「私は最後ではない」(I won’t be the last.)
アメリカ副大統領カマラ・ハリス氏の米大統領選・勝利スピーチにあった「私は最初の女性かもしれないが、最後ではない」。この言葉は、ジェンダー平等を願う世界中の女性に勇気を与えた。
ハリス氏がアメリカ初の女性副大統領に就任したタイミングで、不動産賃貸仲介大手のエイブルはメッセージ広告を新聞に掲載。「女性初」の言葉が使われる背景には、男性優位社会があると言及した。広告を企画し、単身世帯の女性に対して生活支援をおこなうサービス「MAISON ABLE(メゾンエイブル)」を立ち上げた同社の赤星昭江氏に、メッセージに込めた意味と、女性の自立を支援する理由を聞きに行った。
ひとり暮らし女性900万人の1/3が貧困
──“「女性初」が、ニュースなんかじゃなくなる日まで。”というメッセージが印象的でした。コピーが生まれた背景を教えてください。
赤星:ハリス氏が副大統領に就任し、これからも女性が続くと発信したことは、私たちへの素晴らしいエールになりました。でも、女性が重要な役職に就くたび「女性初」がニュースになることには疑問を感じています。男女平等が当然のことであれば、「女性」であることを強調しませんよね。
女性の活躍が「特別なニュース」ではない社会になって欲しい。そんな思いから、このコピーが生まれました。この思いは、2017年に業界で初めて単身女性の割引「女子割」をはじめたエイブルの考えを表したものですし、同時にエイブルが展開している、ひとり暮らしの女性を応援するサービスMAISON ABLEに通ずるものでもあります。
紙面デザインにはメゾンエイブルのブランドカラーのピンクを使用しました。女性=ピンクはステレオタイプな価値観なので他の色の展開も慎重に検討しました。しかし、今回は多くの方にメゾンエイブルを知って活用してもらいたい、また女性初副大統領就任をお祝いしたいという考えで華やかな色としてこのピンクを選んでいます。
──MAISON ABLEはひとり暮らし女性を支援するサービスですよね。不動産賃貸仲介のリーディングカンパニーとして、最近の女性の暮らしの変化や課題をどう感じているのでしょうか?
赤星:エイブルは女性のひとり暮らしをこれまでもサポートしてきましたし、今後の変化についても調査しています。単身世帯は年々増え、2035年には国内世帯の半数近くが単身世帯になると予測されていますが、特に増えるのは女性の単身世帯です。
国内のひとり暮らし女性は現在約900万人。マイノリティではなくなりました。ですが、その1/3が貧困層。「貧困女子」というワードもよく聞くようになりましたよね。国立社会保障・人口問題研究所によると、貧困の定義は手取り収入から家賃を引いた金額が85,000円以下の生活。ひとり暮らし女性の1/3が85,000円以下で日々の生活をやりくりし、金銭的に不安を抱えている現状があります。
──女性のひとり暮らしが金銭的に苦しくなる要因には、賃金格差もありますよね。
赤星:2020年のジェンダー・ギャップ指数ランキングで、日本は121位、賃金の平均も男性に比べて女性は7割程度です。まだまだ男女の賃金格差は大きいのに、生活コストは女性のほうが高いという調査結果もあります。
そこでエイブルでは、ひとり暮らしで自活・自立しながら頑張る女性を応援する必要があると考え、MAISON ABLEを立ち上げ、サポートを続けています。
すべてのひとり暮らし女性を365日サポートするMAISON ABLE
──ひとり暮らしの女性に注目したサポートはこれまでなかったものですね。赤星さんがMAISON ABLEを立ち上げたきっかけはなんですか?
赤星:実は私自身の経験が、MAISON ABLEの企画の元になっています。就職して大阪で一人暮らしをはじめたとき、家賃や生活出費が収入の大半を占め、節約を続けているうちに食生活が乱れ、仕事中に体調不良で倒れるという経験がありました。当時は誰の力も借りることが出来ずに、辛かったことをよく覚えています。そうした自身の経験から、地元を離れ、ひとり暮らしでがんばる女性を応援したいとずっと感じているなか、2016年に当時のエイブル社長(現:エイブルホールディングス社長)の平田も同じ課題を感じ共感してくれたことがきっかけで、MAISON ABLEのブランドを立ち上げました。
──辛い経験から…。MAISON ABLEでは、どのような取り組みでひとり暮らしの女性を支援しているのでしょうか。
赤星:ひとり暮らしの女性を365日サポートすることを目指し、「衣食住」で応援しています。美容やファッションなどオシャレを楽しむ生活のなかで+αとなる特典のほか、食事やスキンケアなど日常生活のなかで必要不可欠な特典を提供しています。
会員制ですが、国内に住むひとり暮らしの女性であれば誰でも入会できますし、入会費も年会費も不要で、エイブルで物件を契約している必要もありません。
──エイブルと賃貸契約がなくてもサービスが受けられるとは意外でした。顧客に限定せずに実現できるのはなぜですか?
