日本は戦後、近代化と繁栄への道を切り拓いてきたアジアで最初の国だ。しかし、世界経済では上位に入る、その優れた産業の技術と影響力の割には、未だにアメリカの保護国にとどまり、政治的には弱い国だ。連合国に降伏して70年が経った今、日本は再アジア化を始め、完全な主権国家として真価を発揮する時が来ている。
現在のアジアはもちろん、20世紀の初期と中期に大日本帝国が近隣の弱小国家を侵略し、植民地化を通じて支配していた時とは違う。これはかつてなかったことだが、中国と日本は同時に、2つの大きな国家として存在している。
日本が将来、この新しい近隣諸国との関係に「普通の国家」として再び仲間入りするためには、まず過去との折り合いをつけなければならない。安倍晋三首相がアメリカから押し付けられた平和憲法の改正を目指すなか、何が挑発的な行為に見えるかと言えば、主権国家として普通に軍事力を派遣できるという控えめな利益のためではなく、日本が公式に反省を表明したがらないことが、韓国のような民主国家も含め、近隣諸国を納得させるものには至っていないという事実によるものだ。安倍首相は賢明にも、戦没した英霊が祀られている靖国神社の参拝を避けてきたが、2013年に参拝した時のイメージはアジア地域の人々の心に深く刻まれている。
日本社会は過去70年にわたって明らかに平和的であったが、アジアでの戦争の傷跡は今も生々しいままである。アジアの近代的な国民国家のアイデンティティーの確立に関わる問題だからだ。シンガポールから、韓国、中国まで、現在のこれらの国の政治機関はすべて、日本とその植民地主義に抵抗した人々によって作られている。例を一つ上げると、今は亡きシンガポールの政治家、リー・クアンユーは、よくアジア地域の心情を吐露してきた。その現実的な政治スタンスで知られる同氏は、かつて私に日本に再武装を許すことは、「治療中のアルコール依存症の人に酒を飲ますようなもの」と話した。
日本の再アジア化は、かつての敵国と実際に協力していくことに加え、成熟した世代と、感情的な適応力が必要になる。安倍首相が今、始めるべきは、日本の植民地主義と侵略に対する追悼と謝罪の大胆なジェスチャーを示して、憲法の改正にあたることである。
私が2015年3月に東京に滞在していた時、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が東京を訪れた。メルケル首相が安倍首相に忠告した内容は、1世紀の間に2つの破滅的な戦争で苦しんだ大陸を平和的に統合することを可能にしたのは、ドイツによる反省で、それがどのようなものであったかを説得力を持って示したことだった。
旧西ドイツのヴィリー・ブラント元首相が1970年、ポーランドの首都ワルシャワのユダヤ人ゲットー跡地でひざまずいて涙した時、彼は自身の国に屈辱を与えたのではなく、自身の国の名誉を回復させていたのだ。ブラント元首相は自らの回顧録で、「ドイツの歴史の深淵の縁に立ち、何百万人もの殺人の重みを感じていました。私は何も言葉を発する事が出来ない時に、誰もがすることをしたのです」と話した。
歴史的に日本に傷つけられた人々への謝罪と、日本の国粋主義者を立腹させないことを目的とした、耐え難いほどに苦労して作り上げられたフレーズよりも(それは故に全く説得力がない)、シンプルで正直なブラント元首相のようなジェスチャーの方が多くを語り、やがて凍り付いた感情を溶かすだろう。
これらのことでは中国のような国の頑固な姿勢を崩すことはできないであろう。日本に過去との折り合いをつけるように要求している中国は、自国の大躍進政策の時に起きた飢饉や天安門事件を認めることは避けている。
日本が失敗した場合の代償は大きい。日本を前線に置く形で、世界はブロック圏システムに再び分かれていこうとする瀬戸際にある。アメリカは東アジアでの支配的な役割から後退することや、その役割を中国に委ねることを嫌がっている。復活した中華帝国は、独自の安保体制や、取引ルート、財政と通貨の取り決めの独自の代替システムを構築している。
安倍首相が今春にワシントンを訪れた時、オバマ大統領と中国を締め出す形で環太平洋経済連携協定(TPP)を成立させようとしたことは、日米両国を誤った道に導く大きな間違いだ、と船橋洋一氏は指摘している。
交渉中のTPP協定から中国を締め出すことは大きな間違いです。TPPに中国を含めることは、おそらく後になって「改革開放」政策を支持する人々を後押しすることになるでしょう。これらの人々は、中国の軍部やその他で、成長しつつある国家主義の勢力に対峙します。
TPP参加の条件として、中国に国有企業の役割を減らすように促します。このことで、中国が「中所得国の罠」に陥ることを避ける一助になるほか、「平和的台頭」を支持し、非生産的で攻撃的な行為に反対する中流階層の成長を強化できます。
これが中国との間に架ける最も重要な戦略の橋です。一番大きな抑止力となります。
中国としては、東アジアのビジョンを受け入れなくてはならない。それは、アメリカは東アジアを支配しているのではなく、安定させている役割を果たしているというものだ。1904年から1905年までに起こった日露戦争で、アメリカ大統領のセオドア・ルーズベルトは紛争を調停したことでノーベル平和賞を受賞した。そして、その東アジアのビジョンの下で、日本は自らの安全保障に自身を持つことになっている。日本とアメリカの両国は、シンガポールのジョージ・ヨー前外相の「残りのアジアはアメリカの同盟国かもしれないが、絶対に中国の敵ではない」という言葉を理解しなければならない。これはヨーロッパとの大西洋憲章の考えに似た、ズビグネフ・ブレジンスキーの「太平洋憲章」の考え方で、真摯に受け止めなければならない。
中国が強い関心を払っている第2次世界大戦終戦70周年の節目に、日本が何を実施するかは、これからの時代が対立か、あるいは、協力かを決める重要なファクターになるだろう。
安倍首相がブラント元首相と同じ道をたどるとは考えにくい。この歴史的な瞬間での日本の選択次第で、過去の罪に対して誤って向かい合って、アジア地域の緊張を一気に高めてしまうだろう。あるいは、真っ正面から歴史の事実と向き合うことができれば、過去を乗り越えてアジア全体に明るい未来をもたらすであろう。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
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