総務省の調査によると、2019年の転職者数は351万人と過去最多。就労者の5%以上が転職をした計算だ。さらに、女性の転職者数が男性を上回る水準で推移しており、年齢にとらわれない女性活躍の場が増えている気運が感じられる。(※1)
一方、同年のジェンダーギャップ指数で、日本は153カ国中121位。健康、教育、政治、経済という4つの評価項目を見ると、特に「経済」分野で遅れをとっている。中でも、「管理職につく男女の格差」は世界平均の半分以下のスコア、つまり格差が非常に大きい項目であり、「女性活躍」の課題が浮き彫りになった。(※2)
厚生労働省の調査でも、管理職に占める女性の割合が11.8%であることがわかっている。
そんな国全体の課題解決に向けて取り組む、世界最大規模の有名企業がある。同社に中途女性管理職として入社した藤平文香さんに、女性活躍のリアルを聞いた。
約51万人の従業員数を誇る世界最大級のコンサルティング・ITサービス企業、アクセンチュア。
一般的にこうした業界は女性の割合が低いと言われるが、同社は今年6月時点で、日本法人の従業員のうち女性が約36%。女性管理職は約17%。誰もが等しく能力を発揮できる環境づくりにより、女性管理職の割合も増え続けている。
同社に、中途女性管理職として2016年に入社したのが藤平文香さんだ。金融業界一筋のキャリアを築いてきた彼女が、コンサル未経験にも関わらず管理職として転職したワケとは?
── 藤平さんが異業種に、管理職として転職した理由を教えてください。
藤平さん(以下、藤平) とにかく新しいチャレンジをしたくて。前職でも管理職を務めていて、やりがいはあるものの、「視野の限界」を感じていました。転職エージェントの方が金融業界以外の企業をいくつか提案してくれた中で、目に留まったのがアクセンチュアでした。
とはいえ、最初からアクセンチュアが候補だったわけではないんです。名前は知っていましたが、正直、外資系コンサルと聞くだけで「男性が多く、ハードで体力勝負」というイメージが...。
── そのイメージを覆したポイントは、何だったのでしょうか。
藤平 まず、女性活躍のメッセージですね。「男性社会」だと思っていた会社が本気で女性活躍を推進していて、実際に女性社員の割合が増えているというのがとても印象的でした。
さらに、私が今まで培ってきた経験をデジタルテクノロジーと組み合わせることで、もっと大きなビジネスにできるという点が魅力的でした。もちろん、「周りのレベルについていけなかったらどうしよう」とか、ハードワークへの心配もありましたが、それ以上に採用面接がとても楽しくて。「ここなら壁を超えられる」という期待の方が大きかったです。
「変化」と「継続」のバランス、その難しさ
営業改革やマーケティング活動の設計など、顧客企業の「成長」に特化したコンサルティングサービスを提供するグループに、管理職として入社した藤平さん。彼女を「キャリアカウンセラー(※3)」としてサポートするのが、木原久明さんだ。
藤平さんを採用面接当時から知り、入社から現在まで共に歩んできた木原さんから見た変化とは?
── コンサル未経験の中途女性管理職が少なかったそうですが、藤平さんが悩んだことはありませんでしたか。
藤平 キャリアを変え、今までと違う働き方をするという「変化」と、これまで培ってきた経験を生かすという「継続」。そのバランスは結構悩んだポイントです。
でも、木原さんが一緒にロードマップを考えて、「藤平だからこそのスキルや経験」を見て様々なプロジェクトに参加させてくれたので、ここでも期待や心強さの方が大きかったかな。
木原さん(以下、木原) 「私、まだ銀行員のやり方してる」ってしばらく言ってましたよね。でも全てを変えることが正しいわけではなく、藤平さんならではの視点があってこそ、新しいアイデアが生まれたり、周りが学んだりすることもたくさんある。
当社も昔は新卒文化で、管理職は「自分のコピーとなる部下の育成」を重視していました。ただ、社会が急速に変化する中、果たしてこのやり方が正しいのか、ふと疑問に思い始めたんです。
多様なタレントを持ったメンバーが集まることで新たな視点が加わり、イノベーションを起こせる。「自分にない経験や能力を持つ人」をいかにマネジメントできるかが、管理職として重要なスキルだと思っています。藤平さんにも、彼女の知見が生きるポジションを同僚に相談しながら、いろいろなプロジェクトに挑戦してもらいました。
藤平 最初に参加したのは、まさに私の経験を生かせる、国内の金融機関がお客様のプロジェクト。無我夢中でやっていて、気付いたらグローバル案件に発展していて...。自分の知見と、周りの人のアイデア、デジタルテクノロジーが組み合わさることでビジネスが大きくなることを実感しましたね。
── 木原さんから見た、藤平さんの変化は。
木原 当初は、芯を持っている人だなと。一緒に仕事をしてみると、変化に対応できる強さや、人に頼ることができるしなやかさも兼ね備えていることを知りました。変化というより、もともと持っていたポテンシャルかもしれません。
ある程度キャリアを積むと、周りを頼れなくなる人もいると思うんです。ただ、彼女は持ち前の人懐っこさ、自分は変われると信じる強さがあり、足りないことを客観的に見極めて周りに質問できる。この柔軟性が、その後の活躍に繋がったのでしょう。
藤平 最初は経験豊富な先輩とペアを組ませてもらい、資料の作り方や基本的なお作法を学びました。入社前は外資系コンサル=ドライな印象がありましたが、いざ相談してみると、皆さんすごく親身になってくれて。コンサルは困っているお客様を支援する職業なので、人を助けたい方々が必然的に集まっているのかもしれません。
「制度」や「目標」だけが先行せず、女性社員、女性管理職の割合が数字として増えているのも、こうしたサポートがあってこそだと実感しています。
「コンサル業界未経験者がリーダーになる時代を」
── 藤平さんは、昨年シニア・マネジャーに昇格されたと聞きました。これからの目標は。
藤平 新しいポジションに就き、「いかに組織に貢献するか」をより考えるようになりました。コンサル未経験だからこそわかる「共感」や、これまで参加してきたプロジェクトの経験を生かして、最高のチームを作りたいですね。
木原 コンサル未経験者が、アクセンチュアのリーダーになる時代を作っていきたいです。それが当社の発展、そしてお客様である様々な企業の変革にもつながるはず。その意味でも、藤平さんはパイオニアとして組織を大きく成長させてくれました。
今、国内外で、働き方もビジネスも大きく変化し続けています。変化を受け入れ、柔軟に対応できなければ、企業が生き残れないことを誰もが感じていますよね。
藤平 働き方という点では、在宅勤務やフレックス制度など、社員一人ひとりが自分らしく働ける環境がもともと整っていたので、コロナ禍でも支障なく仕事ができています。これも、変化への柔軟な対応。
私の入社当時と比べて、今ではコンサル未経験の中途女性管理職が増えています。同じ立場の仲間から「できることを増やしたい」「もっと上のポジションを目指したい」という声を聞いて、すごく勇気づけられるんです。
入社から4年経った今も学びの連続。足りない視点がまだまだあると感じていますが、コンサル未経験ならではの視点を生かし、組織に貢献できる環境があると自信を持って言えます。いろんなバックグラウンドを持った方に、当社の一員になって欲しいです。
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働き方、ビジネスに変化が求められている今。多くの企業は、あらゆる人の働きやすさを考えた制度や環境の必要性に直面している。
そして私たちも、自身が変化し、成長し続けられる環境について改めて見直してみるチャンスだ。一人ひとりが挑戦し、組織に変革をもたらすことで、社会は少しずつ、しかし着実に変化していく。