イギリス史上最悪の産業事故、ボタ山崩落から50年 子供たちを失った母親たちの半世紀

「いつだって心の中にいるんです、そうでしょう?」
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イギリス・南ウェールズの炭鉱村アバーファンで1966年10月21日にボタ山(石炭を掘る際にまじってくる岩石や、質の悪い石炭の塊を集積した山)が崩落し、近くにあった小学校を直撃し小学生116人を含む144人が死亡した事故から50年が経過した。

このイギリス史上最悪の産業事故で、ウェールズ南部の小さな村は壊滅的な被害を受けた。

アバーファンはその朝、一世代ほぼ全員を失った。午前9時15分、炭鉱付近のボタ山が崩れて10万トンもの岩くずが斜面を滑り落ち、パントグラス小学校をはじめ多数の民家を直撃した。

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1966年10月21日、アバーファンの村になだれ込んだ瓦礫の上に立つ救助作業員たち AP

もしこの崩落がほんの数分早ければ、子供たちはまだ学校にいなかったかもしれない。ほんの数時間後だったら、授業を終えて中休みに入っていたかもしれない。

だが現実は違った。この事故で亡くなった116人の子供たちのうち、大半が7〜10歳だった。そして大人たち28人が命を落とした。

144人の犠牲者の多くはボタ山崩落の直撃で命を落としたが、窒息死した人もいた。

瓦礫から救助された人もいたものの、同日午前11時までに全員が息を引き取った。

小さな小学校になだれ込んだ岩くずの量は膨大で、現場から全員の遺体が回収されるまでに約1週間を要した。

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斜面を流れ落ちた泥漿の空撮写真 PA/PA ARCHIVE

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学校内部の人々を懸命に捜索する作業員たち PA/PA ARCHIVE

イギリスのテレビ局ITVが10月12日午後9時から放送したドキュメンタリー番組「The Aberfan Young Wives Club」では、痛ましい事故から50年間、アバーファンが歩んできた道のりに迫っている。

この番組では悲劇に直面したコミュニティの中でお互いを支援し合うために結成された、アバーファンの若い女性たちのグループに焦点を当てている。

彼女たちはそのグループを「Aberfan Young Wives Club」と呼んでいた。グループは規模を拡大し、イベントや講演の開催、家族を失った人たちがお互いを助け合う活動を行った。

グループの女性の中には、今回初めて事故についての体験を語った人もいる。

この事故で9歳の娘アネットさんを亡くしたジョイス・ヒューズさんは、「私はいつも、あの子が学校に遅刻しないよう急かしていました。その日も、『早くしないとバスに乗り遅れるわよ、ほら早く行きなさい』って言ったんです。そしてあの子は歩道を走っていきました。そして私に手を振ったんです」

「それがあの子を見た最後でした」

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救助隊の懸命な努力もむなしく、瓦礫の中から助け出された生存者はわずかだった。

10歳の娘ジャネットさんを事故で失ったマリリン・ブラウンさんは、そのボタ山が安全かどうか疑わしいという噂があったと語った。「ボタ山で働いていた人が、事故のずっと前に『水が流れてきている』という話をしていたんです。

でも、何も対処されませんでした。そういうことに鈍感になってしまっていたからだと思います。崩れることなんてない、そんなこと起こらないよ、って。そのボタ山で働いていた人は、全てを知っていたからこそ警告していたんです」

彼女は事故当日の現場の様子について語った。

「甥が家に駆けこんできて、『学校に行った方がいい、何かあったみたいだ』と言いました。私は古いサンダルと緑のコートを着ていたことを覚えています。それで私は『何があったの?』と言いました。

学校に行ってみると、そこはとても静かでした。多くの女性たちがいて、とても悲しそうで、泣いている人もいました。何人かは学校の横の瓦礫の上に立って、レンガを除けていました。とても現実とは思えない光景でした」

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約10万トンの瓦礫が小学校と近隣の民家を直撃した PA ARCHIVE/PA ARCHIVE

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墓地で事故による144人の犠牲者を悼む葬儀の参列者たち HULTON DEUTSCH VIA GETTY IMAGES

半世紀が経った今も、事故で失われた人々の記憶は愛する人たちの中に残っている。

ブラウンさんは語る。「どの部屋にも写真が置いてあります。時々、夜になるとどれか一枚をベッドの脇に置いて、それにさわって、『おやすみなさい』って言うんです。

いつだって心の中にいるんです、そうでしょう? 子供たちが大きくなって、たくさんの素晴らしい出来事があっただろうなと心に描き、あの子はどんな大人になっていたんだろうって考えるんです。あの娘はいま何をしていただろうって」

ハフポストUK版より翻訳・加筆しました。

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