「アベノミクス」とは国民窮乏化施策なのか?

いうまでもない事であるが、「アベノミクス」の成否は日本という国家や日本国民の将来に大きな影響を与える事となる。しかしながら、その割にはマスコミも含め「アベノミクス」の中身や現状を理解しようとはしていない。
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Reuters

一昨日、ハフィントンポスト経由「「アベノミクス」とは結局何だったのか?」を公開した。いうまでもない事であるが、「アベノミクス」の成否は日本という国家や日本国民の将来に大きな影響を与える事となる。しかしながら、その割にはマスコミも含め「アベノミクス」の中身や現状を理解しようとはしていない。物事に正面から対峙し、考える事を忌避するのは最早日本人の痼疾といって良いだろう。懸る問題意識から、このテーマでの論考を試みたものである。

今回内閣府が公表した、2014年4~6月期のGDP関連数字を見る限り、大不況が日本経済に迫って来ていると感じるのは至って自然な現象である。しかしながら、国内マスコミの反応は極めて鈍い。一例として日経新聞の、景気、緩やか回復続く 7~9月4%成長予測を参照する。何も 国内マスコミは国民の不安を煽るべきだと主張したい訳ではない。しかしながら、根拠のない楽観論は国民をミスリードすると危惧する。

4~6月に前期比5.0%減となった個人消費は7~9月に1.6%、10~12月に0.6%の伸びを確保しそうだ。消費増税と物価上昇で実質賃金は前年割れが続くが、夏のボーナス増や大企業を中心とした賃上げ、人手不足による時給の上昇で所得環境は徐々に改善する見通し。

企業業績は底堅く、4~6月に2.5%減った設備投資は7~9月以降、再び増加が予想される。日本政策投資銀行によると14年度の設備投資計画は前年度比15.1%増と、24年ぶりの高い伸びを示した。野村証券の木下智夫氏は「今後、非製造業を中心に人手不足に対応した省力化投資などが進む」と分析する。

Bloombergの冷徹な記事

上記日経新聞に代表される国内マスコミの能天気な報道に比べ、Bloombergが一昨日公開した、BOJ Officials Said to Mull Cutting 2014 Growth Forecast は日銀担当官の発言を引用しながら0%台のGDP成長を冷徹に予言している。

The Bank of Japan may cut its growth forecast for this fiscal year for a fourth time, as exports fail to bolster an economy weakened by April's sales-tax increase, according to people familiar with the central bank's discussions.

The expansion for the 12 months through March 2015 is likely to be lower than the 1 percent median forecast of BOJ board members, said the people, who asked not to be named because the talks are private. Growth is likely to be 0.4 percent, according to the median estimate in a survey of 24 economists by Bloomberg News on Aug. 13-14.

減り続ける実質雇用者報酬

安倍首相の公約は「日本に健全な経済成長を取り戻し、長年のデフレに終止符を打つ」というものである。成程長年のデフレに終止符を打つ事には成功し、年率2%程度のインフレを達成した。しかしながら、大幅なGDPの落ち込みが示す様に経済成長には見事に失敗した。

その結果、内閣府が公表した、2014(平成26)年4-6 月期GDP速報(1 次速報値)が示す様に、実質雇用者報酬は確実に減少している。要は日本国民は「アベノミクス」の結果貧しくなったという話である。率直にいってこれでは「アベノミクス」とは国民窮乏化施策と認識せざるを得ない。

[2]雇用者報酬の動向

2014 年4-6 月期の名目雇用者報酬は、前年同期比で1.3%増、季節調整済前期比で0.6%となった。雇用者数、一人当たり賃金がともに増加に寄与したとみられる。

実質雇用者報酬については3、家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃及びFISIM)デフレーターが上昇したことから、前年同期比で▲2.2%、季節調整済前期比で▲1.8%とともにマイナスとなった。

危機に晒される国民生活

「アベノミクス」が国民窮乏化施策であるならば、当然の結果として国民生活は破綻する事になる。この事を具体的に説明するために、以前の記事、サラリーマンは家を買うべきではないで参照した、下記A氏に再度登場して貰う。

「Aさんは30才で夫婦と子供二人の4人家族で生活している。都内の中堅私立大学を卒業後、百貨店に就職し一貫して経理畑を歩んでいる。二人の子供を伸び伸びと育てたいと思い、回りに公園が多い恵まれた住環境に加え、ゆったり広めの3LDKで最寄駅まで徒歩5分なのでタクシーを使う必要がない新築マンションを探し当てた。私鉄に一時間程乗る必要があるが、価格は4千万と何とか手が届きそうなレベルなので、貯蓄した5百万円に長期固定金利型の住宅ローン「フラット35」で残りの3千5百万円を調達し購入する予定だ」

実質雇用者報酬が減少すれば、従来購入出来ていた商品も高くて買えなくなる。従って、国民の消費は縮小せざるを得ない。消費はどうしても必要なものに限定され、しかも量販店やECの様な低価格で購入可能な商流に消費者は移動する事になる。従って、Aさんが勤務する百貨店に未来はなく、遅かれ早かれ破綻するか?前もって廃業するか?くらいしか選択はない。その結果、Aさんは収入の道を失う事になってしまう。

失業者となったAさんに取って住宅ローンの返済は重荷というか不可能となる。そういう状況であれば、売却して一括返済をしたいところであるが、日本経済が大不況に突入してしまっては不動産市場も土砂降り状態となり半値でも売れない。金融機関による強制的な競売の結果それでも多額の借財が残り、自己破産か?自殺か?といったところまで追い詰められる展開になるに違いない。

それでも「フラット35」優遇延長を止めない国土交通省の狂気

日経新聞が伝えるところでは、「フラット35」優遇延長 国交省 住宅着工 上期4年ぶり減で との事である。「アベノミクス」が国民窮乏化施策であるなら、「フラット35」を利用して住宅を購入した国民は早晩Aさん同様の地獄を見る事になる。こんな簡単な事が分っていて、何故国土交通省は「フラット35」優遇延長を止めないのか?

住宅メーカーは、その後購入者が自己破産に追い詰められようが、或いは一家離散に追い込まれようが知った事ではない。物件を販売した時点で100%代金を回収するからである。一方、国土交通省は天下り先の多さで他省庁の羨望の的である。こうやって、住宅メーカーにちゃっかり恩を売る事で見合いの天下り先を確保しているのであろう。

国土交通省に取っては天下り先確保という省益が全てで、国民がどうなろうと知った事ではないという実に分り易い話である。ここで問題なのは、安倍政権が進める「アベノミクス」にも、これと連動して国土交通省が推進する「フラット35」優遇延長にも、日本国民の幸せが全く見えて来ない点である。