アベノミクスの恩恵を受けたのは株式投資をした人だけ?家計金融資産増加の実情
量的緩和で供給された現金は金融機関に滞留しているが、株高によって金融商品の時価総額は膨らんでいる。最新の資金循環統計は日本のこのような現状を浮き彫りにしている。
日銀は9月19日、2013年4~6月期の資金循環統計速報を発表した。それによると、6月末時点において家計が保有する金融資産残高は1590兆円となり、前年同月末比で5.0%の増加となった。
増加分の多くはアベノミクスに対する期待で上昇した株式によるものである。株式・出資金の残高は31.4%増えて129兆円に、投資信託の残高は29.1%増えて72兆円となっているが、これに対して現金・預金は2.0%増にとどまっている。同じ期間で日経平均株価が50%程度上昇していることを考えると、これはうなずける数字だ。
現金・預金の残高は860兆円となっており、総資産に占める現預金の割合は相変わらず高い。株式評価額の上昇でリスク資産の比率そのものは上昇したが、以前から保有している株式の値上がりであり、貯蓄から投資へとお金が流れているわけではない。
家計の現預金はそれほど増えていないが、量的緩和策の影響で、金融機関には日銀から大量の現金が流れ込んでいる。だが金融機関から企業への貸出は682兆円と4%しか増えていない。唯一増加しているのは外国証券投資くらいである。日銀による量的緩和策によって日銀の当座預金残高は増えているが、資金が金融機関に滞留し、融資には回っていないという状況があらためて確認された形だ。
整理すると、家計の金融資産は増加しているものの、その多くは株式評価額の増加によるものであり、所得の増加ではない。また、日銀から供給された資金は、金融機関に滞留し、市中に十分に出回っている状況ではない、といったところになるだろうか。今のところは、株式などのリスク資産を保有できる層のみがアベノミクスの恩恵を受けている構図といえるだろう。
アベノミクスによるインフレ期待から株価は順調に上昇した。何度も言い尽くされていることだが、今後は醸成されたインフレ期待をどのようにして実体経済に波及させ、経済成長に結びつけるのかが課題となってくる。残念ながらその見通しはまだ明確になっていない。
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