「児童生徒の問題行動」と言われると、どんなことを想像されますか?
"もん‐だい【問題】"の意味には、「課題」「困った事柄」といったものもあります。
文部科学省は毎年、全国の小学校、中学校、高等学校、特別支援学校を対象に「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」を実施しています。
この「問題行動」として調査する具体的な内容は「暴力行為、いじめ、不登校、自殺等の状況等や、高等学校における中途退学者について」です。目的は、「生徒指導上の諸問題の現状を把握することにより、今後の施策の推進に資する」としています。
例えば、文京区教育委員会が発表している調査結果は、以下の通りです。
平成27年度 児童・生徒の問題行動等に関する状況について
http://www.city.bunkyo.lg.jp/var/rev0/0121/0793/siryou_5.pdf
私は、まずこの調査のタイトルに、違和感を覚えます。
文科省がこの7月にまとめた「不登校児童生徒への支援に関する最終報告」には、以下のように明記されています。
不登校とは、多様な要因・背景により、結果として不登校状態になっているということであり、その行為を「問題行動」と判断してはいけない。
このように、文科省がまとめた報告書で、不登校を「問題行動」と判断しないことの周知を進めることを打ち出しながら、一方では、問題行動の一つとして「不登校」をあげて調査を行っていることに矛盾を感じます。
病気などによる長期欠席を「問題行動」とし、暴力行為と同列に調査がされていることもまた、問題を感じます。
そもそもが、暴力行為にしても、単純に「問題行動」という切り口で対処して良いのか疑問を持ちます。
個々の暴力行為の背景には、児童生徒の抱える様々な課題、個人を取り巻く家庭、学校、社会環境などの要因があるものと考えられる
<暴力行為のない学校づくりについて(報告書)より>
暴力行為をした子自身が、困っている子であるという目線が、実は、とても重要なのだと思います。
例えば、相手の気持ちが分からない、自分の思いを伝えられない、自分の感情を抑えられないといった、自分でも困っている児童生徒への理解が不十分であるために「教職員や周囲からの指導・援助が不適切なものになり、暴力行為に至る事例も見られる」との報告もあります。
いじめについても同様で、いじめる側の子ども自身も何らかの問題を抱え、そのことがいじめにつながる要因になっている場合も多いとのことですので、いじめる側も、実は、支援を要している子どもであるという認識をもって、解決にあたるべきです。
「児童生徒の問題行動の調査」ではなく、「児童生徒の要支援行動の調査」のようにタイトルを変えてほしいと思います。
ちなみに、「児童生徒の問題行動等」の調査には、別の大きな問題も含んでいます。特別支援学校への調査は「いじめ」のみで、長期欠席、不登校、暴力行為、退学についての調査をしていませんでした。
厚生労働省がまとめた「今後の障害児支援の在り方について」では、障害のある子が不登校になった場合や、学校を退学したため学籍をなくしたときの学び等の場についての問題が指摘されています。そのため、「児童生徒の問題行動等」の調査で、特別支援学校の不登校や退学の実数を知りたいと思い、文部科学省に取材をしたところ、「特別支援学校に対しては調査を行っていない」との回答でした。
理由は「ねらいが違うから」といったことでしたが、私にはまったく理解不能です。
障害の有無で、不登校や退学、暴力行為等の実態を調査するしないを分ける必要があるのか?大きな疑問を持ちます。障害を理由に除外することを禁じる「障害者差別解消法」の考え方から逸脱するものとさえ思えます。
厚生労働省が障害児の不登校や退学の課題を抽出していながらも、文科省との連携ができていない、まさに行政の縦割りの弊害であると指摘せざるを得ません。
障害の有無に関わらず、不登校や長期欠席、暴力行為、退学という行動で、支援を求めていることを訴えていることには変わりがありません。来年度からは特別支援学校の実態も把握してほしいと求めました、
「問題行動の実態調査」は、学校に適合できない行動を取れば「問題のある生徒」として子ども本人の問題とされ、「問題のある生徒の事例収集」のようなネガティブな調査にも映ります。
このような視点による課題認識からは、「問題行動をしないように押さえ込む」という短絡的な指導に繋がってしまう危険性も潜んでいます。
子どもが問題行動を起こす時、そこには必ず、抱えている要因があったり、きっかけになる出来事があったり、何か背景があるはずです。表面化した行動だけに目をとらわれるのではなく、一人一人の異なる背景に目と心を丁寧に向けて、本質的な改善に向けて学校の先生だけでなく、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーを常勤させるなどして、多様な側面から子どもの困り感を支援して頂きたいと願っています。
子どもの目の前の行動だけでなく、その背景にまで思いを馳せられるような先生をはじめとする大人の存在は、全ての子どもたちに安心感を与えるポジティブな支援に繋がると信じています。