウンセリングして、社会的資源などによって問題解決されるのであれば、「じゃあ産める、育てられる」となる方もたくさんいます。

そうなっていくのが9割ですね。

早期、中期の「育てないで中絶します」という相談もあります。中絶することへの葛藤や是非を自分で問いながら、「悩みを聞いてほしい」という方もいます。

――「どうしても育てられない」と思った妊婦が連絡してくる。でも9割の人たちが「育てられる」と思える。どういった支援をされているのでしょうか。

大したことは話していないと思います。でもうちは相談事業ですから、どんな方からの相談でもきちんと聞かせてもらっています。

人によって価値観って違いますから、十分にお金があっても、育てるのが難しいと感じる人は難しい。物理的な問題解決だけではないと思ってます。

――物理的、金銭的な問題が多いのかと思っていました。

はっきり申し上げて違います。

子育てしていて、楽しくない人、楽しい人、うつになっちゃう人、そうじゃない人、いろいろいます。

産後うつになる人の中にも、はたから見ると「なんであの人が」というのはあります。家も大きくて、お金もいっぱいあって、パートナーだってちゃんと働いていて、自分は家にいるのになぜ? という人もいます。

何の問題があって、なぜ子育てできないと悩んでいるのかをちゃんと傾聴し、相談者が自分で問題点を把握できるよう、カウンセリングしていきます。

私たちからしたら「そんなことで」と思うようなことも、彼女たちにとっては大きな問題。カウンセリングをきっかけに、自分の家族と話し合えるようになる人もいます。

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Kaori Sasagawa

――相談者が自己解決していく。

「自分が育てたい」となれば、それはもう育てていくべきです。

行政につないだり、子育て支援にもお声がけしたりして「今日退院しました、そちらに行くように言いましたから、あとはフォローお願いします」と伝えたりします。

それでも無理だったら、また相談してくれればいい。

相談者に自主性を持たせたソーシャルワーク(社会福祉)をする。そうしたうえで、養子縁組に到達する方が約1割という話です。

――相談はどんなツールが多いですか。

どこの国も同じですが、年代によって違います。今の若い人は本当に長文が苦手で、どちらかというと3行くらいの短文、チャット形式の方が相談テンポはよくなります。

電話もメールもハードルが高いし、「長い話はウザいし面倒くさい」と言う人も多い。書いてほしい書類を送っても、読んでも書かないってときもある。

未成年のお父さん、お母さんから相談が入るときは、電話やLINEから始まるのが多いですが、とにかく面談しないとわからない。どんな世代でも、いくら書式が立派でも、話し方が落ち着いていても、面談をして初めてわかることが沢山あります。

――アクロスジャパンでは、生みの親と育ての親は、会う機会はあるんですか?

委託するときに会ったりします。例えば、お母さんがすごく複雑な家庭で育ち、家庭という絵を思い描けないとき、安定した夫婦に会うと、彼らも思うところはたくさんあるみたいです。

お母さんが赤ちゃんを養親さんに委託するとき、「自分もこんな家で育ちたかったな」「私が養子に行きたい」と言うことは時々あって、そこにいろんな意味があると思います。

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Miho Aikawa

一目赤ちゃんを見るだけで、どこに行ったかわからないよりは、「あの夫婦に今育てられているんだな」とイメージ出来ることは、彼女たちのグリーフ(深い悲しみ)に大切なことです。

ただ双方が「いい」といった場合の1回だけです。その後は、子供のためにも交流はしません。

――実子がいて、2人目、3人目を養子で迎えた人もいますか? 今は、不妊治療の先にある選択肢と捉えらている部分もありますが、実子がいる人の選択肢としても広がればと思うのですが。

いっぱいいらっしゃいますよ。私もそうですしね。

団体によってルールが違うようですが、私は2人目不妊もいいと思います。3人目、もっといいんじゃないですか。生んで育てたからこそわかることは、子育てで出会う困難を乗り越えていく力になります。

養子縁組じゃなくても、連れ子だったけれど、パートナーが病気で亡くなって育てているという人もね。そういうすべてのことは、一般生活においては養親子・実親子、関係なく世の中にいっぱいあります。

――実際に迎えられた人は?

2人実子がいて、流産を経験されて、3人目に障害のあるお子さんを迎えた人もいます。第3子と第4子に、ダウン症のお子さんを迎えられましたね。

障害児のお医者さんなので、「他の人が障害と思っても、ダウン症なんて染色体が1個多いだけだしね」と言っていました。親御さんの持っているものさしはそれぞれ違いますから。

一般の家族になれば、そんなに毎日、養子養子と考えて生きている人はいませんから、普通でいいんですよ。

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Nadezhda1906 via Getty Images

――長年、特別養子縁組の支援をされてきました。家庭的擁護のありかたも転換期を迎えています。長年活動されてきた事業者の立場から、どんなふうに変わっていけばいいと思いますか? 

塩崎前厚労相が新しい社会養育ビジョン(※)を出されて、「75%の子供は家庭に行きましょう」となりました。「養子縁組の数を(現状の)2倍にしましょう」とおっしゃいました。

※「新しい社会的養育ビジョン」で、3歳未満の児童は概ね5年以内、それ以外の就学前の子どもについては概ね7年以内に里親委託率75%以上を実現することや、特別養子縁組の成立件数を現状の約2倍となる年間1000件以上にする目標が盛り込まれた。

今は数字ばかりが目立っていますが、養子縁組は、「何ケース成立したからいい」というものではありません。本当に促進したいのなら、今利用者が何を必要としているかを見据えたうえで支援をして行くべきだと思っています。

――実親も含めて、支援を必要とする側の視点が必要だと。

国や行政は、定めた規約に沿った支援が得意ですが、どうしても制度を使う相談者や利用者を置き去りにしがち。制度をつくるなら、みんなが制度を使いやすい、使いたい、と思えるものにしなきゃ利用してもらえない。

なぜ実親も養親も、気軽なところにいくのか。なぜ実母が行政に相談しに行きにくいのか。行けないからです。

私たちがなぜLINEでやりとりをするかというと、相談者がLINEなら気楽に話せるから。妊婦さんは、自分が相談しやすいところを選んでどこに相談するか、自分で決められますからね。

あくまでも相談支援は、相談者が主体。この人たちが今何を必要としているかに沿って支援は行われるべきです。

――4月に、養子縁組あっせん法が施行されました。民間事業者は、これまでは都道府県への届け出で済んでいましたが、審査が必要な許可制に改められます(2016年の成立件数は495件で、約3分の2を児童相談所、約3分の1を民間事業者があっせんしている)

もともとは団体への規制で、このあっせん法案はつくられました。でもきっと逃げ道はいくらでもあるんです。だから「規制法をつくりました」「もう大丈夫」では絶対にないでしょう。

養子縁組の成功は、養子に行った子どもが、幸せに養親とともに生きていくこと。かつ、実親もその経験をバネに「良かった」と思えること。できる限りマイナスにしないのが成功の鍵です。

――アクロスジャパンのような民間事業者と児童相談所(児相)などが連携していくことも意味があると思います。家庭での養育を必要としている子供たちが、育てたいと思っている人とつながる接点が増えるのはいいことだと。

うちのケースは児相に沢山関与していってもらっています。お互いできる役割が違うと思いますし、たしかに協働は必要だと思います。行政には行政が得意な支援がありますし、私たちは、制度と制度の狭間に落ち込みがちな人たちの支援は得意です。

双方が組み合わさるとよりいい支援ができますし、お互いにうまく情報共有しながら、相談者の主体性を大切にしながら、支えることができればいいと思っています。

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