赤星:エイブルは国内のひとり暮らし女性全員を応援したいと真摯に考えています。そのため、MAISON ABLEに契約者限定といった制限は設けていません。
特典はひとり暮らし女性を応援する思想に共感していただいた提携企業にご協力いただいています。グルメ・ビューティ/ファッション・インテリア・ライフサポート・トラベル・エンタメ・レッスンの7つのカテゴリがあり、ユーザーは各種特典を無料で利用できます。ゆくゆくは、毎月「仕送り」という形で企業からのスペシャルな特典をお贈りしようと今準備を進めています。
──「仕送り」というネーミングにあたたかみを感じます。提携企業は何社ほどでしょうか。
赤星:「グルメ」ではエクセルシオールさんやフレッシュネスバーガーさんや吉野家さん、「インテリア」ではFrancfrancさんやサブスクリプション型サービスのCLASさんなど、現在およそ30社ほどです。お買い物の割引やドリンク無料など日常生活がお得になる特典のほか、MAISON ABLEのオリジナル特典として、洋服のレンタルや回転スイーツ食べ放題カフェなども利用できます。
国内最大級、20万人の単身女性コミュニティなので、提携企業にとっては、ひとり暮らしを始めたばかりの女性に自社サービスを認知してもらうきっかけ作りや、長期的に愛用してもらえるブランディングのメリットもありますね。
ひとり暮らしを始める理由のトップは「自活・自立したいから」
──先ほどご自身の体験についてお聞きしました。大変さを実感しつつも応援を続けるのは、ひとり暮らしには意味があると考えているからですか?
赤星:これからひとり暮らしをする予定の人に、なぜひとり暮らしを始めるのか理由をアンケート調査したところ、トップは進学や就職などではなく、「自活・自立したいから」が半数以上の回答でした。特に20代後半では60%以上になっています。とてもポジティブな回答だと感じていて、これだけ価値観が多様になり、女性が活躍している中で、誰かに頼らなくても生きていける強さが現代女性に求められているように感じます。特にその重要性がコロナ禍の不安でさらに強まったと感じています。
MAISON ABLEで実施した恋愛感についてのアンケートでは、回答者のうち70%以上が人生において結婚・同棲は必ずしも必要でないと答えています。今後ひとりで生きていくという選択をする女性も増えることが予想されます。そのような状況のなかで、女性が人生を豊かにするために、結婚や同棲、恋人有無に関わらず、人生の困難や課題に直面した時に自分自身でしなやかな対応ができる強さ(自活・自立力)がより求められていくと思うんです。
まだコロナ禍で不安な状態が続いていますが、だからこそひとり暮らしをしようと思った勇気、自立したい気持ちを応援したいと思っています。
女性の活躍が当たり前の社会
──女性の自立・自活には、ジェンダー・ギャップという課題があります。
赤星:そうですね。日本では男女の賃金格差が大きいですが、女性の就業率は7割を超えていて、アメリカを上回っているんです。ハリス副大統領だけが特別な女性ではなく、私たちにも「働きたい」「自立したい」という意欲があって、社会がまだ対応できていない。「女性」が活躍することが当たり前の社会、ジェンダー平等の実現にMAISON ABLEが貢献できると考えています。
──そのために、MAISON ABLEではこれからどのような展開を予定していますか?
赤星:女性の自立のためにはスキルアップや、投資等のお金の知識も重要ですよね。今後女性のスキルアップ・キャリアアップに繋がる無料ウェビナーを定期的に開催する予定です。同じ目標を目指して講座に参加するなかで、単身女性同士つながる可能性も生まれます。コロナ禍で課題となる、社会的孤立を防ぐ効果も作っていけるようにウェビナーをゆくゆくはコミュニティ化していきたいと考えています。
私たちエイブルグループ自身も、役員のほとんどが男性であったり、企業としてジェンダーに関する取り組みがまだ足りてないところもあります。そこを改善しながら、きちんと理念を共有し、信頼できる提携企業とともに、社会全体での支援を目指しています。「女性初」がニュースにならない日が来たら、特に女性にしぼった支援は必要がなくなるかもしれません。でも今はまだ、MAISON ABLEにできることがあるはずです。
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金銭面や孤立といった課題も多いが、それ以上に自立する力を育て、成長させてくれるひとり暮らし。先の見えない時代だからこそ、自立・自活を目指す女性が増えている。単身世帯をベースに女性をサポートする「MAISON ABLE」を知って、ぜひ、ひとり暮らしをより有意義なものにしてほしい。
(執筆/樋口かおる 編集/磯本美穂 撮影/小原聡太)