[東京 21日 ロイター] - 過激組織「イスラム国」を名乗るグループが日本人2人を人質にとり、殺害を警告する事件が発生した。しかし、世界の安全保障における日本の役割を拡大するという安倍晋三首相が掲げる政策は揺るがず、逆に人質事件をきっかけとして、首相の信念はますます強まる可能性がある。
犯行グループは20日、邦人2人が映ったビデオ映像を公開。72時間以内に身代金2億ドル(約236億円)を支払わなければ殺害すると警告した。この2億ドルという身代金は、中東歴訪中だった安倍首相が17日、「イスラム国」対策として約束した非軍事支援金と同額だ。
首相は犯行グループを強く非難。人質解放に向けて全力を尽くすことを約束する一方で、「日本はテロリズムには決して屈しない」とも強調。事件でも日本の外交政策は変えないとの姿勢をあくまでも貫いた。
自民党の原田義昭議員はロイターに対し、人質事件が日本の外交に影響を及ぼすとは思わないと指摘。首相の性格を踏まえると、首相がひるんだり、考えを軟化させたりするとは考えにくい、と述べた。
<限られる選択肢>
人質事件は安倍首相にとって大きな試練であり、その手腕を世界が注目しているが、一方で選択肢はごく限られているという現実がある。
自衛隊が救出作戦を実行することはそもそも違憲。犯人の要求通りに身代金を支払えば、「テロリストとは交渉しない」との立場から、身代金の支払いを拒否してきた米国との関係が冷え込む可能性がある。
2013年1月のアルジェリア邦人人質事件は、自衛隊による海外活動の制限緩和を主張する保守派の議論が勢いづくきっかけとなった。
<世論二極化も>
人質が殺害されたとしても、世論が首相の責任を問う流れになることはないとみられる。ただ首相がなぜ、「イスラム国」と戦っている諸国をわざわざ選んで支援表明したのか、疑問が浮上する可能性は高い。
今回の事件は、日本が積極的な外交・安保スタンスをとることに伴うリスクを国民に実感させた。上智大学の中野晃一教授は、「他国の戦争に関与するとろくなことにはならない」とする世論がある一方で「テロとの戦いにもっと積極的に関わるべき」との意見もあると指摘。事件をきっかけに、世論の二極化が一段と進むことは避けられそうにない。
日本政府は昨年、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更を閣議決定。安倍首相は関連法案の国会可決を目指している。ただし、国会への関連法案提出は、地方選が控える4月以降になるとみられている。
テンプル大学ジャパンキャンパスのアジア研究学科ディレクター、ジェフリー・ キングストン教授は、集団的自衛権をめぐる協議が始まれば、人質問題があらためて取り上げられるだろう、と指摘する。
安倍首相をよく知る人々は、首相はあくまでも前進するという道を選択する、と見ている。政治評論家の森田実氏は、日本は平和主義をつらぬき危険な状況に巻き込まれるべきではない、という意見は少数派になると指摘。「安倍首相は自分の信念を強固にするだろう」と語った。
(Linda Sieg記者 翻訳:吉川彩 編集:加藤京子)
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