消費増税前の駆け込み需要で、景気が再加速?【争点:アベノミクス】

消費増税まえの駆け込み需要などで、国内経済が再加速しそうだ。景気が政府はこの先の経済動向をかなり強気に見ている。「駆け込み以外にもプラス要因が働く」--。内閣府幹部が強調するのは、アベノミクスによる様々な効果だ。
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Reuters

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内閣府が14日に発表した7─9月期国内総生産(GDP)は年率で2%弱の成長となり、アベノミクス始動後の4%成長から減速した。だが、2013年度内は消費増税前の駆け込み需要や雇用・所得環境の改善を背景に再加速する可能性が高い。

問題は来年4月以降の需要反動減だが、政府はアベノミクスの累積的な効果によって、景気の谷が小さくなると強気の見通しを展開している。ただ、外需や賃上げの動向次第では、その見通しが「楽観的」と批判される事態に直面するリスクも残っている。

<政府は、駆け込み以外のプラス要因に期待>

7─9月GDP1次速報で成長率が減速したとはいえ、政府も民間調査機関でも、直近2四半期の成長が高過ぎ、一時的な減速と受け止めている。今後は成長率が再び高まると見ているが、そのエンジンは来年4月からの消費増税前に出てくる駆け込み需要だ。

政府はこの先の経済動向をかなり強気に見ている。「駆け込み以外にもプラス要因が働く」--。内閣府幹部が強調するのは、アベノミクスによる様々な効果だ。

第1に、所得・雇用環境の改善が後押し材料になると指摘する。冬のボーナスの増加や最近の雇用者増加の影響は、早くも景気ウォッチャー調査の結果にも出てきており「年末年始の宿泊はほぼ満室。宴会も忘年会の需要が好調」(近畿地方の都市型ホテル)といった事例もある。

さらに、アベノミクスを起点にした株価上昇などによる資産効果の蓄積で、消費の底上げは続きそうだと予想している。実際、百貨店などにおける高額品の売れ行きも、一時の勢いはなくなったとはいえ、ある程度持続している。

もう1つは、円安効果で収益増加を果たした製造業からの設備投資がようやく回復の動きを見せ始めた点だ。出遅れ感のあった製造業からの機械受注は7─9月期に続き、10─12月期も増加を続ける見通しとなっている。

こうした見方は、民間調査機関でもある程度共有されている。第一生命経済研究所・主席エコノミストの新家義貴氏も「雇用の改善が明確化しつつあることに加え、冬のボーナスも明確な増加が見込まれ、所得面での改善も期待できる。加えて、先行きは消費税率引き上げ前の駆け込み需要の顕在化も予想されることを考えると、10─12月期の個人消費は、再び伸びを高める可能性が高い」としている。

<谷と山、平準化の観測も>

所得環境の改善や、設備投資の動意がうかがえる下で、政府部内には消費増税後の谷がさほど深くならないとの楽観的な見方もある。住宅投資や耐久消費財について、影響を回避する各種の政策措置も用意し、政府としては入念な下準備の上で増税を迎えるとの自負があるようだ。

このため、「前回増税時の97年当時よりも影響は平準化される」(政府筋)と予測する声も出ている。前回は増税時の4─6月期に、民間消費や住宅投資の反動減を主因に、実質成長率は年率3.7%も落ち込んだ。

今回、住宅投資に関しては、9月末までの契約なら現行の5%の消費時税率が適用され、先行的に駆け込み需要が発生。この先はいったん減速が予想されている。

それでも政府部内には、来年の増税後の減税措置がすでに用意され、土地や住宅価格、金利の先高観があることや、雇用・所得環境の改善などで、再び需要が出てくる可能性に注目する見方がある。

さらに、人出不足によって契約から着工までの時間が通常より長くなれば、影響が平準化されることにつながるとの読みもある。

こうした点を踏まえ、住宅用の家具や家電といった耐久消費財も、息の長い需要につながるという展望を政府関係者は打ち立てている。

<景気の先行き、カギ握る在庫投資の動向>

政策当局にとって、増税後の谷を早めに読み込み、政策対応の必要性を判断しなければならないが、そのカギとして在庫投資の動きが浮上しそうだ。

7─9月期のGDPでは、民間在庫投資の寄与度が民間需要の伸びのほとんどを占めた。駆け込み需要に備えた在庫の積み増しが表れたと言える。

一方、来年1─3月期は増税時の需要落ち込みに備え、企業はいったん在庫を落とすことになる。焦点となるのは、4─6月期の在庫が再び膨らむのか、落ちたままとなるかだ。

「需要の回復が早いと企業がみれば、4─6月期に積み増しが始まるはず」と、内閣府幹部は、前向きの循環が再開することに強い期待感をにじませている。

前回の消費増税局面では、増税直前の1997年1─3月期に民間在庫投資は年率換算で3%程度GDPを押し下げたが、4─6月期には3%程度押し上げる効果を出した実績がある。政府はこのときのデータも根拠に、回復力を測ろうとしている。

その在庫投資の立ち直りを左右するのは、増税分で目減りする所得の落ち込みをカバーできる賃金増加が実現するのか、内需から外需へのバトンタッチができるか、という点だ。この2点について、不透明感は晴れておらず、7─9月期GDPの結果を見ても、不安はむしろ膨らんだと指摘する声が、民間エコノミストから出ている。

みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「駆け込み需要の反動が来年4─6月期を中心に出てくる。それにとどまらず、輸出の伸びが力強さを欠いて景気回復のけん引役が不在ということになると、景気の下振れリスクは大きくなる」と懸念を隠さない。

政府の強気な成長見通しが実現するのか、それとも一部の民間エコノミストの指摘が的中し、アベノミクスが正念場を迎えるのか。まずは年末から年明けにかけての新興国を中心にした外需動向が、大きなカギを握っていそうだ。

(中川泉 編集:田巻一彦)

[東京 14日 ロイター]

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